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庭球ss誰も知らない彼女の話

※女主、会話


【親しき仲にも礼儀あり】

「…スカートが短いのではないか?」
「規定だよ?」
「疑うわけではないが…っ、何故叩く!!」
「ウエストに手を突っ込むな馬鹿!!」


「…以来許してもらえんのだ。父も母もあれの味方でな…」
「だから三日前から日の丸弁当なのか…馬鹿だな」
「本当にバカだね真田は」
「む…」
「そう落ち込むな弦一郎、明日に仲直りできる確率は85%だ。そうだな、俺は唐揚げで構わないぞ?」
「じゃあ俺は卵焼きにしよう」
「取られることが前提なのか」




【修学旅行だよ】

「……!」
「しょうがないでしょ、班なんだから」
「………」
「うん、解ってる」
「………………」
「うん、…うん、じゃあ、また」


「凄いよねーアンタの旦那、一時間ごとに電話とか!」
「あはは…当初は三十分毎にメールって話だったんだ。なんとか休み時間毎の電話に変えてもらったんだけど」
「……え、」
「わ、皇帝ペンギン!可愛いなぁ…弦一郎そっくり。写メ送らなきゃね!」
「ああ、似た者夫婦か…」

お土産は皇帝ペンギンのぬいぐるみストラップでした。



【修学旅行だよ2】

「……む」「まだ悩んでいるのか弦一郎」
「ああ、このストラップなのだが…赤い瑪瑙か、それとも翡翠が良いか…」
「彼女にか?」
「そうだ。やはり瑪瑙に…いやしかし、」
「…彼女の眼なら瑪瑙が似合うだろう」
「やはりそうか!すまんな蓮二、会計を済ませてくる」
「ああ」




「まさか弦一郎が同じものを選ぶとはな…」




【文化祭ですよ!】

「たわけがぁあ!!!」
「ぎゃー!!!」

「ちょ、ちょっと弦一郎!殴っちゃダメ!制裁は駄目!!暴力沙汰マジ駄目!!」
「離さんか!!この輩はお前に……っ絶対に許さん!!」
「声かけられただけ!!声かけられただけだから!!」
「馬鹿者!【だけ】とは何だ!!人の妻…否、俺の妻に手を出しおって…!!そこへ直れ!根性叩き直してくれる!!」
「ちょ…アンタもう旦那連れて休憩いって!」
「ごめん級長ありがとう!行こう弦一郎!」



うさみみメイドでコスプレ喫茶な文化財



【迎えに来たよ!】

「暑…」
「帽子はどうした」
「あはは、家に忘れちゃった」
「たるんどる!熱中症になるだろう」
「わぷっ!?」
「被っていろ。汚すなよ」
「ん、ありがとう弦一郎」
「もう少しだ、待っていろ」
「うん」




「……のうヤーギュ、真田のあれ、汗臭くないんか」
「そうですね…お二人とも嬉しそうですし、良いのではないでしょうか」



帰ったらファブリーズしました。



【偶然ですね】


「「あ、」」

「貴方は…ええと、手塚国光くん!」
「お前は確か…真田と一緒に居た、」
「あ、はい。お久しぶりです」
「あ、ああ。二年ぶりだな」
「全国大会はおめでとうございます。お疲れ様でした」
「ありがとう」
「来年は負けませんよ」
「そうか、だが、こちらもベストを尽くすだけだ」
「手塚くんは持ち上がりですか?」
「いや、ドイツへ留学することになっている」
「そうですか…弦一郎が寂しがります」
「そうだろうか。もう二度と対戦したくないと言われてしまったからな」
「張り合いが無くなるとこぼしてましたよ」
「そう、か」
「はい。帰ったらまた相手をしてあげてください」
「そうだな」
「あ、そうだ。手塚くんのお祖父様にもよろしくお伝えください。義祖父がお会いしたがってました」
「お祖父様に?」
「将棋の好敵手なんですよね」
「そうか。伝えておこう」
「手塚くんも是非遊びに来てくださいね、弦一郎も喜びますから」
「喜ぶ、か?」
「はい」
「そうか。では連絡先を教えてくれ、都合のつく日に祖父と伺おう」
「はい」


