「…………。理由は?」
「そうだな、他の可能性を考えようか。まず事故の場合。船内に人を一瞬で黒焦げにするような発火物はないし、もし持ち込もうとしても、乗船時の荷物検査で間違いなくひっかかるだろう」
「ん、まぁね。じゃあ、自殺は?」
「まぁ、否定はできないが……死因がな。わざわざ貨物船の上で、一人焼死を選ぶというのは少々不可解だ。テロでも起こして、みな巻き添えにするならともかく……」
「……あんまり考えたくない」
※なんちゃってミステリー()のレサカ(CP要素うすめ&未完結)です。
レサカの二人が事件解決する話を書きたい! と思って五年くらいずーっとそのままだったので、供養も兼ねてのUPです※
『――臨時ニュースをお伝えします。本日未明、マリエシティの民家にて、男性及びポケモンの殺害事件が発生いたしました。犯人は未だ捕まっておらず――』
「……物騒だな」
――パタン。レッドのポケギアから聞こえてきたラジオに、読んでいた本をゆっくりと閉じた。
ざあざあ、と耳の奥にまで届く潮騒。まるで血潮のようにくすぶるその音の中に、時折かん高いキャモメのさえずりが遠く近くと響き渡る。
ゆったりとした海路の旅のなか耳にするには、それはいささか血なまぐさい知らせだった。
※「予定調和へ至る道」のその後のお話です※
「……で、今日はどう?」
「お前は……思いの他、貪欲だな」
先日、初めて体を明け渡し、互いの関係は一段落ついたはずだ。
しかし、彼はまったく悪びれもなく、再び声をかけてきた。おあつらえ向きに、時間はすでに遅い。その上、同室。なにがしらか言ってくるかとは思ったが、まだ、アレから一週間と経っていない。
「この間は、全然余裕がなかったから……今度はがんばる」
「向上心があるのは、いいことだがな……」
「レッド。……別れよう」
「……え」
「実は、他に好きな相手ができた。このまま付き合い続けるのは不誠実だろう?」
「……」
「お前とは長い付き合いだったが……そういうことだ」
「…………」
サカキは、淡々とレッドの目を見ずに言い切ると、くるっと背を向けた。
恋ってもっとフワフワとした、甘くってかわいらしいモノじゃなかったっけ。
カフェテーブルを前に、足をプラプラと揺すりながら、レッドはぼんやりとそんなことを考えた。
数少ない友人のひとりであるグリーンは、昔からよくモテていた。たくさんの女の子たちがグリーンに恋して憧れて、目をキラキラと輝かせていたのを、覚えている。
レッドは恋愛には興味がなかったけれど、ライバル兼友人がそんなであったから、恋の話はやたらと耳に入ってきた。
※はじまりの色〜のレサカの二人です※
スルスルと、青年の手のひらが白い毛皮をなでている。床の上で丸まった毛玉は、フワァとひとつ大あくびをしつつ、されるがままだ。
宿泊するホテルの一室で、浴室から出たばかりの自分は、その二人ののんびりした空気に苦笑いした。
「……いつの間に手なずけた?」
レッドとペルシアン。その、奇妙な組み合わせ。
自分の手持ちである彼は気位が高く、ロケット団時代も部下には決して触れるのを許しはしなかった。
「……まったく」
でかい図体をコロンと布団の上に転がして、酷使した腕をゆるゆると振った。仰向けに寝転んで、スヤスヤと寝息をたてるのは、はるか以前、敵同士であった子どもだった。
いや、あれからずいぶんと時も流れ、彼はすっかり大人になった。手足は伸び、まだ青さは残るものの、体つきも立派になった。そう、外見だけは。
「かつての悪の組織のボスの前で悠長に眠るなど……油断しすぎじゃないか」
苦言が、苦笑とともにこぼれおちる。互いに、今やあの頃のわだかまりはない。まったくの偶然、このアローラの地にて再会し、久方ぶりの全力のバトルをくり広げた。
早朝、午前四時。
ポツポツと等間隔に並べられた石灯篭が、うっすらとした明かりをともしている、暗い夜の神社だ。
「こんな時間でも……人、いるんだね」
キョロキョロと興味深そうに境内を見回しながら、レッドは小さくつぶやいた。
冬であっても厚着のひとつもしない青年に、むりやり着せた黒いコート。それはどうやら、彼の存在感を薄めるのに効果的だったらしく、生ける伝説がウロウロしていても周囲はまったく気にもとめない。
男二人の組み合わせもさほど珍しいものでもないようで、他の初詣客たちは隣をスッと通りすがっていく。
寒い日の早朝。うず高く積もった雪が、窓の外の視界一帯を埋めつくしている。
まだ赤子らしきユキワラシが、時折ポスン、と白雪に穴を開けて元気よくとびはねていった。
ほどよく暖められた室内から見るそれは、どこか童心をくすぐられるほどにまっ白い。
「……白いね」
こちらの視線をたどり、同じく外に目を向けた青年はそう言って寝台から上半身を起こした。
「この景色を見て、感想はそれだけか?」
宿泊するペンションの二階から見下ろす、恐ろしいまでの雪の深さ。その厚みは、人ひとりがゆうに埋まるほどだ。
朝だ。従業員の出社時刻より一時間ほど早く、事務所へ入った。この日は遠方へ出張の為、その前準備も兼ねている。アポロにはいつも通りの時間で良いと言い置いてあるため、誰もまだ来ていない――はずであったのだが。
「……あ。おはよう、ございます」
「君、は……」
扉を開けて、言葉を失う。そこにいたのは、あの新人のレッドであった。手元には雑巾、そして足元には水のはいったバケツと、完全に掃除中のそれであった。
「おはよう。……君、こんな早くに来なくてもいい」
「いえ。……社長の部屋を清潔に保つのも、秘書の務めだと」
「……志は立派でいいが。アポロに伝えておくから、この分の手当てもつけよう。だが、朝は通常通り出社するように」
照明のスイッチを入れ、ジャケットをハンガーに吊るしてから、そっとため息をつく。どうやら、真面目な性格は変わらないようだ。