2023-9-30 06:24
※テルウォロ現パロ、シロナさんと会う&その後の告白シーン
※「生まれ変わりのモノローグ」のシロナさんと会う&その後の告白シーンです。
ポケマスさんのイベントのがあまりに衝撃だったので掲載します※
【前の話: / / 】
(いろいろあってテルウォロの二人が同居中{まだ恋愛に発展してない}状態)
●口調などはポケマスさんのテルくんの年上に対する口調を参考にしてます●
「テル、ちょっと頼みたいことがあるんだ」
「ん? なに?」
学校の放課後。帰り支度を整えていた自分の教室に、コウキがひょこっと顔を出してきた。
「これ……ナナカマド先生のとこに、出してきてくれないかな」
「え? 別にいいけど……どうしたんだよ」
「今日、歯医者だったのすっかり忘れてて。悪いけど、よろしく!」
「わかった。気をつけろよ」
と、相槌を聞くか聞かないかの時点で、コウキは風のように飛び出して行った。よほど時間がギリギリと見える。
「あいつも忙しいな……と、ナナカマド先生のトコ、か」
コウキにつれられて一度行ったのは覚えている。ナナカマドの担当の授業科目は一年ではないため、その後は顔を合わせていない。
ここの棟だったよなぁ、とおぼろげな記憶をたどりつつ、のんびりと階段を上っておりて、ようやくそこの部屋に辿りついた。
「失礼しまーす」
小さく声をかけて、ガラリと部屋の扉を開けた。
「ナナカマド先……あ」
瞬間、目に入って来たのは金色の髪。束ねられていないすべらかな髪が、眼前をスッとよぎる。覚えのある色彩とよく似たそれに、茫然と言葉を失うと。
「おお、コウキ……ではないな? 彼の親戚の少年か」
と、その隣に立つナナカマドから声がかかった。
「えっ? コウキの親戚? ……うわぁ、すっごく似てるのね!」
と、長い金髪の人がくるっと振り向いた。
「あ、え、ええ……?」
――そっくりだ。
ポカン、と大口を開けてその人物を見る。すらりと高い身長。ゆるやかに額にかかる前髪。モデルかくやに整った顔。けれど、決定的に彼と違う――性別。
「え、え、えぇ……?」
「あっ、ごめんね。わたしはシロナ。君とは初めましてだったわね」
彼女は、フッと優しく表情をほころばせた。
「あっ、こ、こちらこそスミマセン……! お、おれはテルです。あのっ、し、知り合いにすごく似てたもので……!」
「ん? ああ、もしかしてウォロのことかしら。そうそう、遠い親戚なのよ」
ふふっ、と微笑む彼女は本当によく似ている。自分とコウキも、双子ではと言われることが多かったが、この人とウォロも瓜二つだ。
ボーっと彼女のことを見つめていると、傍らのナナカマドがこほん、と咳払いした。
「それで、どうした? コウキからなにか言付けかね」
「あっ……そうだ! スミマセン。あいつ今日歯医者らしくて……これ、渡してくれって」
と、頼まれたレポートを手渡した。
眼前でペラペラとそれをめくったナナカマドは、ふむ、と頷いてそれを隣の女性へ手渡した。
「よくできている」
「へぇ、コウキの……なるほどね」
と、二人はなにやら専門的な会話をし始めている。
「あ、えっと……じゃ、おれは失礼します」
「あ、テルくんだっけ? ありがとね」
ニコッ、と笑顔を浮かべる彼女に、一瞬もう一人の人が重なって、慌てて頷いた。
「はっ、ハイ。それじゃ!」
ヒュン、と即効で部屋を飛び出して、三歩。すぅはぁ、と深呼吸する。
(デンボク団長のそっくりさんに……ウォロさんのそっくりさんまで)
声はもちろん、口調も、当然身のこなしだって違う。それなのに、ふいにあの人と姿が重なる。
(……会いたいなぁ)
トントントン、と階段を下りながら、ギュッと胸元のシャツを握った。
会いたい。ただ、ひたすらに本人と。彼の、ウォロの顔が見たかった。
「テルさん、シロナさんと会ったんですって?」
帰宅してすぐ。
すでに家のなかで待っていた人に、開口一番で声をかけられた。
「えっ? シロ……ああ!」
腰にエプロンをつけて登場したウォロに、一瞬色んな意味で停止していた思考がようやく動き出す。
「ナナカマド先生のとこに行ったら、丁度いて……って、なんでウォロさん知ってるんですか!?」
「親戚ですし。連絡が入ったんですよ」
ヒョイ、とエプロンのポケットから携帯を取り出して半眼でこちらを見る。
「どうせ、見惚れて聞いていなかったんでしょう」
「見惚れ……って、ちがいますって! あんまりにもウォロさんに似てたから……っ!」
「まぁ、なんでもいいですけど」
ポン、とエプロンのポケットに再び端末は収納され、彼はグッと腕を組んだ。
「さあ、早く手を洗ってきてください」
「あっ……はい」
いつもより一オクターブ低い声に、素直に頷いて従った。
(うーん……? なんか、機嫌悪そう……?)