「ではな、」
「ええ。ドイツ留学、応援してます。身体にお気をつけて」
「ありがとう。お前も健康には気をつけろ」
「はい」


ある日ある時どこかの場所で。



【偶然ですね2】

「アーン?真田じゃねえか」
「跡部、彼女から離れろ。お前は早くこっちに来い!」
「弦一郎、誤解だって」
「…何があった」
「いやあ、ちょっと…」
「柄の悪いのに絡まれてたコイツを助けただけだ」
「……そうか、すまなかった。礼を言う。全くお前は…!大丈夫か?何もされていないな?」
「ん、平気」
「あまり俺から離れるな。いいな」
「はい」
「おい、俺様を無視とは良い度胸じゃねえか」
「あ、ごめんなさい!先程はありがとうございました。ええと…あとべくん?」
「この男は氷帝の部長、跡部景吾だ。跡部、彼女は俺の許嫁だ」
「成る程…道理でテメーが骨抜きな訳だ」
「む、」
「許嫁って聞いて吃驚しない人初めて見た…」
「アーン?婚約者なんて珍しいもんでもねーだろ」
「…そうなの?」「いや、他はわからんが…」
「っと、時間だ。じゃあな真田、次はコートで会おうぜ」
「ふ、望むところだ」



「凄い人だったね」
「ああ、派手好きだが、強い男だ」
「そっか、対戦したこと、あるの?」
「ああ、一度な」
「…見たかったなぁ」
「………跡部をか」
「違うよ弦一郎をだよ」
「む、そう…か」
「そうです」
「…近々、練習試合をする話があるのだが」
「うん」
「……氷帝を、提案しておこう。だから…その、見に来てくれないか」
「うん!」


知り合いが増えました。

庭球ss誰も知らない彼女の話

※女主の一日


目覚まし代わりの携帯電話がジャズのメロディを奏でる午前4時30、眠気眼を擦りながら起床。

顔を洗い、歯を磨いたら制服に着替え、キッチンへ向かう。

エプロンを身につけ朝食の準備、お義祖父さんは遊びに来ていないし、お義母さんとお義父さんが出張のため、暫くは二人分だ。

なめこの味噌汁に、ご飯、鮭を焼いて、ひじきの煮物を出して、お新香を小皿に盛る。
卵と納豆を並べ、海苔を添える。

一緒にお弁当の準備。
ご飯を詰めて、昨日作っておいた焼肉とほうれん草のお浸し、きんぴらごぼう、卵焼き、漬物、デザートの果物を彩りよく並べる。
おかずが少なかったので、自分の分から三枚ほど焼肉を弦一郎のお弁当に移す。
成長期の弦一郎のお弁当は、見てるだけでお腹一杯になるが、毎日美味しかったと米粒ひとつ残さず平らげてくれるので、結構嬉しい。

準備が済んだら、洗い立てのタオルとお手製スポーツドリンクを片手に道場へ。
身体から湯気を出し稽古をする弦一郎へ声を掛け、ドリンクを手渡す。

シャワーを浴びる弦一郎の着替えとバスタオルを脱衣所に置き、洗濯機を回す。
毎回思うんだか、弦一郎的には女の子に下着を洗わせることは、なんとも思わないんだろうか。
真っ白な褌が眩しくて、しょっぱい気持ちになった。

さっぱりした弦一郎にお茶碗を渡し、ご飯の時間。
何時に帰るとか、味噌汁が美味いとか、他愛のない話をする。
今日は部活が早く終わるらしい。
迎えに行くから待っていろと言われたが、電車賃の関係から私が立海へ向かった方が安いので却下。
食後のお茶を煎れ、休憩。

弦一郎を送り出し、登校。
何事もなく授業を終える。
地理のテストがちょっとヤバかった。
弦一郎に見つからないよう隠そうと思う。
放課後のカラオケを断り、弦一郎にメールを送り立海へ向かう。
他校の制服がちらほら見えるのは、テニス部の偵察らしい。
以前、流石王者だねと感心したところ、当たり前だとかまだまだだとか言いつつ心なしか嬉しそうだったっけ。

