「……むう」
「そう拗ねるな、キョウヘイ」
楽屋の休憩室でぶすくれた自分に、彼は穏やかな声をかけてくる。
「君の方が先輩だし、演技だって板についたものだ。たった一回、彼女が演技したものがウケただけで、君の今までの努力が無に帰したわけではない」
「そう……そう、なんです、けど」
今まで、この人の傍で、ポケウッドで必死に努力してきた。憧れていた俳優である彼が復帰して初めての作品で、なんと主役という立場で共に演じた。
「……君って、武道一筋だよねぇ」
ストイックに訓練を続けるレンブの姿を眺めながら、ポツリと感想をつぶやいた。
「なにをいまさら。そういうお前とて、ギャンブル一筋じゃないのか」
「まぁ、否定はしないけれど。でも、君ほどに一直線じゃない、かな」
確かに、生きる術としてギャンブルの腕を磨き、イカサマを身に着け、またそれを見抜く技術を身に着けた。
周囲にあるのは悪意と殺意、そして欲望渦巻く金銭の世界。それが当たり前で、なんの疑問も持ち合わせいなかったのに。
「
色あせない感情を教えてくれ」にまつわるN視点のお話。
雨は嫌いだ。叩きつけるような水しぶきの音、ぬかるんだ土の色、そこに倒れ伏すあの人の姿を思い出すから。肌寒さの残る低い気温の中、水辺に転がる見知った人。慌てて駆け寄って、息がないことに気付いた瞬間の絶望といったら。
足元がガラガラと崩れ去る、なんていうけれど、あれは比喩でもなんでもなかった。世界が一瞬にして足場を失った。彼はボクの全てではなかったけれど、心の奥底にずっと存在していた、特別な礎を築いた人だった。
「あなたのことが嫌いです」
寝台の横に座した青年に、真っ向から挑みかかる。大樹の葉を思わせる生き生きとした若葉色の髪、光源によって色合いを変化させる豊かな水のような瞳、すらりと長い健康的な肢体。
自分が望み、結局最後まで手に入れられることのなかった全て。それを持つこの義息のことを、ずっと嫌悪していた。ズブズブと光の差さぬ底なし沼に引きずり込まれるように、ずっと、ずっと昔から。
足りない。まだまだ、全然足りないのだ。
Nの城の執務室で、積み上げられた書類を前に、親指の爪をかじる。何度も苛立ちをぶつけられたそこは、血すらにじんでいる有様だ。
プラズマ団は、巨大組織となった。一介の冒険者では太刀打ちできないほどの、一大教団。ゼクロムの召喚も成功し、傀儡であるNが名実ともに王となった。
※グズクチと、ちょこっとマープル要素有り。
しかしクチナシさんとマーレインさんは出てこない。
「……」
頬杖をついた指先に、グッと力をこめられる。
「グズマの兄貴ィ、どうしたんスか」
「……別に、どうもしねぇよ」
団員が、気づかわし気なまなざしを向けてくるのを、すげなくあしらう。
そう、別にどうもしない。このポータウンに雨音がやまぬように。このウラウラの海がいつも穏やかなように。あの白い頭髪の警察官が、この島から出ることができないように。