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sss

※後半そこはかとなくエロス、小十×主





お気楽なものだとはもはや言われ慣れた。俺は向けられた罵りをはぐらかし、苦く笑って誤魔化すしかない。放っておけと切り捨てて何も知らない振りをする。


「緩んでるな」


軽く叩かれた額がじわりと熱を持った。叩いた当人の小十郎はつまらなそうな表情で此方を眺めている。間抜けな音で問い返す俺に、小十郎は溜め息を吐き指で額を二三度小突く。


「顔だ顔、とろけてんぞ」
「…そんな緩んでた?」
「見るに耐えねえぐらいにな」
「そりゃ酷い面だったんだろうな」
「何か良いことでもあったのか」


隣に落ち着いた小十郎が差し出す湯飲みを受け取り熱い茶を啜る。別に良いことなど無いと呟けば、凛々しい眉が怪訝そうにしかめられた。何もないのに何故笑うのか。尋ねられたが答えられなかった。何故などと聞かれても、解らない。


「癖になってんだろうな」
「癖、だと」
「そう、癖」


朗らかに笑っていれば後は楽だった。怒りや悲しみ、喜びを大袈裟な程外へ出してしまえば、周りは俺を気味悪がったりしない。冷たさしか伝えぬ顔立ちをしている俺が、何事もなく時を過ごすための処世術として身につけた防護壁である。数えるのも面倒になる位年を重ねた身体に染み付いた、癖。


「わざとらしかっただろ」


好意を示す笑みをへらりと浮かべると、それまで考え込んでいた小十郎の手が頬へと伸ばされた。骨張った太い指が柔らかめの肉を摘み、左右に引く。食い込む爪に手足をばたつかせるものの、小十郎を退かせることは出来なかった。


「違うな」
「何が」
「さっきの間抜け面はその顔じゃねえ」


じくじくと痛む顔の両側を挟まれ、小十郎の瞳がひたりと据えられる。焦げ茶の虹彩に映り込む俺の顔は、困ったような表情をしていた。


「何年俺がお前を見てたと思ってやがる。幸福そうな面かそうじゃねえ作り笑顔かぐらい見分けられねえ訳がねえだろうが」
「…幸、福」
「端から聞いてんだろ、何か良いことでもあったのか・ってな」
「幸福そうな顔、してたのか」
「ああ」


伸ばした腿の上で胡座をかく男の体重が命の流れをせき止める。血液が上手く循環しない。痺れ始めた脚を早々に諦め、俺は背を畳へと倒す。ここに鏡が有ればいいのにと心から思った。そうすればどんなふやけた間抜け面をしているのか判るのだが。


「たぶん小十郎が居るからじゃないか」
「腑抜けも悪くないが、たまにはまともな姿を見せたらどうだ」
「そうしたら俺は引く手数多だぞ。老若男女そろいもそろって虜になっちまうんだからな」
「だろうな」


意地の悪い極悪面が尻の置き場を腿から腰へとずり上げ、着流しの裾を割る。肩に置かれた両手はぎちりと肉を掴んでいる。上屈みになった男は己の唇をいとも易々と攫って、それから妙に艶やかな笑みをこぼした。


「選べばいいだろう。もっとも…他に選べるものなら、な」


着々と剥かれていく自身に苦笑が落ちた。小十郎は一から十まで正しい事を言う。俺は俺へと向けられる誰の手も取ることが出来ないだろう。肌に触れる薄いくちびるの質感が気持ちいい。普段通りに身体を入れ替えようとしたが、いつにない無言の抵抗を喰らって首を傾げた。胸に舌が這う。ぬるぬるとした厚い肉が蛞蝓のように突起を嬲る。


「ちょ、小十郎!」
「たまにはいいだろ」
「…この、体勢は」
「突っ込ませろ」
「今日はいやに露骨だな」
「気分だ」
「どういう気分だよ…」


脇腹を撫でられ背がしなる。耳たぶに齧り付いた小十郎は撫でつけられた髪をくしゃりと崩し、ゆるりと笑った。


「てめぇが俺以外に尻尾振らねえよう教え込んで躾てやるから安心しろ」


ちっとも安心できねぇよ。ぶつけようとした文句ごと口内を蹂躙され、息が上がる。後ろを使った経験はほぼ皆無なので正直不安だが、のしかかる男を突き飛ばすには相手に惚れ込み過ぎている。


「頼むから優しくしてくれ」
「お前の態度次第だな」


【sweet underground】
(う…っ、ん…何の話、してたっけ)
(…さあな、忘れた)

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sss会話



もっもっもっもっ


「…まだ喰うのか」
「いや、だって美味いし、腹減ったし」
「…ただの握り飯だぞ」
「ただのじゃねぇ!小十郎が作った米で小十郎が握った小十郎の握り飯だぞ!!」
「何で其処に食いつくんだ気持ち悪ぃ…だいたい塩の握り飯だけじゃ持たねえだろ」
「小十郎の味がするから大丈夫」
「いっぺん死ね」
「もう一個食べたい」
「…ったく、止めておけ、腹壊すぞ」
「そう言いながら握ってくれるお前を愛してる」
「な…!ばか!!黙って食え!」
「おぐっ!?」
「それ食って待ってろ、今ねぎぬたとキンピラ持ってきてやる」
「むー」


もっもっもっもっ


*******************
小十郎のおにぎり食べたい。

sss






優しげな微笑みなど見たくない。


小十郎は額の汗を拭い、木陰で微笑う美しい男を見遣った。男の隣にもう一人、紅い髪の忍を見付け舌打つ。風の悪魔が、何故、あの場にいるのだろう。数年前まであの美しい男の隣、あの場所は、己の場所だった。己と幼き主である梵天丸が、ひたむきな愛情を真っ直ぐに注がれていたのだ。それが、何故。


慰めを見いだそうと足を向けた畑に咲く、狂い梅の花弁がはらりと舞う。白い雪の欠片にも見える花弁からあの男の匂いがした。あれは白梅の好きな男だった。引き締まった体躯にうずめた、まだ年若い己の薄い身体へ移る甘い残り香が、小十郎は嫌いではなかった。側にいて欲しくないときも、反対に心から求めたときも、小十郎の手を取り己の胸へと囲うような男だった。なのに何故、今はそうしてくれぬのか。求めている、望んでいる、お前が欲しいと慟哭しているのに、手を取ってはくれぬのか。契りは空言だったのか。

何時の間に強く握っていたのだろう、白梅の枝が小十郎の掌を拒むように傷つけていた。滴る赤に自嘲の笑みを浮かべかる。面白くもないのに笑い声だけが虚しく空へ消えた。何を勘違いしているのだろう。


あの優しく美しい男を突き放したのは、己自身ではないか。


滲む群青に眼を背け、伸ばされた手を振り払い、絶望の淵へと突き落とした。恐ろしかった、何よりも忌まわしくおぞましかった。だから拒んだ。男は笑った。泣きながら無理に微笑んだ。そうして己の前から姿を消した。
もはや手遅れだ。男の口が小十郎の名を呼ぶことはない。大切なものの存在を確かめるように呼ばれた、名。はにかむような笑み、甘く柔らかな声、緩められた双眸、かつて己の者であった男は、今やとても遠い。
手のひらの傷を舐めた。
塩辛く吐き気を催す味に、小十郎は一筋涙をこぼした。




【世界はいつだって優しくない】
(あの忍を消せば己はあれを取り戻せるのか)(俺が悪かったんだ、だから、なぁ、それを返してくれ)(返してくれ)
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