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誰も知らない彼女の話

ぎゅっサバ
※時間軸が迷子





弦一郎と幸村くんに合宿の手伝いを任された私は、なぜか今、尋常じゃない揺れに目を回しながら船室のベッドへしがみついていた。

きゃあと可愛い声を上げたのは小日向つぐみちゃんで、つぐみちゃんを宥めて落ち着かせているのは辻本彩夏ちゃんだ。
二人はこれから南の島にバカンスへ行く途中だったらしい。

船長さんの娘さんであるつぐみちゃん達と話が弾み、女の子同士でお泊まりしようと二人の部屋にお邪魔して、一時間もしないうちに船が揺れ出した。
窓の外は黒い雲に覆われ、遠くにも近くにも蒼白い光が閃き、雷鳴が轟く。

これはちょっとヤバイかもしれない、と。
三半規管が不味いことになり始めた私の耳に、聞きなれた声と破壊音が同時に響く。


「無事か!!」
「わ、私は大丈夫!」


蹴破られたドアは再起不能だろうけれども。
空気を読んで口を噤んだ私を片手で抱え上げる弦一郎の横から、二人の男の子がつぐみちゃんと彩夏ちゃんへ手を差し伸べた。


「お前らも早く来い!!」
「グズグズするんじゃねえ!!」
「急げお前達!甲板まで走れ!!」


うっすと返事をした二人に引き摺られるように、つぐみちゃんと彩夏ちゃんは最小限の荷物を手にして部屋を後にする。


「げん、いち、ろ!」
「黙っていろ、舌を噛むぞ!」


私と荷物と言うハンデを物ともせず、弦一郎は長い廊下をひた走る。
ゆさゆさと揺さぶられ、私は堪らず弦一郎の首筋へしがみついた。

弦一郎から静電気のようなエフェクトが見えるのは、彼が【雷】を使っているからだろうか。

救命ボートへ辿り着き、沈没だけは免れたものの、大きな波に飲まれて私は意識を手放した。




【えまーじぇんしー!】

(…まぁ班分けはこんなもんで良いだろう。…そいつはどうするんだ?)
(彼女は真田の私物…生活必需品だから山側で良いんじゃないかな)
(アーン?)



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