※エディット武将と大殿の話
※クロニクル3イベ大殿ネタバレちょろり
己の手は汚さず、効率的な殺し方ばかり考える…一番卑怯なのは我々軍略家かな。
ぽつりと呟いた壮年の男に、黒と呼ばれる男は怪訝の色を其の瞳に浮かべた。
弓を扱う年老いた男の細い指が、虫干し途中の書物を徒に捲る。
紙の擦れが、はらはらと。
障子の向こう、赤く染まる紅葉が舞い落ちる音のようにも聞こえ、黒はほうと息を吐く。
「…その考えに乗り、重き咎を貴殿方に負わせる我々は皆、同じように卑怯者だ」
肌寒さを増した冬の影が、黒の身体を撫でるように流れる。
笑い皺の刻まれた男の双眸が、きゅうと細められた。
「そう言ってもらえると、私も気が楽だよ。さて、もう片付けてしまおうか」
手伝ってくれるかな、歴戦の勇士殿。
何をも読み取らせぬ男の微笑みに頷き一つで応え、黒は己の羽織で男の薄い肩をくるむ。
お風邪を召します故、と繋げられるはずの言の葉は、重ねられた男の乾いた唇へと吸い込まれて行った。
目を丸くする黒に、男はどこまでも飄々とした面持ちで『息子には内緒ね』などと首をかしげるものだから、堪ったものではない。
愛しているよ、黒。
何時見ても変わらぬ柔らかな微笑みで、息をするようにさらりと嘘をつくこの男の、末期の時まで傍に在りたい。
黒と呼ばれる男の、人知れぬ願いであった。
【此の愛の、なんと甘く穏やかなものか】
(嗚呼それはまるで貴方の瞳のよう)