それは、穏やかな昼下がりであった。ロケット団のボスを退いてしばらく、世界各地を渡り歩き、ちょうどアローラ地方にやってきていた。幸い、ロケット団の時に培った財産は投資や不動産で運用しているおかげもあり、旅の資金は未だ尽きる様子はない。
気ままな一人旅の途中、PWTに呼ばれるなどという不測の事態もあったが、未だ捕まることもないままだ。
そんな資金を使い、ハノハノリゾートホテルの別館である水上コテージの一室をレンタルした。シーズンよりも早いせいか、割合空いているようだ。軽装に着替え、のんびりとビーチと繋がるテラスに置かれたデッキチェアに横たわり、新聞に目を通していた、その時である。
「……これは」
「うん……ちょっと、貰いすぎちゃったね……」
どさり、と抱えたダンボールを玄関に下ろし、Nが苦笑する。
茶色の箱に、ポップな色調で描かれた果物のイラスト。
蓋がしまらぬほど量がつめこまれたそれは、オレンジ色の柑橘類だ。