どこか呆れたような半眼と、むすっとした口調が気になる。けれど、本気で機嫌を損ねているのならばそもそもうちに来ないだろうし、ただ、虫の居所が悪いだけだろうか。
洗面所で手と顔を洗い、荷物を自室へ置きにいくと、ふと、目に入れてはならない物体が、机の上にずらりと並んでいた。
「あっ……ああ!?」
ピャッ、と毛が逆立って、慌ててウォロのところへ飛んで行く。
「う、ウォロさ、あ、あれ……!!」
「ああ。筆記用具を借りようとしたとき、ベッドの下から飛び出しているのを見かけたので」
と、サラリと言う彼はなにげない表情でテーブルに食事を並べていく。
まるで恋人みたいだ……と一瞬見惚れたものの、ハッと正気に戻る。
「ち、ちがうんです! あ、あれはその、き、気の迷いだから……!」
「はぁ。まぁ別に、年ごろなら致し方ないんじゃないですか? ずいぶんと雑に扱われていたので、置いては置きましたけど」
声には、呆れたような、なんともいえないニュアンスが感じられる。別に怒っている様子はないが、それがかえっていたたまれない。
その上、これはなにか、誤解をされているような気もする。
背筋に冷たいものが流れている。
机の上に丁寧に置かれたAVみっつ。確かにベッドの下にテキトーに押し込んでおいてしばらく忘れ去っていた。
なにせ、家に『ホンモノ』が来てくれているし、そのおかげで毎日充実して過ごしていて、ソレを観ることなんてすっかり忘れていたからだ。
どんな内容かは、眼前の彼を想像して購入したもの、と思えば伝わると思う。
「え、えっと……ち、ちがくて! そのっ……」
「? なにが違うんです。……シロナさんのことが好きなんでしょう?」
「いやっそのっシロ……えっ?」
ポカン、と口が開いた。
彼は、呆けた自分を見て少々意外そうに眉を持ち上げ、さらに言葉を続けた。
「あんな金髪美女モノばかり集めて。わかりやすすぎますよ」
「うぇっ……えっ……?」
「まったく。紹介してほしいというのならばお断りですから。いくら親戚といえど、そういったことは……」
「ち、違う!!」
「うわっ」
ガシッ、と眼前でぶつぶつ文句を言う人の肩を思いっきり掴んだ。苦しい。心臓が、苦しい。
「ちがう、ちがうんですよ、ウォロさん……っ!!」
ううっ、と哀れっぽい声がこぼれる。胸が苦しくて、思わず涙すら零れ落ちそうだ。真正面の彼は、自分が不意に肩に手をやったせいか、一瞬言葉を失ったものの、気をとりし直して首を横に振った。
「なにがちがうんです? アレはじゃあ、ただのあなたの趣味だとでも?」
肩を掴んだ手をそっと外し、ウォロはそう尋ねてくる。
すう、はあ、と一つ深呼吸。ゆっくりと首を横にふる。
「おれがシロナさんと会ったのは今日が初めてですよ。そもそも、ウォロさんに似た人がいることすら知らなかった。だから……あの人を思って借りたわけじゃ、ないんです」
「……その言い草では、他にモデルがいるようですね」
ハア、とため息をつきつつ、彼は半眼のままサラリと前髪をすいた。
「あなたが誰かに恋しているとは、気づきませんでしたが」
「まぁ……隠してました、し」
淡々と、声が決して震えないように腹に力を込める。
「それはそれは。金髪美女で、年上で? あれらのラインナップを見る限り、少々高飛車なお相手ですか。まったく、イイご趣味をしていることで」
「……そう、思います?」
「ええ。いったい、どこのどちら様なのやら」
皮肉めいた口調で、彼はニヤリと口角を上げる。
