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sss放浪鬼




鶯張りの廊下を進む小十郎は、おやと目を見張った。
日当たりの良い場所でゆるりと猫を撫でるのは、梅の精とも狂い鬼とも呼ばれる男である。
膝に乗せた黒猫へ穏やかな笑みを浮かべ、会話するかのように表情を変える男の纏う空気は何時になく柔らかい。
小首を傾げ甘い声で鳴く猫の湿った鼻を人差し指で押し、男は苦く笑んだ。


「仲、良いじゃねえか」
「そうか?」
「目の悪い男じゃのう、儂が良いように弄ばれておるのが見えぬのか」
「人聞きの悪い事を抜かすな夜一」


じゃれあう一人と一匹に口元を緩め、小十郎は男の向かいへ腰を落とした。
滑らかな毛皮に指を滑らせ、夜一と呼ばれた猫の喉を擽る。
とろけたような双眸に見上げられ、小十郎は綺麗な猫だと感嘆を漏らした。
背から、腹へ手を移動させ、肉の感触を楽しむ。
わさわさと撫でると、猫が身体をくねらせ始めた。


「おぉふ…!師よ、コイツはタラシじゃ。指捌きが素人ではないぞ…ぁあ!」
「ぶっは…!小十郎、大胆すぎるだろ!」


声を震わせ、惚れる、惚れてしまうと身悶える黒猫。
肩を揺らしてからからと男が笑う。
腹が吊りそうだと涙を拭う男の姿に、小十郎は面食らって幾度か瞬きをした。


「そうか、指遣いが玄人か。すけべえだな小十郎!」
「…何?」


すけべえめ、と腹を抱える男がどうしようもなく神経を逆撫でたので、小十郎は自身の欲求のまま握った拳を男の身体へ捻り込んだ。
痛いと呻く声を無視し、猫を見る。
意地の悪そうな貌をされ、小十郎は少しばかり尻込みした。


「そう遠慮無くまさぐられるのは久方ぶりじゃのう」
「誰にされたかは聞かねえぞ」
「云わぬわ、阿呆」


助平爺めと男の手甲を叩いた猫は、しなやかな動きで宙を舞う。
とんでもない言い掛かりにむっつりと口を噤んでいた小十郎は、何処からともなく湧いた煙に包まれた黒猫の影が形を変えてゆく様に声を無くし驚愕した。
黒猫の姿は何処にもなく、現れたのは褐色の肌を持つ女が一人。


「いやはや片倉の、随分無体をしてくれた」


惚れてしまったらどうしてくれる。
猫と同じ紫水晶色の瞳を細め嘯く女に、男の投げた羽織が投げられた。



【戦国的ドッキリ】
(ならば師は恋敵じゃな)(俺が負けるとでも?)
(てめ…ソレ人間じゃねえか!!!)
(…一度も猫だなんて言ってないけど)
(愉快な男じゃ)
(あんたは其れを羽織れ!!)
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sss死神


あなたの所為で世界が変わる、私の所為で未来が変わると泣き崩れた少女に、男は首を傾げた。


「なぁ、何をそんなに悲しがってる」
「だって私達は原作にいないのに!異分子なのに!原作が変わって死なないはずの人が死んだりしたら、そんなの…!!」


耐えられない。
絞り出すような声で泣きながら可愛らしい顔を歪める少女。
男はその華奢な肩に手を乗せ、律儀な子だと苦笑した。


「世界は、大樹だよお嬢さん」
「たい、じゅ…?」
「そう、世界ってのは案外あっさりしてるもんだ。これがダメならこっちってな具合に、選択肢を無限に増やしながら日々横道へ逸れてる」


例えば俺と君の居ない世界、例えば俺だけが居る世界、例えば君だけが居る世界。
その反対もまた然り、そう笑う男は白い羽織を翻し楽しげな足運びでくるりと回った。
長い黒髪が風に舞う。


「選択肢にぶつかる度、世界は割れて広がっていく。割れた先にもまた分岐点があって、ぶつかる度に世界は増える。どんどんどんどん増殖して、一本だった筋道はやがて無数の枝葉になる」


