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ぐんないベイベ

※坂田と医者
※わりかし下品
※コピペパロ、中途半端な尻切れトンボ
※飽きたため半端です
















世間で言う男性一般がそう言った映像媒体を好むことは否定しないが、と。
盛大に顔をひきつらせながら、女は乾いた笑いを漏らした。


診療を終えた女が普段通り万事屋で夕飯を済ませようと上がり込むと、何でも屋の主人は風呂の最中だった。
同居人兼従業員の少女は、同じく従業員である少年の家に泊まりらしい。
浴室のドア越しに材料と晩酌用の日本酒を持参である旨を告げれば、男は嬉しげな声で了承の意を返した。
わりーけどついでに着替えとって、と。
頭を洗う男のシルエットに頼まれ、箪笥を漁ればこの様である。
箪笥の奥にぞんざいに仕舞われていたのは、所謂大人のビデオなわけで。
そのラインナップが問題なわけで。


肌色の多いパッケージに飾られているのは、あられもない格好の女性が多数。
男所帯の健康診断で云々、痴女医、性感クリニック、女医を口説いてここまでヤれた、密室調教、麗しき女医の転落…
縛られたり犯されたりと忙しそうな同職の様子に、女は脂汗を流した。

ナース、ナース、女医、教師、女医、女医女医女医女医…
ナースは解る、普段から男が口にするから。
看護婦さん大好きと憚らないあの男らしいではないか。
教師もまぁ、解らないでもない、ような気もする。
けれど、これは、ちょっと、どうなのだろう。
ずいぶんとご機嫌な調子外れの鼻唄が途端に恐ろしいもののように感じられ、青ざめた女はごくりと喉を鳴らす。
別に自意識過剰な訳ではないが、これは、ちょっと、ドン引きせざるを得ない。
いや、いやいやいや落ち着け、自分。
女医なんて、その辺に掃いて捨てるほど居るではないか、男も歩けば女医に当たるし一人見たら三十人は居るしコンパなんかうじゃうじゃ居るし。
あの男の嗜好がなんであれ、己の身に重ねるのは些か早計であり、加えて自意識過剰なのではないだろうか。
あ、自意識過剰って二回言った。
とりあえず着替えを、と。
震えの治まらない手を叱咤しつつ甚平を掴む女の首筋に、ぽつりと水滴が落ちる。


「何してんの」


耳朶を擽る吐息に、女はがちりと固まった。
か細い声で男の名を零せば、赤い目だけが手元に注がれる。
落ち着け、とりあえず落ち着け。
どくどくとうるさい心臓を捩じ伏せながら、失敗しているであろう笑顔を男へと向けた。


「…銀時、これ」


頼むから何でもないと言ってくれ、何でも良い、まさか自分のことだとでも思ってんのかよププーとか、馬鹿にした感じでも良いから。
ほんの僅かな期待にすがる榛色の瞳が写した男の顔は、今まで見たどんな表情よりも差し迫った表情をしていた。
まるで、やべっ見つかっちまったよしかたねーなとでも言い出すが如く。


「ぎっ…銀時がぁ、銀時が怖いぃ!」
「馬鹿おま、誤解だから!誤解だから!」
「銀時に犯されるぅ!」
「やめて!」


噛み合わない歯がガチガチと打ち鳴らされる。
反射的に部屋の隅まで跳ぶように逃げると、全身から冷や汗を吹き出させる男がパンイチで焦っていた。こわい。


「ご、誤解だからねマジ誤解だから!」
「そうなの……?」
「そう、そうだよ当たり前だろーが!」
「じゃああのAV 、銀時のじゃないんだな?」
「持ち主は長谷川さんだから!!まぁ、借りたのは俺なんだけど……」
「犯されるぅ! 銀時に犯されるぅ!」
「ばばばばばばばかやろー!違うっての!」


どーどーと、宥める素振りで近寄るパンイチの男に甚平を放り投げ、女は体を震わせた。
なぜ、よりによって入り口から反対側に逃げてしまったのだろうか。
敷きっぱなしになっている布団に目線を移せば、それに気付いた男がぶんぶかと首を振った。


「あの、銀時も成人男性だから、そういう事に興味を持つ事自体は全然否定しないし」
「……おう」
「そういうAVを見たくなる事も、全然悪い事だとは思わないし…」
「……なぁ、」
「な、何!?」
「…なんで距離、とってるんだ?」