「まったく、ワタクシなどではなく、そのお相手とやらをお招きすればよかったのに」
そう、どこか自虐的な言いように、ぎりぎりのところで持ちこたえていたクサビが、ブチッ、とはじけた。
「……テルさん?」
自分の雰囲気が変わったことに気づいてか。ウォロが、わずかにけげんな表情を浮かべた。
「からかわれて怒ったのですか? でも、ワタクシの言うことももっともでしょう。そのお相手が手に入らないからと、まるで代わりのようにするなんて……」
「代わりじゃない。そう、思わなかったですか?」
低い。低い、地を這うような声が出た。
「……は?」
「金髪で、美人で、年上で、ちょっと高飛車で。性別こそ違うけど……それに当てはまる人間が、ここにいるって、思わなかったですか?」
一度は外された手を、再び彼の肩に乗せる。決して逃げられないように、しっかりと。
「は、あ? なにを言って……」
ここまで言っても、いまだ彼の脳内では像が結ばれないらしい。
戸惑うようにこちらを見る、その淡いグレーの瞳。
「おれはずっと、あなただけを見てた」
「……え、っ」
「ヒスイでも、この世界でも……好きな人は、ずっとあなただったんですよ、ウォロさん」
心の奥底に秘めていた言葉が、感情が、全身をフツフツと燃えあがらせる。
「な……っ」
そして、真正面の当人はハッと目を見開くと、パッと視線をそらして目元に手を当てた。
「……ずいぶんと、タチの悪い冗談を言うようになりましたね」
「ウォロさん」
「そんな……いくらああいった品物を並べておいたからといって、こういう意趣返しはどうかと思いますよ、まったく。いい加減に――」
「ウォロさん」
早口で語りつづける人の唇を、そっと手で覆った。ビクッ、と震える体に、静かに告げる。
「おれの気持ちは、冗談なんかじゃない。ウォロさんも……わかってるんでしょう」
「……ぐ」
手で隠された目元。わずかに垣間見える肌はほんのりさくら色だった。
「もう、ここまで来たら全部言うけど、おれ、ヒスイでも一人だったんですよ。ずっと一人で生きて、死んだ。あなたといっしょ」
友人もいた。ポケモンたちもいた。けれど、人は孤独から逃れることはできない。人は、ひとりだ。最後まで。
「生まれかわって、記憶が戻って……でもやっぱ、恋する気持ちの先にいるのは、ウォロさんで。……今回もまた、ずっとひとりかもって思ってた……諦めかけてた」
諦めない意志。かつて、伝説のポケモンにも認められたそのあがき。老齢となり、一度死して、どんなに手を伸ばしても届かないモノがあることを知ってしまって。だからおくびょうになり、どこまで近づいていいのか、迷ったりもした。
「だから今……こうしていっしょに過ごせて、暮らせて……ひとりだけど、ひとりじゃないって思えて。好きな人と過ごす今、すごく幸せなんです」
孤独であっても、それを癒す術はある。
それは他者との関わりであったり、なにかに没頭することであったり、人が生きれば、無限に存在する手段がある。祖父母の暮らしたこの家で、ナゼか半同居状態の今、本当ならば、この恋心を知らせずに、なんとなくいっしょにいるだけでも十分だった。だった、けれど。
「好き。……ウォロさん、好きです」
「…………っ」
息をのんだ、その人の。流れるような金色の髪。思わず手を伸ばし、サラリとすいた。
一瞬、硬直した彼は、
「……し」
「し?」
「……失礼しますっ!!」
バッ、とこちらの手を跳ねのけると、彼はスクッと立ち上がり、
バタバタバタッ!!
