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sss石田兄-後-

続き物、後





とは言え、家へ戻ったところで何一つ手につきませんでした。

武芸にも身が入らず、兵法の書を開けばあの赤子が己を苛むのです。
泣いた筈などないのに、おぎゃあおぎゃあと泣くのです。
私は心を病みました。
何もかも信じられずにおりました。


…そんな奴は武将じゃない、国主と呼べるはずもないと仰いますか。
そうで御座いましょうな。
初めから貴方様のような御方に仕えていれば、私は片倉殿のような家臣の鑑で居られたのでしょう。
しかし筆頭、あの男は武将と呼ばれる男でした。
私は臣下で、あれは国主で、我等は紛れもなく武人であったのです。


己の出自に腐る私をすくい上げたのは、その年に産まれた弟でした。


「石田三成か」
「はい。私は嫡男でしたが、私の後に子はなく、故に己のきょうだいを見たのは三成が初めで御座います」


色の白いややで御座いました。
私と同じ銀の髪が大きな頭のてっぺんに、申し訳程度にふわふわと乗っておりました。
涙に潤む瞳も私と同じ色でありました。
恐る恐る伸ばした指を紅葉のような手に握られた途端、涙がとめどなく流れたので御座います。


女の顔が浮かびました、裂かれた腹からはみ出す脂肪が浮かびました、腹からこぼれたややが浮かびました、夫の目が浮かびました、兄の悲鳴が、ややの泣き声が、血の臭いが主の笑い声が己の泣き声がぐるぐると渦を巻き、やがて収束し私の目の前がぱちりと弾けたので御座います。


「愛おしさに押し潰されそうで御座いました。この子は私が護らねばならぬと思いました。そうして同時に、如何なる理由の下であれ人を殺すことは悪いことであると、唐突にですが気が付いてしまったのです」


片倉殿、伊達に忍んだ草に情けはお掛けになりますか。

…掛けるわけがない、そう、それが当たり前で御座います。

草を逃せば殺されるのは此方です。
人が人を殺すことが当たり前、当然だ、仕方ない…今はそう言う世で御座います。
しかし私は狂ってしまいました。
そう思うこの世が間違いだと思ってしまったので御座います。
だからと言って治せるかと問われれば、今すぐには無理でしょう。
何十何百年後になるのかは判りませぬが、身分の差も戦も無い、人が人の血で掌を汚すことのない世を作る、その為だけに私は働いております。


「伊達政宗公、貴方様は天下を御取りになられるでしょう。民に優しく、人に優しく、強い貴方様は、私の望む世に日ノ本を導く。何故伊達に下ったか、豊臣よりも貴方様の理想が私の理想と近しかったからに他なりませぬ。貴方様が貴方様で在る限り、私が伊達を裏切る事はありませぬ。その代わり、」


理想を違え、私を裏切ることも許しませぬ。


夕の刻から話通しだったからか、影信の声はざらざらと耳障りである。
獰猛な光を宿す影信の双眸に囚われ、成る程彼は寸分違わず石田三成の兄なのだと政宗は納得した。


「I see.要するにあんたは俺が大好きなんだろ」
「政宗様、恐れながらそれは……」
「まあ、言ってしまえばそのようなもので御座います」


それで良いのかと呆れる伊達の腹心に、影信は軽く相槌を打つ。


「私は貴方様の生き様に惚れたのです。大好きという言葉も、あながち間違いではありますまい」


大好きでは少し拙く聞こえますが。
そう柔らかく微笑む影信に、政宗は目許をゆるりと緩ませた。

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sss石田兄-中-

続き物、中
※捏造、グロテスク描写有り




「筆頭はややこを御覧になったことは御有りですか」


小十郎の淹れた茶を片手に政宗は眉を寄せる。
ややことは赤子だ。
見たことがあるかと問われれば、答えは是である。
城内では中々眼にすることがないが、お忍びで訪れる城下では良く親が子をあやす姿が見られた。
小さい命だ。
手も指もどこもかしこも小さく柔らかい。
頷く政宗に影信は微笑み、ではややこを見る為に女の腹を裂いたことは有りますか、と。
柔らかい微笑はそのままにおぞましいことを口にした。


