あなたの所為で世界が変わる、私の所為で未来が変わると泣き崩れた少女に、男は首を傾げた。
「なぁ、何をそんなに悲しがってる」
「だって私達は原作にいないのに!異分子なのに!原作が変わって死なないはずの人が死んだりしたら、そんなの…!!」
耐えられない。
絞り出すような声で泣きながら可愛らしい顔を歪める少女。
男はその華奢な肩に手を乗せ、律儀な子だと苦笑した。
「世界は、大樹だよお嬢さん」
「たい、じゅ…?」
「そう、世界ってのは案外あっさりしてるもんだ。これがダメならこっちってな具合に、選択肢を無限に増やしながら日々横道へ逸れてる」
例えば俺と君の居ない世界、例えば俺だけが居る世界、例えば君だけが居る世界。
その反対もまた然り、そう笑う男は白い羽織を翻し楽しげな足運びでくるりと回った。
長い黒髪が風に舞う。
「選択肢にぶつかる度、世界は割れて広がっていく。割れた先にもまた分岐点があって、ぶつかる度に世界は増える。どんどんどんどん増殖して、一本だった筋道はやがて無数の枝葉になる」
それこそ何百何千生きた大樹のように。
背筋が寒くなる程の美貌に生き生きとした色を浮かべ、男は笑い続ける。
「そんなの…ただの想像じゃない」
「どうかな」
「だって、証明できない」
「なら、無いって事を断言できるか?」
選ばなかった選択肢の先に、世界が無いと、本当に言い切れるのか。
「悪魔の証明…、ね」
「賢いなお嬢さん」
「馬鹿にしてるの?」
「まさか」
片手をぱたぱたと揺らし眉を垂らす男。
少女は学生服の袖で涙を拭い、真っ直ぐな双眸で男の目を見据えた。
「なら、大丈夫なのかな。私が居ても、原作は変わらないのかな」
「不変だからこそ原作なんだろ。俺達が生きる世は亜流。無限に伸びる枝の一本が折れようが枯れようが、どっか別を直走る『原作』は痛くも痒くもないし、何の変化もない。助けたかったら助けりゃいい、殺したかったから殺せばいい。起きた物事の全責任が自分あるって事を忘れなきゃ、好きなように生きられる」
あなたは好きに生きているの。
囁くような少女の問い掛けに、男は群青の瞳を柔らかく滲ませた。
【邂逅】
(守れなかった昔の先に)(広がる世へと想いを馳せて)(今日もせっせと枝葉を増やす)
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よく『原作を変えてしまう』、『原作を変えてやる』と言う表現を見かけるので。
なんだかなぁと思っちゃうんですよね、作者でもあるまいし本筋は変えられるはずがないのに…と。
そう言った葛藤が必要なのかもしれないけど、何やったって変わらないから原作なのであって、夢主人公とかオリジナルキャラクターとか入った時点でそれは原作からぽーんと離れちゃった派生的な物だと思うんですよ。
こういう話の進み方もあるかもしれません的な、完全なる番外かアナザーストーリー、オマージュとかそんなん。
離れた時点でどうせもう原作じゃないんだから、派生は派生として開き直っちゃえばいいのにと思うのは私だけだろうか。
とりあえず、『原作が原作が』と、うじうじ悩む流れが苦手なだけです。
ううむ、上手く伝えられない。