青々とした涼風が丸障子の格子をすり抜け、文机に向かう男の長い髪を揺らした。
緩く曲線を描く広い背に凭れ、銀色の尻尾を垂らした少年は猫のように欠伸をする。
男が机を相手に筆をとったのは、朝と呼ばれる時間帯からであり、既に太陽は真上を過ぎてしまった。
なぁなぁと鳴く少年に間延びした相槌を打ち、男は墨に筆を浸す。
「なぁなぁくるみチャン、まーくん暇じゃ。構ってくれんかのう」
「お前な…俺は仕事なんだよ。つか、テニスの練習はどうした」
「熱くて外に出る気がせん」
「サボんな」
「くるみチャンに言われたくなか」
「そのくるみチャンがわざわざ机とランデブーしてんだ、察しろ」
「参謀に叱られたんか」
「帽子小僧のビンタつきでな」
あいつら弟にばかり懐きやがって。
ぶつくさと口を動かし恨み言を吐く男にちらりと目線を投げ、少年は白けた顔で溜め息を吐いた。
あいつらはただ距離を測り兼ねてるだけじゃ、と。
音にしなかった言葉を一呑みにし、少年は男の背から覆い被さるように首へと腕を回した。
ごろごろとじゃれながら腹が減ったと甘えてみれば、冷たい顔の麗人は銀細工の懐中時計をぱちりと開いて、もうこんな時間かと背を伸ばす。
「昼にすっかなー」
「まーくん肉が食いたいナリ」
「いいな、皆で焼肉でも行くか」
よっこらせと年寄り臭く立ち上がる男にぶら下がり、少年はくつくつと喉をならす。
少年にとって、男は格別に居心地の良い場所であった。
干渉せず、干渉されず。
構えと口にすれば、己の手とは違うゴツくて大きな、けれども繊細な掌で頭をふわりと撫でられる。
親でもなく家族でもなく仲間でもなく学校の先生でもなく恋人でもない、とても曖昧で好ましい距離感で。
お前さんの傍は居心地が良いと伝えられた男は、霊力の波長が合うのかもなと苦笑を漏らした。
「まーくん何時まで引っ付き虫してんだ」
「気にしなさんな」
「振り落とすぞ」
「出来んくせに」
「…負けました」
「勝ちました」
鼻腔を擽る華の香りが白梅だと言ったのは、蒼い髪の部長だったか、男のお気に入りである糸目の参謀だったか。
ええ匂いじゃ、と呟いた少年に、男は困ったような顔で笑って見せた。
【死神と詐欺師】
(ベストプレイスは死守するもんじゃろ?)
仁王と日常
隊長は素っ気なくされると食いつくけど、ほどほどにちょっかい出されるとドライになるめんどくさい人
真田、丸井、柳生は格好の餌食、柳と幸村は途中であしらいかたを覚えたがまだ遊ばれる。
ジャッカルは遠慮がちで、赤也と仁王はだいぶ馴染んだ頃。