コートに集まる女生徒の熱気に圧倒されつつ、練習試合を観戦。
切原くんが柳くんに完封されていた。
柳くん凄いなぁ、あんなに目を細めているのにボールが見えるのか。

開眼した柳くんと目が合う。
反射的に謝った。

切原くんに見つかったらしい。
見えない尻尾を全力で振りながら近寄ってきたので、ポケットに入っていた飴をあげる。

こちらに気づいた弦一郎に小さく手を振る。
微かに頷かれた。
もう少しだから待っていてくれ、の意味だろう。

柳生くん会釈をすると、会釈を返された。
彼は【紳士】らしい。
テニスで紳士って何だろう。
ひたすらフェアなんだろうか。
皆の二つ名はよく解らないものが多い。

幸村くんが部活終了と言ったので、部室脇に移動。
桑原くんが挨拶してくれた。
彼は親切で、おおらかな良い人だと思う。
漬物ありがとなと言われた。

柳くんにごめんなさいと謝ると、苦笑した彼に頭を撫でられた。
きちんと見えている、と言われ、背筋が凍る。
柳くんの前で下手なことは考えられない。
きんぴらごぼうが薄味で美味しかったと言われた。

丸井くんにお菓子をねだられ、貰い物のガムをあげる。
好きなメーカーだったらしい。
ガムは食べないので、良かった。
卵焼きうまかったぜと笑っていたが、弦一郎、皆に分けてあげたのかな?

下手っすけど、と、切原くんが調理実習で作ったクッキーをくれた。
肉美味しかったんでお礼ッスと笑う切原くんの頭を弦一郎が叩く。
勝手にお弁当を漁られたらしい。
お腹空かなかったか聞くと、むすっとした顔で食堂のお握りを食べたと返された。

皆はこれからファミレスへ行くらしい。
幸村くんに誘われたので弦一郎を見上げると、少し考えた弦一郎は一言行くぞと私の手を取り歩き出した。

仁王くんと目が合う。
意味ありげににやりと笑われたので、こんにちは仁王くん、と困惑ぎみに笑顔を返す。
あまり話したことはないので、彼の事はよくわからない。

切原くんがと丸井くんがこちらを指差し驚愕する。


「えええ!!柳生先輩じゃなかったんすか!?」
「お前ら入れ替わってたのかよ!?」
「…やはりバレていましたか」
「完璧じゃと思っちょったんじゃがのう」


二人は時々入れ替わるらしい。
背丈も違うし、声も違うのになぜバレないのか、逆に聞きたい。
と言うか何故入れ替わっているのかと聞いたら、試合相手に精神的ダメージを与えるためだと言われた。
柳くんにルール違反ではないからなと頭を撫でられた。
柳くんはよく私の頭を撫でる。
彼曰く、ちょうど良い場所に頭があるから、らしい。
そんな「そこに山があるから登る」みたいな事を言われても困るんだけど。

然り気無く弦一郎に引き寄せられた。

ファミレスで夕食。
外食は久しぶりなので、普段食べないスープスパを頼む。
隣の弦一郎と一口ずつ交換したら、冷やかされた。
やっぱり「あーん」は駄目だったか。
何故からかわれているのか理解していない弦一郎に苦笑し、アイスティーを飲み干す。

帰り道、車道側を歩く弦一郎がぽつりと「お前が作る料理より美味いものはないな」とつまらなそうに言ったので、明日は久しぶりにビーフシチューを作ろうと思った。


帰宅し、弦一郎を入浴させる。
着替えを脱衣所に置き、洗濯物を片付けて、明日のお弁当と朝食の下準備。

おやすみと言いに来た弦一郎におやすみと返し、空っぽのお弁当箱を洗う。
綺麗に食べてもらえた。
嬉しいことだ。

ドリンクを作り、宿題を片付け、入浴。

目覚ましをセットして、十時に就寝。


今日も良い一日だった。





「…真田は一回爆発すれば良いんじゃないかな」
「なっ!?何を言うんだ幸村、」
「精市の言う通りだな、爆発しろ弦一郎」
「蓮二!?」
「ずるいッスよ副部長!!俺も美味いビーフシチュー作ってくれる彼女欲しいッス!!」
「よし、皆で材料を持ち寄って彼女にビーフシチューを作ってもらおうか。ちょうど、良い牛肉をお裾分けしてもらったんだ」
「さんせー!!俺、母ちゃんから赤ワインもらってくるッス!」
「ならば野菜は俺が用意しよう」
「私も野菜をお持ちしましょう」
「俺んちマッシュルームあるぜい」
「あー…そういやローリエがあったな」
「ほんなら俺はパンでも用意しようかの」

「お前達、勝手に話を進めるな!!」

「あ、もしもし、幸村だけど、…うん、あのね、お願いがあるんだ、うん…君のビーフシチューが食べたくてね…え?ふふ、ナイショ。材料は持っていくから…真田?真田はOKしたよ、…うん、ありがとう、それじゃあ、またね」