と家を飛び出していってしまった。
ポツン、と自分ひとりをその場に残したまま。
「……あー、ダメだった、かな」
一瞬見えた表情は、まっ赤でひどく狼狽していた。キラわれていないつもりではあったけれど、恋愛感情を抱かれているとなると、もしかしたら嫌悪感があったのかもしれない。
わずかな期待と大きな落胆。そんな思いをかかえつつ立ち上がる。と、
「……あれ?」
リビングの端。彼の荷物の入ったカバンが、そのままソコに置かれていた――。
コウキにつれられて一度行ったのは覚えている。ナナカマドの担当の授業科目は一年ではないため、その後は顔を合わせていない。
ここの棟だったよなぁ、とおぼろげな記憶をたどりつつ、のんびりと階段を上っておりて、ようやくそこの部屋に辿りついた。
「失礼しまーす」
小さく声をかけて、ガラリと部屋の扉を開けた。
「ナナカマド先……あ」
瞬間、目に入って来たのは金色の髪。束ねられていないすべらかな髪が、眼前をスッとよぎる。覚えのある色彩とよく似たそれに、茫然と言葉を失うと。
「おお、コウキ……ではないな? 彼の親戚の少年か」
と、その隣に立つナナカマドから声がかかった。
「えっ? コウキの親戚? ……うわぁ、すっごく似てるのね!」
と、長い金髪の人がくるっと振り向いた。
「あ、え、ええ……?」
――そっくりだ。
ポカン、と大口を開けてその人物を見る。すらりと高い身長。ゆるやかに額にかかる前髪。モデルかくやに整った顔。けれど、決定的に彼と違う――性別。
「え、え、えぇ……?」
「あっ、ごめんね。わたしはシロナ。君とは初めましてだったわね」
彼女は、フッと優しく表情をほころばせた。
「あっ、こ、こちらこそスミマセン……! お、おれはテルです。あのっ、し、知り合いにすごく似てたもので……!」
「ん? ああ、もしかしてウォロのことかしら。そうそう、遠い親戚なのよ」
ふふっ、と微笑む彼女は本当によく似ている。自分とコウキも、双子ではと言われることが多かったが、この人とウォロも瓜二つだ。
ボーっと彼女のことを見つめていると、傍らのナナカマドがこほん、と咳払いした。
「それで、どうした? コウキからなにか言付けかね」
「あっ……そうだ! スミマセン。あいつ今日歯医者らしくて……これ、渡してくれって」
と、頼まれたレポートを手渡した。
眼前でペラペラとそれをめくったナナカマドは、ふむ、と頷いてそれを隣の女性へ手渡した。
「よくできている」
「へぇ、コウキの……なるほどね」
と、二人はなにやら専門的な会話をし始めている。
「あ、えっと……じゃ、おれは失礼します」
「あ、テルくんだっけ? ありがとね」
ニコッ、と笑顔を浮かべる彼女に、一瞬もう一人の人が重なって、慌てて頷いた。
「はっ、ハイ。それじゃ!」
ヒュン、と即効で部屋を飛び出して、三歩。すぅはぁ、と深呼吸する。
(デンボク団長のそっくりさんに……ウォロさんのそっくりさんまで)
声はもちろん、口調も、当然身のこなしだって違う。それなのに、ふいにあの人と姿が重なる。
(……会いたいなぁ)
トントントン、と階段を下りながら、ギュッと胸元のシャツを握った。
会いたい。ただ、ひたすらに本人と。彼の、ウォロの顔が見たかった。
「テルさん、シロナさんと会ったんですって?」
帰宅してすぐ。
すでに家のなかで待っていた人に、開口一番で声をかけられた。
「えっ? シロ……ああ!」
腰にエプロンをつけて登場したウォロに、一瞬色んな意味で停止していた思考がようやく動き出す。
「ナナカマド先生のとこに行ったら、丁度いて……って、なんでウォロさん知ってるんですか!?」
「親戚ですし。連絡が入ったんですよ」
ヒョイ、とエプロンのポケットから携帯を取り出して半眼でこちらを見る。
「どうせ、見惚れて聞いていなかったんでしょう」
「見惚れ……って、ちがいますって! あんまりにもウォロさんに似てたから……っ!」
「まぁ、なんでもいいですけど」
ポン、とエプロンのポケットに再び端末は収納され、彼はグッと腕を組んだ。
「さあ、早く手を洗ってきてください」
「あっ……はい」
いつもより一オクターブ低い声に、素直に頷いて従った。
(うーん……? なんか、機嫌悪そう……?)