ひくりと頬をひきつらせた男から問われ、女はいやいやと首を振った。


「ゴメンわりとマジで怖い!犯される!」
「やめて!」
「超マニアックな方法で犯される!」
「しねーよそんなん!」
「普段診察で使ってるベッドに寝かされて『いつも患者を診てるベッドでヤられる気分はどうだ…?』とか言われながら犯される!」
「抜粋するのやめて!さっきのAVの紹介文から抜粋するのホントにやめて!」


違う誤解だと繰り返す男の足元に散らばるAVの煽り文句を読み上げると、男は目尻を赤らめながらあ、でもなんかいいかも…とぶつぶつ呟き始めた。


「なんか医者モノ特有のマニアックな言葉責めされるー!」
「しねーよ馬鹿!やめろ!」
「『先生の胎内で確かめてくれよ…』とか言いながら犯すつもりだろう!」
「抜粋やめて!音読マジやめて!」
「銀時がマニアックな言葉責めを身につけてるぅぅ……!」



幼い頃よりずっと一緒だった幼馴染みの思いもよらぬ性的嗜好に滲む視界を拭いながら、あ、でも別にそんな思いもよらなかった訳でもないなと一人納得し、然り気無く距離を置こうとするが、男は一向に隙を見せようとしない。
夕飯はもう良いから帰りたい。
帰って布団にくるまって今日のことは忘れたい。
女は堅い笑顔でへらりと笑った。


「と、とにかく、そういうマニアックなプレイをしようとしてるん、だな…?」
「いや違うからね!銀さんそういうアレじゃないから!」
「さ、さらにマニアックな……?」
「違ェーよ!つうかさっきお前が言ったみてぇのは女医ものじゃ全然マニアックの範疇じゃねーんだよ!掠りもしねーんだよ!」


……え、
……あ。
やっちまったと固まる男に、女はただただ無言で体を震わせた。
こわい。
本格的に泣きそうである。
晩御飯食べに来ただけなのにこの仕打ち。


「……あ、あれくらいは、基本なんだな?」
「なんでもないから!さっきのなんでもないから!」
「正直さっきのでもかなりエグいところ抜粋したつもりだったんだけど……」
「頼むから銀さんの話聞いて300円あげるから!さっきのは間違いだからね、マジでマジで違うから!」
「もう、あれくらいじゃ、満足できないんだね……?」
「その目やめてエエエエエェ!」


初めて男と出逢ったのは屍だらけの灰色の世界で、辛いことも楽しいことも共に経験して。
随分と、時間が経ってしまったようだ。


「銀時がどんどん遠くに行く……」
「遠くに行ってるのはオメーだよ……物理的に距離とってるじゃねぇか…」
「だ、だって犯されるじゃない……」
「しねーっつってんだろーが!」
「接し方が悪かったのかな……知らず知らずの内に、銀時に寂しい思いをさせていたのかな……」
「やめて!重い感じにしないで!」
「朝方とかティッシュとか男の子の生理現象とかおかずとか自家発電とかは見て見ぬフリをしたのに……」
「聞きたくねーよ!思春期の男が一番聞きたくないタイプの奴だよそれ!」
「で、でもプレイ的な見地から言えばそんな態度も興奮ポイントに……?」
「やめて!嗜好を探るのやめて!」
「だ、だってさっき言ったくらいはもう基本なんでしょ?」
「間違いでしたァアアア!さっきの無しでお願いします!」
「だとするとそっち系に行かざるを得ないような……?」
「ってか何でちょっと協力的なの!?さっきまで犯される!とか言ってたよね!?」
「さ、逆らったらもっとひどい目にあう……」
「そ、そういうことかチクショー!いや、しないからね!銀さん紳士だから!」


もうお前ほんと落ち着け!深呼吸しろ深呼吸!
いつの間にか距離を詰めていた男に肩を掴まれ、女は大きく息を吐いた。
二三度吸ったり吐いたりを繰り返し、先程よりは落ち着いた様子で男を見上げる。


「じゃ、じゃあ面と向かって言ってくれないかな……」
「何をだよ」
「『私こと坂田銀時は幼馴染みである医者を犯したいと思っていないし、思ったこともありません』って」
「何その宣言!?」
「言わなきゃ信用できない!獣である白夜叉と共に同じ空間にはいられない!」
「ケモノじゃねーし白夜叉関係ねーだろ!」
「と、とにかく言ってもらえれば、安心できる…かもしれない……」
「……あー……」
「や、やっぱり虚偽の申告はできない?」
「虚偽じゃねぇよ!」
「良いんだ!私は銀時を嘘つきにしたいわけじゃないんだから!」
「その感じやめて!」
「銀時にその場限りの嘘をつかせるくらいなら、わ、わたしが、がんばって銀時の嗜好と向き合うから!」
「言うよ言えば良いんだろ言ってやらぁ!いやマジほんと言うから重い感じやめて!」


