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今生一人と定めた主の為に、命を燃やす姿が好きだった。
燃やすと言えども、ただ諾々と身を焦がすだけではない。焼け落ちた男の粉は火薬となり、見る者の網膜に焼き付く鮮烈な光を遺し消える。そんな生き方をした男だった。

雲間に輝く月を眺め、乗せていた頭を居心地の良い場所へと移す。くすぐったかったのだろうか。滑らかに耳を慰めていた笛の音が途切れた。まるで童にするように頭を軽く撫でられる。非難の視線は軽く受け流されてそれで終いだった。
火照った頬に夜風が気持ちいい。頭の下の固い枕からじわりとした男の熱が米噛みを伝い脳へと伝導する。男の手が頭を離れ笛の音が始まった。名もない曲は男の作らしく、気まぐれに吹く故に同じ旋律を二度流すことは難しいらしい。勿体無いと常々思っているが、曲として書き残せばそれの良さが半減してしまうような気がして、聴くだけに留めている。
男の輪郭は固い。大人の男である。見た目で言えば己も大人の男ではあるのだが、笛を奏する男のような艶も無ければ人を惹きつける何かも無いように思う。太い首から延びる身体の線は引き締まっている。どこもかしこも無駄のない男だ。長い睫毛が震え、瞼が開いた。美しい焦げ茶の瞳が見ている物は、己のかんばせであった。男は笛を脇に置くと、己の髪を手櫛で整え始める。長く黒い髪を指先に絡ませ唇を寄せる男に、己は目尻を赤くした。


「後悔してんのか」
「してない、けど」


男の指は止まらない。髪に飽きると頬を、頬に飽きると唇を。丹念に、丹念に、ほぐすような手つきで男は己を愛撫する。存在を確かめるように触る男の顔は、複雑な色をしていた。寂しさ、喜び、不安、期待、それから…、それから、何だろう。


「俺と一緒で、いいのか」
「端からその約束だ」
「政宗に付いていかなくて良かったのか」
「お前の顔は見飽きたと言われてしまえば、離れる他は無いだろう。あの御方も最早子供ではないんだからな」


ああ矢張り寂しさの色が一番濃い。巣立ちを見る親の顔なのか、独り立ちした弟を見る兄の顔なのか、主君に暇を与えられた家臣の心を推し量る術を己は持っていない。


「なんだかんだで政宗に三回仕えたからな小十郎」
「まぁな…御自身の事はもういいから俺に幸せになれと仰られた」
「俺がもらっていいのかなぁ…」
「俺みてえにとうが立った寡婦一人、お前以外のどこに宛があるんだ阿呆。だいたい終世面倒見るっつったのはお前だろうが。責任取れ」


ぎちりと頬を抓られ間抜けな声が出た。言ったけれど、本当に終世、連れ添って行くことが出来るのだろうか。終世だなんて、そんな、遠い時間を、男と二人。つがいになって、無限の時間を添い遂げる。なんだか、少しずつ愉快な気持ちが沸き上がってきた。


「俺達、めおとになるんだな」
「今更だろう」
「そうだけどさ…」
「どのみち、俺は一度お前に捧げられた身だ」
「供物ってか人身御供的な感じで、」
「嫌ならいい、転成だろうが消滅だろうが好きにしろ」


腹の力で起き上がり、乱れた髪もそのままで男の腕を引いた。胸へと倒れた半身をきつく抱く。嫌などと、そんなことを思うものか。欲しかった。欲しくて欲しくて諦めきれなくて、だから待った。何よりもまず主を第一に想う真っ直ぐな男を手に入れたくて、けれど男から主が居なくなれば男が男でなくなりそうで怖かった。主の為の男を好きになった己は、男の中から主が薄くなった男を好きでいられるのか。これからは自分の為に生きると言った小十郎を愛していられるのか。
今となってはその葛藤の全てが杞憂に終わったわけだが。



「嫌なら三世も待たない、欲しくなきゃ追っかけたりしない。好きだよ小十郎」
「俺も同じだ」
「畑も用意する、古今東西の野菜も作れるよう手配する、稽古したいなら道場建てるし、死ぬまで…生きてる限り苦労はさせない、浮気もしない、執務もさぼらない、から…、」
「…から、なんだ」
「傍に居て」
「ああ」


背に回された男の腕。心の臓をわしづかまれた感覚に、長く息を吐いた。



【エターナルセカンドライフ】
(……で、畑はいつ出来るんだ)
(俺が求婚したときより嬉しそうだな小十郎)
(職も探さねえとな。お前の職なんてどうだ)
(死神はダメ絶対!!入るとしても俺の隊!任務になんか出さねーからな!!)

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