「
雪代のたましい」のその後のお話です。
「調べごとかい?」
昼食の盆を持って、彼の部屋へと足を踏み入れる。まだ本調子でないというのに、義父は寝台の真横のテーブルで、ノートパソコンを広げていた。動きの鈍い指先を駆使してまでいったいなにを見ているのかと近寄れば、ゲーチスは半眼でこちらを見上げてきた。
「と、言うほどではありませんが。まぁ、いろいろと」
「……うわぁ」
窓を開け、こぼれたのは感嘆の吐息だ。
白い。景色すべてがまっ白だ。ふだん、キャタピーやアゴジムシが草を食む丘も、クスネが時折顔を出す森の境界線も。遠く視界ににじむ海ですら。
「う……寒い」
ビュウッ。開けた窓から入りこんできた冷気で、肺がキュッと収縮した。思わずもれでた言葉は、水蒸気となって空に消える。
「……おい、いつまで居座るつもりだ」
夜。三度目の夜だ。着衣を整えてホテルのイスに腰掛けながら、ごろごろと寝台に寝転がるレッドに言葉を投げる。一度目はムリヤリ、二度目はポケモンバトルに負けて。ならば三度目はというと、賭け事に負けたから、である。
「いいでしょ、別に」
「おまえは……なかなか図々しくなったな」
幼い頃の、無口で無表情、さもポケモン以外には興味ありません、といった様相からだいぶイメージが変わった。
※「#深夜の真剣文字書き60分一本勝負」様
「刃こぼれ」「後日談」のテーマにて
「それ、いつも持ってるの」
ひょい、と隣から伸びた指が銀色の刃をつまみ上げる。
「……危ないぞ」
「ボクだって、刃物くらい扱える」
研ぎ石を片付け、スーツケースの中にしまい込む。レッドはといえば、綺麗に磨き上げられたその小ぶりのナイフがたいそう気になるらしく、柄やら、持ち手などをぐるぐる撫でさすっている。