【彼女の一日】
(あの子にルーズリーフは日記に向かないって伝えておいてね真田)
(良いデータが取れた。地理が苦手ならこの柳蓮二が教えてやろう)
(…いや、必要ない。俺が教える)
(男の嫉妬は醜いぞ弦一郎)
(相変わらず凄い独占欲だね)

庭球ss誰も知らない彼女の話

※女主




午後の回診を終え、おば様から頂いた小学生用の問題集をベッドに広げていた私は、ばつが悪そうに病室の入り口に佇む弦一郎君へ首をかしげた。


「すまん、その、友達がいるのだが、」


お前に会いたいと言ってな、と。
苦い顔をする弦一郎君の後ろから、弦一郎君と同じぐらいの少女がひょこりと顔を出し、初めましてとにこやかに挨拶をした。
私はカーディガンを羽織り、布団から身体を出す。
スリッパを履いたところで、弦一郎君が慌てて此方に駆け寄り、寝ていなければ駄目ではないかと私をベッドへと押し戻した。
目覚めてから数ヵ月が経ち、髪の色も元に戻り、身体に肉が付き小学生の標準体型に近づいてきたのだが、弦一郎君は相も変わらず過保護である。
親鳥のように甲斐甲斐しく世話を焼く弦一郎君に、美少女は可憐な笑みを浮かべた。


「本当に仲が良いんだね。俺は幸村精市って言うんだ」


急に来てしまってごめんなさい、と。
手渡された紙袋を両手で受け取り、私は幸村精市君を凝視した。

幸村精市君、精市、…君?

なんと美少女は美少女ではなく、美少年だったのだ。
幸村くんは深みのある蒼い髪をさらりと揺らし、私に名前を聞いた。
軽い自己紹介を交わし、改めて幸村くんを見る。
美人である。
非の打ち所がないとは、まさに彼のことだろう。
幸村くんは私の抱える紙袋を白魚のような手でそれ、と指差す。


「君の好物だと聞いたから」


母の手作りなのだけれど、お口に合うと良いな。
はにかむ幸村くんに、紙袋を開く。
小さなカップに入った、クリーム色のプリンが並べられていた。
続いて、手作りではないのだが、と突き出されたビニール袋を弦一郎君から受けとれば、いつものそれがガサリと音をたてる。

幸村くんを見て、弦一郎君を見て、紙袋とビニール袋の中を覗く。
良いのかと問えば、彼らは柔らかい笑顔で、満足気に頷いた。

幸村くんと弦一郎君に椅子をすすめ、ベッド脇の引き出しからプラスチックのスプーンを三本取り、袋を漁る。
各々にカップとスプーンを手渡せば、困ったような顔をされた。


「幸村くんは、甘いもの、嫌いですか?」
「嫌いじゃないよ、でも、君のお見舞いなのに…」
「俺たちはいいんだぞ、お前の物なのだから。お前が食べるといい」
「みんなで食べたらもっと美味しいから」


遠慮する二人へそう言ったものの、彼らは顔を見合わせやはり困ったように視線を交わすばかりである。
このままでは埒があかないな、と思った私は、少々小狡い問いを二人に投げ掛けた。
私と一緒に食べるのイヤ?と。

心中で鳥肌を立たせながら何キャラだよとセルフ突っ込みをする私の横で、弦一郎君が目に見えて焦り出す。
嫌なわけがなかろう、たわけが!
そう叫んでプリンを食べた弦一郎君は、暫くもごもごと口を動かしてから小さな声で美味いなと呟いた。


「おいしい」
「良かった。母も喜ぶよ」
「弦一郎君のも、美味しいよ」
「む…いや、俺のものは、買ったものだ。幸村の母上が作ったものには、敵わん」


しょんぼりと肩を落とし黙々とプリンを減らす弦一郎君に、私は苦笑した。
落ち込んだような、拗ねたような表情が可愛い。
なんだか弟が出来たみたいだ。
幸村くんも同じように思っているのだろうか、髪と同じ色の瞳は、仕方がないなあとでも言いたげに細められていた。


「弦一郎君のプリン、すごく美味しいよ。私のことを考えて、私のために買ってきてくれるんだから、美味しくないわけないよ。弦一郎君のプリン、一番好きだよ」
「…そう、か」