じゃあ、改めて。
パンイチから甚平を着てもらい、正座をして向かい合う。
眼前には件のAV。
なかなかにシュールな光景った。


「え、な、なんだっけ……『私こと坂田銀時はァ』……」
「『私こと坂田銀時は幼馴染みである医者を犯したいと思っていないし』」
「あ、あー、そう、そうね。『私こと坂田銀時は、幼馴染みである医者を』……」
「……ど、どうかした?」


はた、と動きを止めた男は、顎に手をあてながら探るように女を見詰め、あ、あのー、一応、一応確認ね?と唇を歪める。


「な、何?」
「こ、この『犯す』の範囲って……どんなん?」
「!!」
「い、一応に決まってんだろコノヤロー!!」
「そ、それはつまり範囲によっては……」
「一応だって!意外と二人の間で食い違ってるかもしれないじゃん!?」
「範囲によってはありえるってこと?」
「いやだからその確認だから!」
「そ、そうだよね。銀時の基準ってちょっとアレだもんね」
「アレってどれだよ、おい、こっち見ろ、おい」


怯えた様相の女にわざとらしく咳払いをし、男は大袈裟に口火を切った。


「あー、いや、じゃぁ仕切り直しな。ちょっとずつ、ちょっとずつ確認してこう」
「…ここでの『犯す』の範囲が広ければ広いほど、その……」
「……おー」
「銀時がさっきの宣誓をできなくなる可能性が上がるんだね」
「いやまぁ多分ていうか絶対大丈夫だけどね!銀さんに限ってそれはアレだからね!」
「そうだよね!えー、じゃあ『犯す』の基準決めスタートで!」
「よーし、まずは『ちゅー』!」
「えッ!?」
「えッ!?」


体をのけぞらせ驚いた女に、男はしまったと舌打ちした。
凍りついた空気を何とかしなければならない、女の、獣を見るような目も何とかしなければならない。


「ストップ!一旦ストップ!まてまてまてまてまて、落ち着いていこうか!」
「怖い怖い怖い怖い!!」
「違うって!普通にするじゃん!キスってするじゃん!幼馴染みでちゅー!アリだろ!?」
「ないないないしないしないしない怖い怖い怖い」
「ばかおま、俺がするかどうかじゃねーよ!?一般的にだよ!?銀さんじゃなくて一般的な基準として、幼馴染みの女医にキスはセーフだろうがよ!」
「しないよぉ……」
「アレだぞ?お前別にキスって唇同士の奴だぞ?『下の口と銀さんの銀さんで』とかそういうんじゃなくてな?そのつもりで銀さんはOKにしたんだからな?」
「当たり前だ……ていうか今言った方OKにしてたら本当に絶交、絶縁してたよ……」


いくら普段からセクハラし放題の男だろうが、本人目の前にしてこれはない。
深呼吸、深呼吸しろ!
必死な男に掴まれた肩がぎりぎりと痛みを訴えている。


「あの、ていうかじゃあさ、キスが基準だとアウトなの?
かな?あの、言わなくていいけど」


心底屈辱的だと言う表情で、男は溜め息を吐いた。
未だ水滴の滴る、いつもより癖の少ない頭をわしわしとかき回し、うー、だの、あー、だのと鳴き声を漏らす。


「あの、さ銀時……ていうかもう、聞くね……ど、どこラインにしたらさっきの宣言できるの?」
「……えー?」
「ぎ、銀時が決めてくれていいよ。それを聞いて対処するから」
「……んー、」


ジャスタウェイ時計の秒針がコチコチと周回する。
男は深く考えているようだった。
女はこっそりと視線を外した。
あまり良い予感はしない。


「……」
「……」
「……あのォ」
「ひっ!?」
「バカヤロー、そ、そこまで怯えなくても良いだろうが!」
「ご、ごめんね?驚いちゃっただけだから。ごめんね?犯さないで?」
「だからやめて!」
「……ていうか、これ長考した時点で相当ヤバ……」
「言うから!今すぐ言うからァアアア!」


