2023-10-4 19:51
最終章に踊る(Nゲー)
※悪の組織編最終章を受けてのお話
「……逃げましたか」
ロケット団幹部がいた場所を一瞥し、チッ、と舌打つ。
彼は、戦闘中に突如なにごとか連絡を受けると、すぐさま姿を消してしまった。
残されたのは、消化不良のまま残された自分ひとり。
キュレムをボールへ戻し、子どもたちが向かった行き先へと目を向けた。
「フン……倒したんですね、あの男を」
忠臣である幹部が引いたのだ。おそらくボスであるあの男の指示だろう。
部下相手にウサ晴らしでもと思ったものの、それなりの使い手であった相手との戦いは、実力差を知らしめる前に終わってしまった。
「……帰るか」
邪魔をする、という当初の目的は果たした。サッサと隠れ家に戻るべきだろう。
コツン、と杖を石畳に打ち下ろし、きびすを返した時だった。
「……残党がこっちの方に……!」
と、遠くから声と足音が聞こえてきた。
(チッ面倒な……)
この長身は、ひとえに目立つ。その上、相手がブレイク団やロケット団ならもちろん、正義の味方に発見されれば尚更面倒だ。
物音のした方向と反対に、建物を利用して体を隠しつつ進む。
慣れぬ人助けをしてやったというのにどうしてこんなことを、とイライラしつつ、ひと目を避けるようにして歩を進めて、しばし。
「……く、っ」
右足の痛みで立ち止まる。ロケット団幹部とバトルをしていた時に、無意識に痛めていたのかもしれなかった。
ダークトリニティを呼び出して、とも思ったが、彼らに頼んでいる仕事は他に替えの効かない重要度の高いものだ。その上『足が痛いから迎えに来い』なんて内容、とても指示できない。
イライラと爪を噛みつつ、少しだけ体を休めようと、ひと気の少ない建物の影で背を壁に預けた。
「…………」
小刻みに震える右腕を、そっと見下ろした。
この手で、フーパを利用するはずだった。
我が計画のためにあの力は有用であって、自分こそが、その力を使いこなすはずだったのだ。
今回、ロケット団は結局失敗した。ざまあみろ、という胸のすくような思いもある。しかし、もし同じように悪事を企てた場合、今回のように邪魔が入るのかと思うと、少々面倒でもあった。
ふっ、と息をついて、空を見上げる。晴れた空は、青に赤い光の浸食を許し始めていた。空気がだんだんと冷えてきて、ほんの少し、身震いした。
(追っ手も、今は騒動の収拾に引っ張りダコだろう……今のうちに)
重い体を叱咤して、再び歩き出す。足は痛むが、歩けないほどではない。ズズッ、と軽く足を引きずりつつ、隠れ家へと向かった。
――と。
「「あ」」
バチッ、とタイミング悪く、義理の息子と鉢合わせた。
「ゲーチス、どうしてこんなところに」
「……応える義理はありませんね」
なんとも間が悪い。
痛めた足をわずかにかばうように引いて、杖で姿勢を整えた。脳内で、息子を前にどう立ち回ろうか、と計算する。
なだめすかして警戒を解くべきか、今はひとまず煙に巻くか、無視して逃げるべきか――。
「もしかしてあなたも、ロケット団に協力を……!?」
「っ、心外ですね。あの男との利害関係など、とうに破棄しました。いまさら、手を貸そうなんて考えていませんよ」
Nの追及に、吐き捨てるように言い放った。
手段を選ぶつもりはない。利用できるものはなんだって利用するつもりだ。けれど、プライドまでをも捨て去ったつもりはない。
「そういうわけで、今回、ワタクシはまったくの無関係。妙な疑いをかけるのは止め」
「あーっ!! ゲーチスさん、いたーっ!!」
と、見くだすようにNに胸を張ると、背後から、覚えのある大声が飛び込んできた。
「えっ……ケイ、どうしたの?」
「あ、Nさん、こんばんは! いや、実はさっき、ゲーチスさんに助太刀して頂いたので、そのお礼を言いに来たんです!」
子どもはキラキラと瞳を輝かせて、Nに力説する。
「なにをカン違いしているんです!?」
ダンッ、と石畳に杖の先を叩きつけて、二人の会話を遮った。
「いいですか。あのときもハッキリと言ったでしょう! ワタクシは、サカキの計画をつぶすために手を貸したに過ぎないと。礼を言うのはけっこうですし、感謝してあがめるのは当然ですが、別にあなた方を助けたというわけでは」
「またまた〜! ゲーチスさん、そんなに照れなくっても〜!」
「照れてません! 事実を述べているだけです!」
あぁもう、話にならない。
イライラと杖の先を床にたたきつけると、息子からも疑問の声が上がった。
「……手助けしてあげたんですか? とうさん」
「手助けではありません。利害の一致です」
ブンブンと首を横に振るも、ケイは両手にこぶしを作って、勢いよくしゃべり始めた。