単純だなあ、そうだねえ。
幸村くんと顔を見合わせ、無言で頷き合う。
弦一郎君は機嫌が良さそうに、ほんの少しだけ耳を赤くした。



【友人:幸村精市くん】
(幸村くん!)
(久しぶりだね。立海に来るなんて珍しいな。今日はどうしたの?)
(これ、このあいだのお礼。朝早く並んでもらってありがとう)
(なんだ、バレちゃったんだ)
(袋にレシート入れっぱなしなんだもん弦一郎、バレるよ)
(真田は詰めが甘すぎるよ…あ、クッキーだ。ありがとう、今度お礼しなきゃね)
(ループしちゃうって)
(あはは、気にしないで。あ、そうだ、今から真田と練習試合なんだけど、見ていくかい?)
(えと、邪魔じゃなければ)




※幸村くんと初対面
テニススクールでそわそわする真田から女主の件を聞き出し、楽しそうだったのでお見舞いに。
家庭菜園に興味がある女主(目指せ自給自足で独り立ち)とはガーデニング仲間、美術館仲間で良い友人。

庭球ss誰も知らない彼女の話

※女主


一緒に暮らす。
そう笑った翁に連れられて来たのは、どうやら同い年であるらしい男の子だった。
ちなみに余談だが、私はその日初めて自分が6歳の小学1年生であることを知った。


「…食べんのか」


腕を組み仁王立つ弦一郎君に曖昧な笑みを浮かべて目の前にあるカップを見下ろす。
値札シールが貼ってあるまま、ずいっと押し付けられたのは、見覚えがあるような無いようなメーカーのプリンだ。
ぷるるんぷりん?と首をかしげながらまじまじ黄色いお菓子を観察する私に、弦一郎君が痺れを切らし先程の言葉を発したのだ。


「プリンだ。嫌いだったか」


ぐ、と。
眉間に溝を作った弦一郎君に慌てて嫌いじゃないと伝え、フィルムを剥がす。
ぺりぺりと銀の蓋が開き、甘い匂いが鼻を擽った。
プラスチックのちゃちなスプーンで弾力のある塊を掬い、弦一郎君を見れば、彼は拳を握り緊張した面持ちで固唾を飲み、こちらを見守っていた。
あまりにも真剣なその表情に、なぜか私も体を固くしながらふるりと揺れた黄色を口に入れる。
優しい甘さがじんわりと舌に広がり、舌の根がきゅうと縮こまる。


「美味い、だろうか」


遠慮がちにそう窺った弦一郎君は、俺はあまりそう言う物は食わんのでどれが美味いのか判らなかったのだ、とまくし立て、恥ずかしそうに口籠る。
最近ようやく点滴から固形の、と言うよりもお粥やらスープなどの流動食に切り替わった食生活を鑑みての差し入れだろうそれが、ひどく嬉しかった。


「おい、しい」


着々と快方に向かっている【少女】の身体の、使いなれていない声帯を駆使して途切れ途切れに伝えた一言は、弦一郎君の眉間から溝を取り去り、彼を喜色満面にする。


「急がなくて、いい。ゆっくり食え」
「ありがとう」


一口一口、プリンを頬張る。
弦一郎君は何も言わず、ただ私を見詰めていた。



【好物:プリン】
(お帰りなさい弦一郎。お義母さん達はお泊まりだよ。あれ、これ…)
(ん、ああ、土産だ)
(うわあ!これ東京の有名なお菓子屋さんの1日十個限定特製プリン!しかも五個も…お一人様一個で、並ばないと絶対買えないのに…良いの?)
(む、いや、うむ、知人がな、たまたま…そう、偶然譲ってくれたのだ。お、俺は風呂に入る!)
(うん、着替え持っていくね)
(…うむ)






(……おつりと、レシート五枚…さしずめ弦一郎、柳くん、柳生くん、ジャッカルくん、幸村くんかな。朝早かっただろうな…後でお礼しないと)

(……む、しまった、釣り銭を出すのを忘れていた!!)



※転生?主人公。
お見舞い中、骨皮な主人公を心配してほぼ毎日プリンを差し入れた真田弦一郎(8)の所為で、好物はプリン。
中3になっても機会さえあれば丸井から美味しい店を聞き出し、お土産にプリンを買ってくる。
合宿で出た跡部家のプリンも、頼み込んで土産にしてもらい、持ち帰り主人公のお土産にした。
跡部にからかわれたが、「何かおかしいのか?」と真顔で撃退。
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