ひっひっふー、男は気を落ち着けるため一呼吸置くと、赤い瞳に強い光を浮かべ女を見据えた。
男を纏う威圧感にいつかの戦場を思いだし、女もまた気を引き締めた。


「え、えーと……」
「言ってくれていいから。ドンと!」
「あーっと……」
「もう、驚かない」
「んじゃ、遠慮なく……多分、何をラインにしても、その、無理……」
「え」
「いや、だってあの、お前とシたいし……」
「うわああああああやっぱりガチじゃないかァアァァ!!!」
「すまねぇわ、マジ、いやホントごめん!でも銀さんお前とシたいんだものぉぉぉぉ!!」
「最初ので合ってたじゃないか!!最初のリアクションでむしろ正解じゃないか!!」
「ごめんなさい!本当にごめんなさい!でもさっきの言葉責めとかめっちゃしたいです!」
「それは聞いてないよおおお!!怖い怖い怖いぃぃぃ!!」
「ちょ、静かにしろ!!犯すぞッ!?」
「め、めっちゃ本性出してるぅぅぅぅ!!!」




「診察室プレイは?」
「基本」
「女医と書いて?」
「ドM」
「白衣は?」
「極上」
「背徳感は?」
「正義」
「こわいよぉぉぉ!銀時が怖いよぉぉぉ!」
「う、うるせー!ぎちぎちに縛って『ピー』するぞ!?」
「ぎゃあああなにそれ!?」
「よくあるんだよ!」
「よくあるんだ!?」




ここで力尽きた\(^o^)/

ぐんないベイベ

※白夜叉と医者











明日さえ見えないとは、今この状態の事を言うのかもしれない。
息を引き取った仲間の顔に薄汚れた白い布を乗せ、女は手を合わせた。
感傷に浸るまもなく運ばれてくる人間を次々と捌いて、ようやく落ち着いた頃にはすでに空は明るく、鳥の囀りが辺りに響いている。
そよ風が運んでくるのは硝煙と血生臭さ、どこか遠くに聞こえる怒号。
もがけばもがくほど深みに嵌まるような錯覚に囚われ、女は小さく項垂れた。
昨日も助けられなかった、今日も繋ぎ止められなかった、明日もきっと同じ、明後日もまた、同じなのだろう。
掬う命より溢す命の方が勝る戦場は、まさしく地獄であった。

短く刈った頭に手を乗せられ、女はゆっくりと振り返る。
白い装束を赤黒く染めた男におかえりと呟けば、たでぇーま、と。


「何人だ」
「…五人、駄目だった」


座れよと促され、男の隣に腰を下ろす。
さらさらと流れる小川の水面に朝陽が反射し、まだらな光が揺らめいている。
男はなにも言わず、女へ竹筒を差し出した。


「…しょーがねえだろ」
「そうだな。許容できるかどうかは別だけど」
「…面倒な生き物だな、医者ってーのは」
「侍にだけは言われたくない」


筒を煽れば、生ぬるい水が喉を下っていく。
唇の端からこぼれた水を親指でぬぐった女に、男は死んだ魚のような目を向けた。
ん…と、催促する骨張った手に竹筒と小さな紙の包みを乗せてやれば、男はしげしげと包みを眺め回す。
鼻を近付け匂いを嗅ぐ男に、御裾分けだと困ったような顔で女は笑った。


「村の子供がくれたものだ。甘いものはあまり得意ではないから、貰ってくれれば助かる」
「…良いのか?」
「皆にやる分はないから、銀時が食べてくれ」


かさりと包みを開いた男の赤い目が喜びに輝く様を横目に、女は青い空を見上げた。
明日も未来も、今は何も考えないように生きるしかないのだろう。
始めから終わりまで、目的なんぞただ一つしかないのだ。
何を取りこぼそうと、何を亡くそうと。

おい、口開けろ。
肩をつつかれ素直に従う。
小さな星の欠片が口内へと放られた。
融けてゆく砂糖菓子がじわじわと疲れた身体に染み渡る感覚に、女は榛色の目をゆるりと細める。


お前も共犯なといとけなく笑う傷だらけの男が、酷く尊いもののように思えた。



【煉の獄】
(いつかしあわせであるように)

ぐんないベイベ

※坂田と女医








「銀ちゃん」


びちん、と額に鋭い痛みが走る。
眼前に佇む少年は、面白くなさそうに唇を尖らせていた。


「ほ……本気でやったな?」
「おうおう本気だよ本気とかいてマジと読むよ」
「うわ、痛い。なにこれ痛い、じんじんしてきた」


デコピンを放った手をふりふりとさ迷わせ、つーかなに、医者って頭良いもんなんじゃねーの?と死んだ魚のような赤い目を歪めて愚痴る少年に、少女は眉を垂らして苦笑を返す。
ぶすっと膨れた頬のまま細い腕を伸ばし、少年の口が少女の名を呟いた。
隙間なくピッタリとくっつけられた幼い子供の他愛ない抱擁に、女はいっそう困った顔で微笑を浮かべる。


