「なにをしている?」
風呂上がり。浴室から、バスローブ姿でタオルを首にひっかけつつ、部屋へ戻ったときだ。同室の青年がゴソゴソと自分のスーツケースを開けているのを見つけたのは。
「あ……残念」
こちらを見たレッドは、セリフと正反対の平坦な口調のまま、パタンとフタを閉じた。
「いまさら、探られて困るものもないが」
淡いだいだい色の色彩が、二人の人間をつつむようにぼんやりと照らしている。
壮年の男性と、まだ年若い青年。鳥の羽ばたきのみが揺らす、静かな湖の前に、二人。
おだやかに凪ぐ水面を眺めていた男性が、湖の観測台の欄干に寄りかかるようにして、ふと、傍らの青年に問いかけた。
「よかったのかい?」
「……なにが、です」
「……最初からやり直そう、とか思ったことない?」
燦々と日ざしの照りつける、穏やかな午後だった。セッカシティの外れ、緑に囲まれた屋敷の庭。
みずみずしい若草に映える屋外用の白テーブルとイスは、いつの間にやらNが持ってきた代物だ。今となってはすっかり風景に馴染み、今日も今日とて活躍している。
「ずいぶんと、ぶしつけな質問ですね」