どこか呆れたような半眼と、むすっとした口調が気になる。けれど、本気で機嫌を損ねているのならばそもそもうちに来ないだろうし、ただ、虫の居所が悪いだけだろうか。
洗面所で手と顔を洗い、荷物を自室へ置きにいくと、ふと、目に入れてはならない物体が、机の上にずらりと並んでいた。
「あっ……ああ!?」
ピャッ、と毛が逆立って、慌ててウォロのところへ飛んで行く。
「う、ウォロさ、あ、あれ……!!」
「ああ。筆記用具を借りようとしたとき、ベッドの下から飛び出しているのを見かけたので」
と、サラリと言う彼はなにげない表情でテーブルに食事を並べていく。
まるで恋人みたいだ……と一瞬見惚れたものの、ハッと正気に戻る。
「ち、ちがうんです! あ、あれはその、き、気の迷いだから……!」
「はぁ。まぁ別に、年ごろなら致し方ないんじゃないですか? ずいぶんと雑に扱われていたので、置いては置きましたけど」
声には、呆れたような、なんともいえないニュアンスが感じられる。別に怒っている様子はないが、それがかえっていたたまれない。
その上、これはなにか、誤解をされているような気もする。
背筋に冷たいものが流れている。
机の上に丁寧に置かれたAVみっつ。確かにベッドの下にテキトーに押し込んでおいてしばらく忘れ去っていた。
なにせ、家に『ホンモノ』が来てくれているし、そのおかげで毎日充実して過ごしていて、ソレを観ることなんてすっかり忘れていたからだ。
どんな内容かは、眼前の彼を想像して購入したもの、と思えば伝わると思う。
「え、えっと……ち、ちがくて! そのっ……」
「? なにが違うんです。……シロナさんのことが好きなんでしょう?」
「いやっそのっシロ……えっ?」
ポカン、と口が開いた。
彼は、呆けた自分を見て少々意外そうに眉を持ち上げ、さらに言葉を続けた。
「あんな金髪美女モノばかり集めて。わかりやすすぎますよ」
「うぇっ……えっ……?」
「まったく。紹介してほしいというのならばお断りですから。いくら親戚といえど、そういったことは……」
「ち、違う!!」
「うわっ」
ガシッ、と眼前でぶつぶつ文句を言う人の肩を思いっきり掴んだ。苦しい。心臓が、苦しい。
「ちがう、ちがうんですよ、ウォロさん……っ!!」
ううっ、と哀れっぽい声がこぼれる。胸が苦しくて、思わず涙すら零れ落ちそうだ。真正面の彼は、自分が不意に肩に手をやったせいか、一瞬言葉を失ったものの、気をとりし直して首を横に振った。
「なにがちがうんです? アレはじゃあ、ただのあなたの趣味だとでも?」
肩を掴んだ手をそっと外し、ウォロはそう尋ねてくる。
すう、はあ、と一つ深呼吸。ゆっくりと首を横にふる。
「おれがシロナさんと会ったのは今日が初めてですよ。そもそも、ウォロさんに似た人がいることすら知らなかった。だから……あの人を思って借りたわけじゃ、ないんです」
「……その言い草では、他にモデルがいるようですね」
ハア、とため息をつきつつ、彼は半眼のままサラリと前髪をすいた。
「あなたが誰かに恋しているとは、気づきませんでしたが」
「まぁ……隠してました、し」
淡々と、声が決して震えないように腹に力を込める。
「それはそれは。金髪美女で、年上で? あれらのラインナップを見る限り、少々高飛車なお相手ですか。まったく、イイご趣味をしていることで」
「……そう、思います?」
「ええ。いったい、どこのどちら様なのやら」
皮肉めいた口調で、彼はニヤリと口角を上げる。
「まったく、ワタクシなどではなく、そのお相手とやらをお招きすればよかったのに」
そう、どこか自虐的な言いように、ぎりぎりのところで持ちこたえていたクサビが、ブチッ、とはじけた。
「……テルさん?」
自分の雰囲気が変わったことに気づいてか。ウォロが、わずかにけげんな表情を浮かべた。