「俺だけ、呼ぶから」
「うん」
「お前の名前、俺だけが呼ぶから、誰にも教えんな」
「うん」
「ヅラにも高杉にも呼ばせんな」
「うん」
「先生もダメだ、オメーの師匠もダメだ」
「うーん?」
「頷けよ馬鹿」
「まぁ心配しなくても、今のところ銀時しか知らないね」
「だから教えんな」


そー言うものですか、そー言うものです。
少年は、どこか遠くを見ているだろう少女の痩せた身体へ回した腕に力を込める。
少女は医者であったらしい。
少女は迷子であるらしい。
少女の名前は御影ではないらしい。
帰る場所はあるくせに帰る事は叶わず、家族にも最早会うことはなく、何もかもを手放さざるを得ず、身一つ名一つでここにいるらしい。
少年が師と出逢う少し前、戦場で少年を拾った少女は、そんな女であったらしい。


「もっかい言うけどな、お前は銀ちゃんとか呼ぶな。ぜってー駄目、お前だけはダメ。言ったらアレ…デコピンな、爪立てたやつ」
「イジメじゃねーか。先生ー!銀ちゃんがひど、いだいっ!!」
「呼ぶなっつってんだろ学習能力ねーのか」


大きな榛色の目に涙を貯めた少女を鼻で笑い、少年はつま先立ちになって赤く色付いた少女の額へ唇を寄せた。









「…銀時、痛いんだけど」


オメーが悪い。
そう言い捨て、くわっと一つあくびをこぼした男に、白衣の女は片頬をひきつらせた。
榛色の前髪がさらりと流れ、白い額にポツリと浮かぶ赤い跡が妙に目立つ。


「もうそろそろ本気はヤバイんじゃないだろうか、額陥没してない?血出てない?」
「あーはいはい出てない出てないキレーなもんだわ」
「……患者さんからお団子もらったから持ってきたけど、銀時忙しそうだから帰るよ」
「ああああまてまてまてまて!!十八ちゃん来てくれて銀さんチョー嬉しーから団子くださいお願いします!!」


床に額を擦らんばかりの勢いで迫り来る男を慣れたようにかわしながら、医者になった医者だったいつかの少女は空っぽの湯飲みへ薄い茶を注いだ。
予想以上に色が無かったのだろう、今度お茶の葉買ってくるねと苦笑する女に、団子を頬張る男はおーと生返事を返した。

テレビの音もなく、近所の子供がはしゃぐ声が時折聞こえるだけの万事屋に漂う空気は決して居心地の悪いものではない。
そういえば、神楽ちゃんにどうして銀時は私を十八と呼ぶのかって聞かれたよ。
醤油味の固い煎餅をかじりながら、思い出したように医者が呟く。
おー、新八もおんなじ様なこと言ってたなぁ。
もちゃもちゃと幸せそうに頬袋をパンパンにした男が答えた。


「どうして、かぁ……なんで銀時はあの時あんな約束させたの?」
「……やくそくぅ?」
「名前で呼ぶな、呼ばせんなってやつ」
「そりゃおま、……まぁ、なんだ、うん。あれだよ、アレ」


医者の顔にはありありと「訳がわからない」と記してあり、男は思わず笑ってしまった。
結局下らない独占欲なのだ、今も、昔も。
口の堅い女の秘話を知っているのは今となっても自分だけで、本当の名前を知っているのもまた自分だけ。
当人が当たり障りなく周りを誤魔化すせいでもあるが、故に一層、女の真実が自分だけの物であるかのような心持ちになる。


「…御影診療所の御影センセー、【御影】は皆の【御影】、皆のお医者様だけどよォ、……十八は俺だけの十八だろ」


今も、昔も。
銀色のふわふわした髪を掻き回し、男は赤い耳を隠そうともせずそっぽを向いた。
女は眉を垂らして、困ったような、ほんのりと目尻を赤くした顔で笑っていた。



【昔の話をしましょうか】


でもあれだよね、銀時を銀時って呼ぶ女の子も増えたからそろそろ私も銀さんとかよび、

びちん。

ぐんないベイベ

※頭沸いてる坂田と諦めつつある医者(女)







