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STss

女主=斉藤 紫(サイトウ ユカリ)








安普請のアパートの入り口。
産まれて以来一度も染めたことのない黒髪を垂らし、紫は周りの眼も忘れその場で絶句した。
どう言うことかと繰り返し手紙を見返すが、内容の変わるはずもなく、へたりと腰を抜かす。

防犯面では全く役に立たないであろう錆の浮いたポストへ入れられていた封筒、苦労に苦労を重ね採用された職場のロゴ入りのそれを開けば、予め告げられていた部署との違いに愕然とするしかなかった。



な ん て こ っ た \(^ー^)/
思わず顔文字を飛ばした女、斉藤 紫は力なく立ち上がると携帯を開き、最近登録したばかりである上司になるはずだった特殊捜査班の室長へと電話を掛けた。





パンツスーツに黒いタートルと言う出で立ちの紫が新しい着任先である部署に顔を出したのは、へたり込んだ日から数えて一週間後のことである。
上司になるはずだった男は散々手を尽くしてくれたようだが、人事の些細なミスは間違い部署の人手不足という意見から訂正されることはなく、晴れて紫は今日から此処の職員になるのである。
簡素なスチールの扉を眺め、紫は涙を飲む。
神が己を嫌っているのは重々承知だが、何もこんなことまでしなくても良いじゃないか。
文系以外まるで役に立たず、受験の際は血を吐く思いで理系教科をこなした己に、此処で一体何が出来るというのだ。
警部殿の補佐的役割だと言われたが要はお茶くみや事務仕事が主なのだろうと、紫は大きく肩を落とした。

何の取り柄もない己が、良くも悪くもたった一つだけ持つ、力。
それを買われての就職だったはずなのに、と。
本日何度目か判らない溜め息を吐いた紫の目前で扉が開いた。


「溜め息ばっかり吐いてないで入ってらっしゃいな」


突如現れた肉感的な美女に紫は唖然と立ち尽くす。
前が大きく開いた服から零れ落ちそうな胸が、これでもかと存在を主張している。
目のやり場に困り俯くと、今度は剥き出しにされた白い太股が紫の網膜に焼き付いた。


キャップ、例の娘が来たわよ。
美女が部屋の奥に座っていた男へ話し掛ける。
開け放たれた扉から小さく中を覗くと、壁に向けられた机に何人かの姿があった。


「ありがとうございます結城さん。斉藤さん、どうぞ中へ」


線の細いメガネの男に招かれ、ともすれば飛び出そうになる不満を押し殺し足を踏み入れる。
素早く視線を巡らせ、人を把握する。
天使のようなと形容するしかない程の容貌を持つ青年、無精髭を頬に散らし退廃的な色気を滲ませた男、ヘッドホンを装着する露出美女、長い髪をサムソンスタイルに纏めた野武士のような雰囲気の男。


最後に一人の男へと眼が止まり、紫は鋭く息を詰めた。

お じ さ ん、だ。



紫は強く頭を振り、突如として己へと降りかかった真昼の白昼夢を払いのける。
深呼吸をして改めて男を観察すれば、何のことはない、ただの作務衣を着た坊主狩りの男である。


「きょうからSTのメンバーに加わった斉藤紫さんです」


ああ、帰って寝たら元に戻ってやしないだろうか。
珍獣を見るような相手方の視線に、そう願わずには居られなかった。



      水と油
(幽霊が見えるなんて言ったら解剖される…)(何も喋らなければボロも出ないから大丈夫)(……多分)

移転したい

…のでちょこちょこ移しているのですが、
ページ多くて進みやしねぇ…
明らかにおかしな箇所とか訂正しながらなのでまだまだ時間が掛かります。

3を交えるかどうか苦戦ちう
交えるとしたら家康三成黒田大谷勢揃いの豊臣存命の間か…
ムズい

放浪鬼ss

ふ、と。
意識が浮上した。
何故目を覚ましたのだろう。
虫の音か、風の静やかなうねりか、それとも鳥の鳴き声だろうか。

障子より漏れるのは煌々とした月明かり。
銀の光が辺りを縁取る今は、朝もまだ遠い夜半であろう。
小十郎は冴えてしまった目を恨めしく思いながら上体を起こした。
額にかかる前髪が煩わしい。
払いのけようと動かした利き手に重い拘束感を覚え、元凶を見た。


二つ合わせた夜具の隣、あまり距離のない位置に恐ろしく容姿の整った男が寝息を立てていた。
両の手で小十郎の左手をきゅうと掴み、あどけのない寝顔を晒す男に、小十郎はきつく寄せていた眉の力を抜いた。
起こしていた上体をまた元のように夜具へと沈め、男を眺める。

長い睫毛、通った鼻筋、赤く色づいた唇、濡れたように光を弾く緑の黒髪。
座敷をぼんやりと照らす月の光を受けた男の姿は、思わず息を飲むほどの美しさを小十郎に感じさせる。
生命と乖離した“美”が、確かに其処にあった。
そして、男が生き物ではなく一つの物であるかのようなその美が、小十郎はあまり好きではなかった。

可笑しな夢でも見ているのだろう、男の柳眉が徐々に狭まり、つり上がる。
歪められた口から低い唸りが零れ落ちてゆく。
常の表情に似てきた男の面を満足げに愛で、小十郎は引き締めていた口元を緩めた。

この、困惑しきった顔は、どうだ。
苦しむ顔、悲しむ顔、怒り、照れ、頬を染め嬉しがる様などは、言うまでもないだろう。
くるくると感情を変える男には物のような美しさとは違い、溢れんばかりの命の美が満ち満ちている。

男の頬に落ちていた黒髪を一筋脇へ除け、小十郎は独りの男を思い出していた。
以前この寝ている男に対し、卿は命が無ければ十分愛でるに値する嗜好品だと吐きかけた、不愉快極まりない相手だ。


笑わない男など男ではない。
泣かなくとも、怒らなくとも、また然りである。
男には心があり、それ故に男は男で居られるのだ。
心無い肉の器など、何の意味が有るというのか。
そんなものは欲しくない。


左手から伝わる温もりが段々と小十郎のまぶたを落としてゆく。
とろとろと睡魔に溶ける意識の中、小十郎は詰まらなそうに口を小さく尖らせた。


(今…起きねぇかな、)


少しだけ、本当に少しだけ、涙の膜に覆われた群青の双眸が恋しくなったのは、生涯誰にも話すことのない小十郎だけの秘密である。
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