「そう、そうなんですよ、Nさん!! おれたちが、サカキさんを止めにいく途中、幹部のアポロさんに足止めされて……どうしよう、って思ったときに、キュレムと共にさっそうと現れたんです!!」
「……ちょ、なにをひとをヒーローみたいに」
「ロケット団側について足止めしてくるのかと思ったら、なんと!! そこで、おれたちを守って先に進ませてくれたんですよ!! いやー、ゲーチスさん、本当に助かりました!! ……あ、でも、イワンコを吹っ飛ばそうとしたのは、まだ許してませんからね!」
「オマエに許してもらおうなんて思ってませんから。謝るつもりもないですし」
「あ、やっぱそこは変わってないんですねぇ。でも、ホントにありがとうございました! あっ、Nさんもロケット団の撃退に一役かってくださったって聞きました。ありがとうございました!」
「え? あ、うん」
「それじゃお二人とも、また!!」
と、少年は、来たときと同様に嵐のように走り去っていった。
残されたお互いの間におちる、なんともいえない沈黙。
「……えぇと。ダークトリニティって、もしかして変装の技術まで身につけたのかい」
「失礼な。ワタクシは本物ですよ。正真正銘の」
イラだちまぎれに足を踏み鳴らせば、Nは口に手を当てて考え込んだ。
「じゃあ……なにか、体調に変化はない? 熱があるとか、アルコールを過剰摂取したりとか」
「……正気です!! 妙な病にかかっているとか、クスリのせいだとか、そういうこともありませんから!!」
イライラと杖を床に打ち付けすぎたせいで、左手が痛い。チッとひとつ舌打ちをして、一歩退いた。
「そう……じゃあ、さっきの話は」
「だから言ったでしょう! ロケット団がパシオの制圧を行うのを、指をくわえて見ているなどゴメンですから。邪魔するチャンスをうまく利用した、ただそれだけの話です」
ケッ、と呟くと、Nは「そっか」と呟いた後、こらえきれないといったふうに笑った。
「ふ……っ、フフッ」
「……なにを笑っているんですか」
「いや、うん……とうさんにも、そういう面があるんだ、と思ってね」
「ハァ? ……どういう意味です」
「いや、悪い意味じゃないよ」
フッと肩の力を抜いたNは、さきほどまでの緊張した面持ちから一転して、ゆるく笑った。
「あなたでも、人助けしよう、なんて思うんだなって」
「ずいぶんと引っかかる物言いですね。それに、さっきも言った通り、これはただの利害の一致。それだけですよ」
「……ふふっ、そういうことにしておこうか」
息子はそう言って、ニコニコと嬉しそうに頷いた。
邪魔をする、という当初の目的は果たした。サッサと隠れ家に戻るべきだろう。
コツン、と杖を石畳に打ち下ろし、きびすを返した時だった。
「……残党がこっちの方に……!」
と、遠くから声と足音が聞こえてきた。
(チッ面倒な……)
この長身は、ひとえに目立つ。その上、相手がブレイク団やロケット団ならもちろん、正義の味方に発見されれば尚更面倒だ。
物音のした方向と反対に、建物を利用して体を隠しつつ進む。
慣れぬ人助けをしてやったというのにどうしてこんなことを、とイライラしつつ、ひと目を避けるようにして歩を進めて、しばし。
「……く、っ」
右足の痛みで立ち止まる。ロケット団幹部とバトルをしていた時に、無意識に痛めていたのかもしれなかった。
ダークトリニティを呼び出して、とも思ったが、彼らに頼んでいる仕事は他に替えの効かない重要度の高いものだ。その上『足が痛いから迎えに来い』なんて内容、とても指示できない。
イライラと爪を噛みつつ、少しだけ体を休めようと、ひと気の少ない建物の影で背を壁に預けた。
「…………」
小刻みに震える右腕を、そっと見下ろした。
この手で、フーパを利用するはずだった。
我が計画のためにあの力は有用であって、自分こそが、その力を使いこなすはずだったのだ。
今回、ロケット団は結局失敗した。ざまあみろ、という胸のすくような思いもある。しかし、もし同じように悪事を企てた場合、今回のように邪魔が入るのかと思うと、少々面倒でもあった。
ふっ、と息をついて、空を見上げる。晴れた空は、青に赤い光の浸食を許し始めていた。空気がだんだんと冷えてきて、ほんの少し、身震いした。
(追っ手も、今は騒動の収拾に引っ張りダコだろう……今のうちに)
重い体を叱咤して、再び歩き出す。足は痛むが、歩けないほどではない。ズズッ、と軽く足を引きずりつつ、隠れ家へと向かった。
――と。
「「あ」」
バチッ、とタイミング悪く、義理の息子と鉢合わせた。
「ゲーチス、どうしてこんなところに」
