パシオの街中、日暮れ前の賑わう時間帯。
観光地ゆえか、買い物袋を抱えた主婦の姿は少なく、これから街にくり出すらしき若者や大人たちの姿があちこちに見受けられる。
それらの動線とは反対、街外れへと足を向け、ひとり闊歩していたときだ。
コツッ
細やかに敷きつめられた石畳の上をすべる靴音が、違和感をもって耳に届いたのは。
コツッ……カツッ
こちらの革靴が床をたたく音と重なるように、慎重に消された足音。
気配を殺す努力はうかがえる。しかし、粗が目立つ素人の動きだ。気づかないふりをするべきか、それとも正面きって向かいたつべきか。
少しだけ歩く速度を落とし、後ろを尾行する人物の動向をひそかに伺う。と。
「……っ、痛っ!」
ゴンッ、とつま先のひっかかるような音の直度、聞こえたうめき声。
大いに聞き覚えのあるそれに、思わず振り返った。
「……シルバー?」
実の息子が、そこには倒れこんでいたのだった。