それこそ何百何千生きた大樹のように。
背筋が寒くなる程の美貌に生き生きとした色を浮かべ、男は笑い続ける。


「そんなの…ただの想像じゃない」
「どうかな」
「だって、証明できない」
「なら、無いって事を断言できるか?」


選ばなかった選択肢の先に、世界が無いと、本当に言い切れるのか。


「悪魔の証明…、ね」
「賢いなお嬢さん」
「馬鹿にしてるの?」
「まさか」


片手をぱたぱたと揺らし眉を垂らす男。
少女は学生服の袖で涙を拭い、真っ直ぐな双眸で男の目を見据えた。


「なら、大丈夫なのかな。私が居ても、原作は変わらないのかな」
「不変だからこそ原作なんだろ。俺達が生きる世は亜流。無限に伸びる枝の一本が折れようが枯れようが、どっか別を直走る『原作』は痛くも痒くもないし、何の変化もない。助けたかったら助けりゃいい、殺したかったから殺せばいい。起きた物事の全責任が自分あるって事を忘れなきゃ、好きなように生きられる」


あなたは好きに生きているの。
囁くような少女の問い掛けに、男は群青の瞳を柔らかく滲ませた。


【邂逅】
(守れなかった昔の先に)(広がる世へと想いを馳せて)(今日もせっせと枝葉を増やす)



―――――――――――――
よく『原作を変えてしまう』、『原作を変えてやる』と言う表現を見かけるので。

なんだかなぁと思っちゃうんですよね、作者でもあるまいし本筋は変えられるはずがないのに…と。
そう言った葛藤が必要なのかもしれないけど、何やったって変わらないから原作なのであって、夢主人公とかオリジナルキャラクターとか入った時点でそれは原作からぽーんと離れちゃった派生的な物だと思うんですよ。
こういう話の進み方もあるかもしれません的な、完全なる番外かアナザーストーリー、オマージュとかそんなん。
離れた時点でどうせもう原作じゃないんだから、派生は派生として開き直っちゃえばいいのにと思うのは私だけだろうか。

とりあえず、『原作が原作が』と、うじうじ悩む流れが苦手なだけです。


ううむ、上手く伝えられない。

sss放浪鬼



あんにゃあんにゃと舌足らずな口調でヒヨコのように甘えられ、それに答えるべく存分に甘やかしてやった。
今になって接し方を間違えたような気がしてならないと思うのは、眼前で小十郎と対峙する男の眼差しが嫌に真剣味を帯びているからだろうか。
そんな取り留めのない事を考えつつ、來海は土産だと手渡されたミニチュア木騎をしょっぱい表情でかしょかしょと動かしていた。


「俺ァ認めねぇぞ右目のニイサンよぉ…兄者はなぁ、美人な嫁さんを娶るのさ。そりゃ間違ってもあんたじゃねえ」
「海賊風情が随分な口の効き方じゃねえか…」
「はっ!兄者はモテるからな、あんたは直ぐにお払い箱だ。可哀想な話じゃねえか」
「来もしねぇ先を得意げにべらべら喋るとはな。てめぇでてめぇを笑うたぁ、便利なこった」
「何だとこのジジイ」
「やんのかこの糞餓鬼」


同じく土産だと手渡されたミニチュア暁丸のクオリティに感嘆の息を漏らし、渦中の男は遠い目をしつつ二機のミニチュアを寂しそうに弄くった。


「良いのか、アレ」
「俺止めたもん、」


何コイツ、もんとか言っちゃって気持ち悪い。
内心でそう呟いた政宗は庭でやり合う二人を見て、男の赤く腫れた両頬を見て、南蛮風の仕草を交えながら長く息を吐いた。


「何しに来たんだ長宗我部は」
「お見合い絵姿持って縁談勧めに」
「何でキレたんだ小十郎は」
「ダラダラお茶を濁したら業を煮やして」
「何でお前は打ちひしがれてんだ」
「二人の拳が綺麗にほっぺた抉った後、倒れたまま一刻ほど放置されたから」
「要するに」
「俺の所為です」