「……応える義理はありませんね」
なんとも間が悪い。
痛めた足をわずかにかばうように引いて、杖で姿勢を整えた。脳内で、息子を前にどう立ち回ろうか、と計算する。
なだめすかして警戒を解くべきか、今はひとまず煙に巻くか、無視して逃げるべきか――。
「もしかしてあなたも、ロケット団に協力を……!?」
「っ、心外ですね。あの男との利害関係など、とうに破棄しました。いまさら、手を貸そうなんて考えていませんよ」
Nの追及に、吐き捨てるように言い放った。
手段を選ぶつもりはない。利用できるものはなんだって利用するつもりだ。けれど、プライドまでをも捨て去ったつもりはない。
「そういうわけで、今回、ワタクシはまったくの無関係。妙な疑いをかけるのは止め」
「あーっ!! ゲーチスさん、いたーっ!!」
と、見くだすようにNに胸を張ると、背後から、覚えのある大声が飛び込んできた。
「えっ……ケイ、どうしたの?」
「あ、Nさん、こんばんは! いや、実はさっき、ゲーチスさんに助太刀して頂いたので、そのお礼を言いに来たんです!」
子どもはキラキラと瞳を輝かせて、Nに力説する。
「なにをカン違いしているんです!?」
ダンッ、と石畳に杖の先を叩きつけて、二人の会話を遮った。
「いいですか。あのときもハッキリと言ったでしょう! ワタクシは、サカキの計画をつぶすために手を貸したに過ぎないと。礼を言うのはけっこうですし、感謝してあがめるのは当然ですが、別にあなた方を助けたというわけでは」
「またまた〜! ゲーチスさん、そんなに照れなくっても〜!」
「照れてません! 事実を述べているだけです!」
あぁもう、話にならない。
イライラと杖の先を床にたたきつけると、息子からも疑問の声が上がった。
「……手助けしてあげたんですか? とうさん」
「手助けではありません。利害の一致です」
ブンブンと首を横に振るも、ケイは両手にこぶしを作って、勢いよくしゃべり始めた。
「そう、そうなんですよ、Nさん!! おれたちが、サカキさんを止めにいく途中、幹部のアポロさんに足止めされて……どうしよう、って思ったときに、キュレムと共にさっそうと現れたんです!!」
「……ちょ、なにをひとをヒーローみたいに」
「ロケット団側について足止めしてくるのかと思ったら、なんと!! そこで、おれたちを守って先に進ませてくれたんですよ!! いやー、ゲーチスさん、本当に助かりました!! ……あ、でも、イワンコを吹っ飛ばそうとしたのは、まだ許してませんからね!」
「オマエに許してもらおうなんて思ってませんから。謝るつもりもないですし」
「あ、やっぱそこは変わってないんですねぇ。でも、ホントにありがとうございました! あっ、Nさんもロケット団の撃退に一役かってくださったって聞きました。ありがとうございました!」
「え? あ、うん」
「それじゃお二人とも、また!!」
と、少年は、来たときと同様に嵐のように走り去っていった。
残されたお互いの間におちる、なんともいえない沈黙。
「……えぇと。ダークトリニティって、もしかして変装の技術まで身につけたのかい」
「失礼な。ワタクシは本物ですよ。正真正銘の」
イラだちまぎれに足を踏み鳴らせば、Nは口に手を当てて考え込んだ。
「じゃあ……なにか、体調に変化はない? 熱があるとか、アルコールを過剰摂取したりとか」
「……正気です!! 妙な病にかかっているとか、クスリのせいだとか、そういうこともありませんから!!」
イライラと杖を床に打ち付けすぎたせいで、左手が痛い。チッとひとつ舌打ちをして、一歩退いた。
「そう……じゃあ、さっきの話は」
「だから言ったでしょう! ロケット団がパシオの制圧を行うのを、指をくわえて見ているなどゴメンですから。邪魔するチャンスをうまく利用した、ただそれだけの話です」
ケッ、と呟くと、Nは「そっか」と呟いた後、こらえきれないといったふうに笑った。
「ふ……っ、フフッ」
「……なにを笑っているんですか」
「いや、うん……とうさんにも、そういう面があるんだ、と思ってね」
「ハァ? ……どういう意味です」
「いや、悪い意味じゃないよ」
フッと肩の力を抜いたNは、さきほどまでの緊張した面持ちから一転して、ゆるく笑った。
「あなたでも、人助けしよう、なんて思うんだなって」
「ずいぶんと引っかかる物言いですね。それに、さっきも言った通り、これはただの利害の一致。それだけですよ」
「……ふふっ、そういうことにしておこうか」
息子はそう言って、ニコニコと嬉しそうに頷いた。
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