あっちへふらふら、こっちへふらふらと飛び回る男に、女は隠すこともなく大きな溜め息を吐いた。
薬物の事なら医者が要るだろうと引っ張り出されて吉原くんだりまで下りてきたは良いものの、天人の惚れ薬騒動でただでさえ厄介な男が手の施しようがないほどに頭パーンしてしまっているのだからやる気もなにも削がれると言うものである。
やたらめったら甘い言葉を吐き、老若問わずベタベタベタベタと絡みまくる阿呆に出せるものといったら溜め息しかないではないか。
薬物に耐性がある男でも、神経に直接快楽を叩き込まれれば弱いのだな、と。
そう結論付けた女は、込み上げるあくびを噛み殺し、銀色のクルパーへ「ダーリン酷いじゃないですか私と言うものがありながら」と抑揚の無い声をかけた。


「寂しかったのかいmy sweet。心配するなよ、俺はお前だけの患者だ……」

「ごめんなさい頭の方は専門外なんで別の病院紹介しますね。お大事に坂田さん」

「照れるなよ坂田さん、俺たちゃ歴とした夫婦なんだからよ」

「離婚しましょうダーリン」

「妬いてんのか?可愛いねぇ俺の嫁さんは」


夫婦の絆を深めようぜだのなんだのとほざきながらも、腰に回された男の固い腕は外れそうもない。
あらんかぎりの力で逃れようとするも、夫婦=合法的に何をしてもOKとインプットされている男のセクハラは止まることを知らないように酷さを増していく。
妻の唇にちょっかいをかけつつ、片手間に道々の女へ声をかけては口説いていくのだから、男の無用な器用さには舌を巻く。
とは言え、口説くだけで本当に手を出そうとはしないところが、この男、坂田銀時らしいところではあるのだが。

もとより力で敵うことなど出来る筈もないと抵抗を止めれば、男の腕はますます強く女の体を拘束した。
ハニーハニーと甘ったるく周囲へ愛想を振り撒き、あらゆる女に色気を撒き散らし、これでもかとセクハラ下ネタをばらまく癖に、愛しげに触れるのは腕に囲った女だけ。
すがり付くように鷲掴まれ、離すまい逃すまいとその腕に捕らわれている女にだけ、男は何度も薄い唇を寄せた。
何時だったか、もう手放したくないのだと苦しげに呻いた男の声がふと女の脳裏に甦る。

薬に酔った死神太夫の複雑そうな表情へ苦笑を返し、女は三度溜め息を吐いた。





(仕方ないからK点越えだけは許すけど四方八方への口説き文句には異議を唱えるぞ)
(エクストリームスライディング土下座をする様が目に浮かぶようだった)




さすがに老人は守備範囲外でしたか銀さん。

銀さんと一緒 Fate / Ag





着物の似合う美しい女性に召し上がれ、と差し出された皿の上。
禍々しいオーラを漂わせながら鎮座する黒い物体に、銀さんは脂汗を流し始めた。


「今日は上手に焼けたのよ」


玉子焼きだと言われて、ようやくこれが料理なのだと認識できた。
玉子焼き、そうか、これは玉子焼きなのか。
……玉子焼きなのか?


「おいまてお妙、この子良いとこのお坊っちゃんなのそんなん食わせたら切腹どころじゃすまねーの、」

「あら、だったら尚更家庭料理には縁がないんじゃないかしら、遠慮せずに召し上がってね岸波さん」

「おいおいおいおい核兵器の間違いだろうが。どこが家庭料理?食わなくて良いからな白野、おま、銀さんの言うこと聞いて!腹壊すからやめなさい悪いこと言わないから!」


笑みを崩さない女性に、ますます焦った様子で銀さんは黒い玉子焼きから自分を遠ざけようとする。
卵、お嫌い?と、悲しげな瞳を見てはもう食べないわけにはいかないだらう。
なにこのデジャヴ。
箸を持ち、いただきますと手を合わせた。


「お味はいかがかしら?」

個人的にはもう少し甘い方が好きです。


ばりぼりがりごりと卵にあらざる擬音が口内に響き渡るが、案外大したことはなかった。
だって材料は卵だけなのだ、色も赤くないし、マグロのマリネすっぽんの生き血ゼリー乗せよりは大分美味しい。
覚えてなさいよ子豚!と、どこかでドラゴンの吠える声がしたような気もするが、気のせいだろう。


ありがとう、と伝えると、タエさんは頬を赤らめて笑った。


【銀さんと一緒】



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