この男の事だ、見合い相手と小十郎を天秤に掛けたわけではなく、どうやったら長宗我部を傷付けず断る方向へ説得できるのか唸っている間に事態が悪い方へ悪い方へと進んでしまったのだろう。
置いてあった煎餅を齧り、政宗は『コイツ馬鹿だなぁ』と心底思った。
南蛮語を一切挟まない辺り、政宗の本気度合いが窺える。


隣でめっそりする男は本気になれば日の本を掌握し、世を滅ぼすことすら難しくない力を持つと言うのに。
懐に入れた者同士の小競り合いで、この世の終わりのような顔をしてめえめえ鳴いているのだ。
兎が獅子を泣かせているというか、なんというか。
全く可笑しな話だが、弱いものイジメをしているようではないか。


アンタが本気になりゃ一発だろ。
疑問符を付けず放たれた言葉に、男は眉尻を限界まで引き下げ、涙目で首を左右に動かした。




【他称嫁vs自称義妹】

(本気になりゃぁ少しは格好良いんだがねぇ…いらねーgap有りすぎだろ)
(日常で殺気立つ必要性が感じられない。こっちにゃ四六時中刀引っ提げて突っ込んでくるバカも居ないからな)
(難儀な話だ…)

sss放浪鬼



ぐうぐうと寝息の煩い男の後ろ頭を撫でつつ、片倉小十郎は込み上げる欠伸を一つかみ殺した。


先刻から膝を陣取る男の眠りは存外深いらしく、少し前に厠へ行くため膝を枕にすり替えたのだが、戻ってみれば身動ぎ一つせぬままの姿で眠りこけていた。
いくら城の一室で腕に自信があるとは言え、今の世にこの爆睡っぷりは危ないんじゃないだろうか。
大丈夫なんだろうなと心を砕いてみても、当の男は未だ死んだように眠るばかりである。


死人なのだから、『死んだように』ではなく『死んでいる』か。
小さなようで、その実途方もない間違いに苦笑する小十郎の眼前にひらひらと黒い物が割り込んだ。
季節外れの蝶は黒字に白い紋様を浮かべた羽根を優雅に動かし、眠る男の頭上をぐるぐると飛び廻る。
たかだか蝶一匹、騒いだところで音など何もしないはずだと言うのに、男は柳眉を歪め煩わしげに低く唸った。
黒い揚羽は男のささやかな抵抗を気にも止めず、ひらひらと廻り廻る。


「無粋な真似はよしな」


小十郎は眦を吊り上げ、両の掌で揚羽を包む。
蝶を捕らえた途端苦悶が抜けた男の寝顔に頬を緩ませ、さて何処に逃がしてやろうかと窓へ視線を向けた小十郎は、瞬間背筋を這い上がった怖気に思わず手を擦り合わせてしまった。

しまった、と思うも後悔先に立たず。
祈るような形で固まった手を恐る恐る開くと、生き物の残骸が糸を引いた。
ぱらぱらと砕ける漆黒の翅に、悪いことをしてしまったと胸が痛む。


「こじゅうろう…?」


潰したときに声を上げてしまったのか、寝ぼけ眼の男が心配そうに小十郎を窺っている。
咄嗟に何でもないと嘘を吐き両手を隠すと、男はふにゃりと笑んでまた意識を手放した。
安堵の息を漏らし懐から取り出した手拭いで掌をこする。
蝶の鱗粉が怨めしげに白黒の斑筋を作り、やがて綺麗に拭き取られた。
小十郎は眼下の男へ視線を遣り、ゆっくり休めと静かに口付けた。


【ドクターならぬ××ストップ】
(最近あの手の蝶を見かける回数が多いな…)
(最近は無茶な呼び出しが減って万々歳だが…どうかしたのかな)


「よく寝たようだな」
「おう、やっぱり昼寝にゃ小十郎の膝が一等だ」
「そうか」
「…機嫌、良さそうだけど何かあったのか?」


「いや、何もねぇ」



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