「そんな事したら、やや諸共親も死んじまうだろうが」


呆れたように小十郎が言う。
政宗は内心頷きつつ影信を眺める。
影信は何を言いたいのだろう。
昔話をしようと語り出した男の志とは、一体何なのか。
出された茶菓子を割り口へ放る。
思っていたより甘ったるい。
政宗は茶を啜り影信を促した。


「片倉殿の仰る通り、ややも女も死にました」


つまらない話になりますが。
そう前置き、影信はぽつぽつと話し始める。


私が十三の事で御座います。
小姓として仕えに出された家の主は、大層乱暴な男でありました。
見目がよいからと召し抱えられ、色小として寝所で飼われることと相成りました。
しかし間もなく私は上背が伸び、骨が頑丈になり、主好みの細く華奢な体格ではなくなってしまったので、十五の折りに寝所のお役は御免になりました。
その後は武を買われ、身辺の警護など当たり障りのない任を与えられましたが、色の役を終え、幾日か経ったある日のことで御座います。


山道を散策する主の前へ、身ごもった女が引き立てられたのです。
女は年若く、私と同等か二つ三つ上の様に見えました。
可愛らしい顔に浮かんだ恐れの色は、未だ私の中で色づいております。


主は柔らかい声音で何時産まれるのかと女に問いました。
茹だるような暑さの中であると言うのに、女はかたかたと震えながらあと一月ほどで御座いますと答えました。
蝉の鳴き声を背に主は笑いながら刀を抜き、女の丸い腹を裂いたので御座います。

暑い日で御座いました。
吹き上がった赤い血が熱せられ、瞬く間に辺りは惨状となりました。
情けのない話で御座いますが、私は嘔吐を抑えながらその場から動けずに居りました。
主が刀で女の腹を探りました。
濃い血の臭いが鼻を刺す中、女の腹から肉の塊がずるりと出たので御座います。
赤黒い血に染まった赤黒いややは、不完全ながら我らと同じ人の形をしておりました。


人の形で御座います。


指があり、脚があり、頭は大きく目も閉じておりましたが、紛れもなくそれは人で御座いました。
私は目を剥いて主を見ました。
主は笑っておりました。


騒ぎに駆けつけた女の夫は変わり果てた妻と子の亡骸を胸に抱き、唖然とした顔で主を見上げておりました。
その男は城で働く下男で、私も何度か顔を合わせたことが御座いました。
男は唇を噛むと血が流れるのもそのままに、何も言わず主へ平伏したので御座います。
主は尚も笑ったまま、今度は男を切りました。
目つきが気に入らぬ、ただそれだけの理由で御座います。
私はぼんやりと夫婦を眺めておりました。
ややあって小さな子が金切り声を上げ夫婦にすがりつきました。
幼い兄は弟妹になるはずだった肉の塊を撫で、主へ石を投げました。
血の臭いに酔ったのでしょう、主は子供の身体を生きたまま切り刻みました。
惨事に背を向けた小姓の何人かもその場で殺されてしまいました。
土も木も空も視界も深紅に塗りつぶされた私を振り返り、主は笑うよう命じました。


背後に控える重臣は何も言いません。
諫めることもせず、ただ目を逸らすばかりでありました。


下を見れば、先ほどまで笑い合っていた友だった者達が転がっております。
横を見れば、数刻前まで幸せそうに笑っていたであろう家族が、生まれてくるはずだった命が、私を光のない虚ろな目で見ておりました。
私は笑いました。
そうして壊れてしまいました。
私はもう、主君や家臣と言う物が信じられなくなってしまったので御座います。


「それまでは人並みに忠義や矜持など持ち合わせておりましたが、笑ってしまったあの日を境に、全てが全てぽきりと折れてしまったので御座います」


仕えた主が悪かった、そう仰られるのでしょうが。
影信は冷めてしまった茶を流し込み、暮れゆく空の色を見やった。
影信の瞳に光はない。
まるで話に出たややのようだと政宗は思った。


