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ポケモンXYss男主×ハンサム

※クリア後のネタバレ注意!※


















がらんとした事務所の中、備え付けられた古びたソファの上で少年は気怠げな息を吐いた。
一目見て決して安くはないだろうと解るジャケットが皺になることもいとわず寝そべったまま脚を組み、黒の中折れ帽を浅黒い指先でくるくると回す姿は妙に格好がついている。
カラーコンタクトで染めた緑の瞳をじっとりと歪ませ、カロスの英雄、リーグチャンピオンでもあるエクスは再度溜め息を吐いた。


「遅すぎる」


壁の時計を見上げると、先程ちらりと確認した時から既に三十分ほど進んでいる。
簡易キッチンで皿洗いをしながら心配そうに視線を寄越すサーナイトとは正反対に、落ち着き払った様子でエクスの傍に控えていたルカリオはやれやれと肩を竦めた。


「外周のカフェに茶葉を買いにいくだけだろう、どこで油売ってるんだあの人」


出会いから何から胡散臭い自称探偵に、押しきられるような形で不本意ながらバディを組まされ早数日。
探偵になれと迫られ、無論、初めにエクスは断った。
しかし、ヨレヨレのトレンチコートを着た胡散臭い中年男性に肩を掴まれ、至近距離で「ノーだエクスクン、そんな返答は望んでいない!」と
一時間も粘られれば、誰でも諦めるのではないだろうか。

そうしてよくわからないチケットを探すためにミオレ中を駆け回り、ややキレ気味に事務所へと戻ったエクスを探偵はやけに満足そうな笑顔でお帰りと迎え入れたのだ。
毒気を抜かれた、その表現がぴったりだろう。
風船が萎むように、言いたかった文句も何もかも体から煙のように抜けてしまった。
辛うじて、ただいま、と。
そう言った少年に、ハンサムと名乗る探偵は缶コーヒーを差し出した。
それから、エクスはここでバイトをしている。
客の来ない、古びた事務所で、胡散臭い探偵と一緒に。


「いくらなんでも遅すぎる、捜しに行くぞルカリオ」


目線で頷いた相棒を従え、エクスはソファから起き上がった。
入れ違いを危惧し、サーナイトに留守番を任せる。
リーグ制覇後に前チャンピオンから託されたラルトスは、今やエクスの手持ちとして活躍するまでに育っていた。
優雅な仕草でお辞儀をしたサーナイトに微笑を向け、エクスはその場を後にした。


「波動で探れるか」


頷いたルカリオが前肢をかざし、淡い光が辺りを包む。
間も無く、目的を見つけたのだろうルカリオが鋭く唸り、裏路地へとエクスを促した。

ローラースケートを軋ませながらルカリオの後を追ったエクスが見たものは、見慣れ始めたトレンチコートが小さな子供を庇いながらポケモンの群れへと立ち向かう姿だった。
おそらく女の子の持っているガレットの匂いに釣られたのだろう、野生のトリミアンが五匹。
ミアレではトリミアンが人気だが、同じ様に捨てトリミアンも多かった。
カット代が嵩むやら飽きたやらで捨てられた野良トリミアンなのだろう、所々色のついた延び放題の体毛に、エクスは眉を寄せた。

どこで拾ったのかわからない細い木の枝であっちへ行けと追い払おうとしているハンサムに声を掛け、ルカリオを放つ。
軽い牽制に怯んだトリミアンの群れは、向かってくることなく街中へと消えていった。

女の子からお礼にともらったガレットを一口かじり、エクスは無言でハンサムを見上げた。
探偵は、少年の非難の目をさらりと流し、にこりと笑う。


「ありがとうエクスクン、助かったよ」
「ポケモンも持たずに群れバトルなんて無謀すぎる」
「いやなに、勝機がなかったわけではない。わたしの探偵七つ道具で…あ、いや、うむ」


心配をかけてしまったな、すまない。
茶化すわけでもなく、探偵は真摯に少年へと頭を下げた。
酷く困ったような、嬉しがっているような、なんとも言えない表情のハンサムに、エクスは目を細める。

どうしてだろうか、ハンサムを相手にすると、いつもの調子が出てくれないのだ。
正義感が強くお人好しだが、まるっきりの善人ではない。
口もうまく、趣味が多彩で、正体も解らないような、胡散臭い探偵。
一緒にいるとなぜか安心できる、ちょっとドジで、頼れるけれど狡い大人。
古臭いトレンチコートを颯爽と着こなす、ハンサムと呼ばれる得体の知れない男。

狂わされている、という感覚に、エクスは小さく息を吐いた。


「…茶葉は買えたんですか」
「ああ!なかなか見つからなくてね、結構店を回ってしまったよ。ほら、君の好きなオレン茶だ」
「…俺が好きなのはオボン茶ですが?」
「なんだって!?」


慌てて紙袋を漁るハンサムの背を叩き、エクスはガレットの残りをルカリオへと放った。
上手にキャッチしたルカリオは、幸せそうにモゴモゴと口を動かしている。


「良いですよ、コーヒーで。俺、ハンサムさんのコーヒー好きですから」


脚に力を入れ、石畳の道を滑り抜ける。
茜に染まりつつある空を眺め、エクスは幾度目とも判らない溜め息を吐いた。



【ルージュ通り、ハンサム探偵事務所物語】


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