※夢のゆめ、の後日譚です※
「ふむ、値も改善してきましたね。腕をもどして結構ですよ」
ゲーチスの手首から測定器を取り外し、仏頂面で寝転がる男をチラっと見やった。
「どうにも、ダークトリニティはあなたに甘いようですから。血液の数字を見るに、もう少し栄養バランスを整えるべきですね」
場所は、アローラ地方のホテルしおさいだ。部屋の端には、即席で作った簡易的な検査スペースが設けてある。男の為ともいえる措置であるのに、当人はまったく感謝の感情など見せることなく、ブツクサと反論してきた。
※短いですがR-18要素があります※
「このっ……アクロマ!!」
「ずいぶんと、かわいげのある声になりましたね」
高くかすれた怒りの声に、思わずクスリと笑みが浮かぶ。
白いシーツに広がる緑の髪。赤く染まった全身と頬、目元。わずかににじんだ目じりには必死に力が込められているものの、ふだんの半分すら迫力がない。
※R-18にするほどではありませんが、事後の話です。ご注意※
「つまらない男ですよ、あなたは」
ホテルの一室。最低限の間接照明だけが照らす暗がりのなかで、吐き捨てるように呟いた。
「……ずいぶんと斬新な睦言ですね」
ぐったりとシーツに身を沈めた男が、いかにもダルそうに薄目を開けてこちらを見る。
アクゲーへのお題は『愛なんて綺麗なものじゃない』です。
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※パシオにアクロマさんが来てる設定です
「…………チッ」
失敗だ。Nを利用してキュレムを強化する方法はあっさりと無に帰した。利用できると思っていたあの男にも簡単に裏切られ、そのうえ、騙した息子に庇われる始末。あまりに滑稽すぎて、もはや笑みすら出てこない。
こんなはずではなかった。全ては順調だったはずだ。
「わたくしの研究所に、彼をあずける気はありませんか」
「……なんだと」
とうてい似合わぬそまつな個室で、くすぶる三つの影にひとつの提案を持ちかけた。
生命の息吹が枯れ落ちた部屋で、四人。
いや、中央に横たわる男をふくめれば、五人だろうか。
目を開かぬその人物に視線を落とし、たんたんと続ける。
「このままでは、ゲーチスの症状は悪化する一方。精神がもちなおす兆しひとつない今のままでは、いずれ」
「もう、プラズマ団にしがみつくのはやめたんですか?」
「……ッ!?」
穏やかな秋の夕暮れ時だ。
人目から隠れるように構えられたこのセッカシティの森深くの一軒家。
リハビリの一環として庭先で歩行練習をしているところに、聞きたくない声が飛び込んできた。
カプセルケースに押しこまれたサプリメントを、雑に口に放り込む。気休めであっても、飲まないよりはいくばくかはマシだ。身体がいうことを利かなくなってはや数年。ただでさえ不調であった右半身は、二年前の敗北により、完治がむずかしいほどに悪化してしまった。
「……く、そ」
ふだんは口に出さぬ呪詛がこぼれ落ちる。プラズマ団は瓦解寸前。あれほど時間をかけて築いた自分の礎は、年若い少年たちによってあっけなく滅び去った。でも、まだだ。まだ、残っている。
「…………」
「おやおや、ずいぶんと渋い顔をしてますね」
研究室に入って早々、目に入った光景に言葉を失う。この研究者、アクロマがなんだかよくわからぬ研究に没頭しているのは今に始まったことではない。だが、目前に広がる景色は、そういう次元のものではなかった。
「アクロマ。……あなた暇なんですか」