着物の似合う美しい女性に召し上がれ、と差し出された皿の上。
禍々しいオーラを漂わせながら鎮座する黒い物体に、銀さんは脂汗を流し始めた。


「今日は上手に焼けたのよ」


玉子焼きだと言われて、ようやくこれが料理なのだと認識できた。
玉子焼き、そうか、これは玉子焼きなのか。
……玉子焼きなのか?


「おいまてお妙、この子良いとこのお坊っちゃんなのそんなん食わせたら切腹どころじゃすまねーの、」

「あら、だったら尚更家庭料理には縁がないんじゃないかしら、遠慮せずに召し上がってね岸波さん」

「おいおいおいおい核兵器の間違いだろうが。どこが家庭料理?食わなくて良いからな白野、おま、銀さんの言うこと聞いて!腹壊すからやめなさい悪いこと言わないから!」


笑みを崩さない女性に、ますます焦った様子で銀さんは黒い玉子焼きから自分を遠ざけようとする。
卵、お嫌い?と、悲しげな瞳を見てはもう食べないわけにはいかないだらう。
なにこのデジャヴ。
箸を持ち、いただきますと手を合わせた。


「お味はいかがかしら?」

個人的にはもう少し甘い方が好きです。


ばりぼりがりごりと卵にあらざる擬音が口内に響き渡るが、案外大したことはなかった。
だって材料は卵だけなのだ、色も赤くないし、マグロのマリネすっぽんの生き血ゼリー乗せよりは大分美味しい。
覚えてなさいよ子豚!と、どこかでドラゴンの吠える声がしたような気もするが、気のせいだろう。


ありがとう、と伝えると、タエさんは頬を赤らめて笑った。


【銀さんと一緒】