「それから直ぐに私は暇を願いました。主はとうに私に飽いていたのでしょう。願いは聞き入れられ、私は石田の家へと戻ったので御座います」

sss石田兄-前-

続き物、前




武家とは何か。
武人とは何か。
いくら頭を抱えたところで、抱いてしまった猜疑への答えはまだ出せそうになかった。


伊達に召し抱えられ幾月が経ったのか定かではない夏のとある日、石田影信は今の主である伊達政宗を背に貼り付け文机へと向かっていた。
外様の敗将に与えられるには少し広い室の隅で、右目と名高い片倉小十郎が鋭い双眸を光らせ影信の一挙一動を見張っている。
婆裟羅者の端くれとは言え丸腰の己が、刀を帯びた一騎当千を二人も相手取り一体何が出来るというのか。
影信が浮かべた苦笑は背の主に目敏く悟られる。
政務に区切りが付いたと思われたのだろう。
異国語でちょっかいを出され、影信は筆を置かざるを得ず溜め息を吐いた。


政宗は室の隅から膝を乗り出した右目と共に影信の記した書を読み、満足げに口笛を吹く。
影信の治水と治山についての発案は悪くなく、少し手を加えれば今からでも着工出来るであろうと思われた。
気紛れな思い付きでやらせてみたが、なかなかどうして良い拾い物になった。


「流石に仕事が早ェな」
「豊臣でも似たような物を手掛けておりました故」
「Huh、そりゃいい」


なぁ、小十郎。
政宗の軽い呼び掛けに眉を潜め、小十郎は影信をひたりと見据えた。


今こそはこうして大人しく従属しているが、本を正せば石田影信は豊臣の重臣中の重臣。
竹中黒田の両兵衛を補佐し、秀吉にも重宝されたと聞く。
豊臣亡き後、政宗が戦場で捕らえた影信は酷くあっさりと伊達へ下った。
主君や盟友を亡くしたとは思えぬ潔さで西軍を纏め、大きな人の群で政宗の下へと頭を垂れたのだ。
主の仇を討つ気配すら見えぬ男は、いっそ不気味である。
何時破裂するか判らない火薬玉のような存在、それが小十郎にとっての影信であった。


「前に話しただろ、アンタにも政に関わってもらうってな」
「有り難き幸せなれど、政は一軍の連帯。私のような者を入れたとあらば、伊達の方々が良い顔をしますまい」
「アンタの才は捨てるに惜しい。なに、ちょいと力を貸してくれりゃあいいんだ」
「しかしながら政宗様、石田の言葉も尤もなことなれば」
「Ha、心ん中じゃお前も勿体無ェと思ってんだろうが」
「は…、幾許かは。なれど石田が豊臣方であったことは事実、努々お忘れ無きよう」
「Let bygones be bygones.昔をどうこう言ったって仕方がねェ、今此奴は俺のモンだ。それ以外に何が要る?」


苦虫を十匹程噛み潰したような小十郎の返答に政宗の唇が弧を描き、隻眼が細められる。
影信は小十郎の渋面を労るように微笑み、政宗へと視線を寄せた。
小十郎の心配はは尤もである。
影信に忠義はない。
有るとすれば、泰平へ向ける狂おしいほどの執着である。


「信じてくれとは言いませぬが、筆頭と私の生在る限り裏切ることはないとお考え下さりませ」
「何故そう言いきれる」
「何故…そうですね。志の為に他なりません」
「志だと?」
「面白そうじゃねぇか。話して見ろよ、お前の志ってヤツをな」


耳を傾ける双竜に、影信は訥々と語り出した。


「昔の話で御座います」


明かり取りの窓の向こう。
茜に燃える空を滑る烏が、寂しげな声で鳴いていた。




わくわくが

止まらない…!


ついに明日から上京です。
ついては手持ち鞄どうしようか悩んでます。
丈夫で沢山入って…今使ってるのが一番なんですが…
使い込んだ鞄の取っ手がボロボロなので、ビニールテープで補強して持って行こうかなと言ったら小学生の従姉妹から大ブーイング喰らいました。


「みすぼらしいから止めて!!一緒にあるく人が可哀想だよ!!」


ソウデスネ…(TДT)
今必死こいて鞄探してます。



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