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とある冬の日(ビトロズ)


 よく冷えた、冬の日であった。厚着した衣装の上からなお、針のような冷たさが肌を刺す火曜日。
 面会希望者の途切れないというその人物との約束を取り付けられたのは、ひとえに運が良かった、それだけだった。
 カン、カン、カン……
 冬の森のような無機質な鉄の床。いくらガラル地方に名高い人物だったといえど、牢に入れられればその住処に特別待遇はないようだ。
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渇望と色彩(グズクチ)


 舌の裏側を撫でるような、ざらりとした違和感。
 ある男を見た時に感じる、それは間違いなく不快感だと思っていた。まっ白い肌に、同様の頭髪。己よりも華奢な肢体。黒服の境から見える血の気の少ないうなじ。
 およそ同性に感じることのない、妙な警告信号が、じりじりと心を抑え込む。
「……ひりひりするね」
「あ?」
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彼の愛した計画(アポサカ)


 どこまでも、今思えば愛でしかなかったのだ。
「……どうした、アポロ」
「あ、いえ」
 朝の陽ざしに暖められた寝台の上で、ボーッと思考を巡らしていた。それがあまりにも微動だにしないモノであったから、かの人は不思議に思ったらしく、首をかしげてこちらを見た。その様は、かつてR団を指揮し世界を牛耳らんとした人であるというのに、どこか幼さを感じさせる。
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有名な幻想(レサカ)


 すべての頂点。ポケモントレーナーの最高峰。そんな賛辞はさんざん投げかけられてきた。冒険を始めた頃の、ただの一トレーナーという立場はどこかへ消え去り、今では伝説の人と称され、まるで有名人のような扱いを受けるばかり。
「あっ、もしかして、レッドさんですか!?」
 このパシオという地においても、わらわらと群がってくる様々な人々。それは、あまり口数も多くなく、目立つのが苦手である己にとっては、想定以上にストレスであった。
「……いや……その」
「わぁーっ、本物だ! 本物のレッドさんだ!」
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ロケット団IF(レサカ)


「まさか、君がロケット団に加入するとは思わなかった」
 薄暗いカジノの奥深く、VIPルームにて対峙する青年に視線を流す。
「俺が戦ってきた誰よりも、ポケモンに対する情熱は熱いと思っていたが」
 少年の時分、鋭いまなざしで挑みかかってきた時のことを思い出す。ロケット団にたてついてきたものはそれこそ数えきれないほどに存在するが、その中でも、一・二を争う実力を持っていた。こちらが勝利できたのは、ひとえに運が味方したから、としか言えないだろう。
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「無理して笑う必要なんてないんだよ」(ズミザク)


 それは、あるボルダリング大会の後であった。優勝間違いなしと言われていたその大会の最後。いつもであれば決してしないミスで、三位という結果で終わった。
 もちろん、自分の自己管理が悪かったのだし、判断ミス、それにここぞというタイミングの計り間違いなど、要因は決して一つではない。
 それでも、周囲の期待に応えられなかった無念と、自分の力を出し切れなかった無力感に、常になく落ち込んでいた時だ。気心知れた友人が、ズイズイと自分の休むテントに入ってきたのは。
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