「からかわれて怒ったのですか? でも、ワタクシの言うことももっともでしょう。そのお相手が手に入らないからと、まるで代わりのようにするなんて……」
「代わりじゃない。そう、思わなかったですか?」
低い。低い、地を這うような声が出た。
「……は?」
「金髪で、美人で、年上で、ちょっと高飛車で。性別こそ違うけど……それに当てはまる人間が、ここにいるって、思わなかったですか?」
一度は外された手を、再び彼の肩に乗せる。決して逃げられないように、しっかりと。
「は、あ? なにを言って……」
ここまで言っても、いまだ彼の脳内では像が結ばれないらしい。
戸惑うようにこちらを見る、その淡いグレーの瞳。
「おれはずっと、あなただけを見てた」
「……え、っ」
「ヒスイでも、この世界でも……好きな人は、ずっとあなただったんですよ、ウォロさん」
心の奥底に秘めていた言葉が、感情が、全身をフツフツと燃えあがらせる。
「な……っ」
そして、真正面の当人はハッと目を見開くと、パッと視線をそらして目元に手を当てた。
「……ずいぶんと、タチの悪い冗談を言うようになりましたね」
「ウォロさん」
「そんな……いくらああいった品物を並べておいたからといって、こういう意趣返しはどうかと思いますよ、まったく。いい加減に――」
「ウォロさん」
早口で語りつづける人の唇を、そっと手で覆った。ビクッ、と震える体に、静かに告げる。
「おれの気持ちは、冗談なんかじゃない。ウォロさんも……わかってるんでしょう」
「……ぐ」
手で隠された目元。わずかに垣間見える肌はほんのりさくら色だった。
「もう、ここまで来たら全部言うけど、おれ、ヒスイでも一人だったんですよ。ずっと一人で生きて、死んだ。あなたといっしょ」
友人もいた。ポケモンたちもいた。けれど、人は孤独から逃れることはできない。人は、ひとりだ。最後まで。
「生まれかわって、記憶が戻って……でもやっぱ、恋する気持ちの先にいるのは、ウォロさんで。……今回もまた、ずっとひとりかもって思ってた……諦めかけてた」
諦めない意志。かつて、伝説のポケモンにも認められたそのあがき。老齢となり、一度死して、どんなに手を伸ばしても届かないモノがあることを知ってしまって。だからおくびょうになり、どこまで近づいていいのか、迷ったりもした。
「だから今……こうしていっしょに過ごせて、暮らせて……ひとりだけど、ひとりじゃないって思えて。好きな人と過ごす今、すごく幸せなんです」
孤独であっても、それを癒す術はある。
それは他者との関わりであったり、なにかに没頭することであったり、人が生きれば、無限に存在する手段がある。祖父母の暮らしたこの家で、ナゼか半同居状態の今、本当ならば、この恋心を知らせずに、なんとなくいっしょにいるだけでも十分だった。だった、けれど。
「好き。……ウォロさん、好きです」
「…………っ」
息をのんだ、その人の。流れるような金色の髪。思わず手を伸ばし、サラリとすいた。
一瞬、硬直した彼は、
「……し」
「し?」
「……失礼しますっ!!」
バッ、とこちらの手を跳ねのけると、彼はスクッと立ち上がり、
バタバタバタッ!!
と家を飛び出していってしまった。
ポツン、と自分ひとりをその場に残したまま。
「……あー、ダメだった、かな」
一瞬見えた表情は、まっ赤でひどく狼狽していた。キラわれていないつもりではあったけれど、恋愛感情を抱かれているとなると、もしかしたら嫌悪感があったのかもしれない。
わずかな期待と大きな落胆。そんな思いをかかえつつ立ち上がる。と、
「……あれ?」
リビングの端。彼の荷物の入ったカバンが、そのままソコに置かれていた――。
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