ひたりと己を見据える鋭い眼光に喉が上下する。
琥珀色の瞳に満ちる期待と自信に、男はただただ困惑した。
「問おう、貴殿が私のマスターか」
凛とした耳に心地良い声音が場を震わせる。
男は暫し逡巡し、やがて漆黒の双眸に柔らかい光を滲ませた。
「違います」
【稀人来たりて】
「…え、」
「違います人違いです申し訳ありませんがお還り下さい」
「お、お止めくださ…痛っ、あの…主よ!!」
「主じゃねえ!!」
「貴方が私を呼び出したのではありませんか!」
「違う!いや違わないけど違う!!俺は十九や龍之介じゃねえんだぞこれ以上許容できるかチクショー!!」
こんにちは、しがない奇術師の九十九十八です。
好きなものは平穏、日常、オヒネリで、嫌いなものは死亡フラグにタダ働きに何らかの世界的組織、アカシックレコードです。
最近の雇主は大層シビアなので、そんじょそこらの手品を逸脱したビックリ奇術でもやらないとなぁと欲を出したのが運の尽きでした。
古典的な味でファンタジー系とかどうだろうと、雰囲気のある古本屋で購入した怪しげな魔導書がいけなかったのでしょうか。
じゃあリハーサルしようかなと、なんちゃって魔方陣になんちゃって呪文をそれっぽく叫んだら、
何か出た。
どれだけ鍛えればこんなに無駄なく引き締まるのか。
生命力に溢れた牡鹿の様なイケメンは、何処までもイケメンだった。
日本人とは質の違う癖のある黒髪を後ろへ無造作に撫で付け、此方を見詰める二つの瞳はまるで純度の高いハチミツのような黄金色に輝いている。
垂れぎみな眸の下に一つぽつりと宿る泣き黒子が、悔しいが本当に色っぽい。
我が弟に勝らずともそうそう劣らないだろう異国のイケメンは、何故か悲愴な表情で声を荒げた。
「貴殿は魔術師ではないのですか!?」
「俺は奇術師だ!!」
「奇術…では聖杯戦争は!?」
「知らん」
羽織っていたマントを椅子の背凭れに投げ、そのままどかりと腰を下ろす。
尻の下敷になったマントは皺になるのだろうが、そんなもん知ったことか。
額に手を当て、肺の空気をありったけ吐き出した。
「とりあえず、何か知ってるなら教えてくれ…ええと、」
「ディルムッド・オディナと申します」
恭しく頭を垂れ名乗るイケメンに首を傾げる。
ディルムッド・オディナ。
何処かで聞いたことがある。
「ディアルマッド・ア・ドゥヴニュ…、成る程ディルムッドか。神話の英雄と同じ名前なんだな」
何か奇術の足しになればと読み漁った古典神話に同じような名の英雄が居たような気がする。
小さく呟いた己に、恐れながらと声が掛かった。
己の事に相違無いと宣言したディルムッドへ再度溜め息を吐く。
目線で発言の許可を請うディルムッドを指で促し、己は日常へ別れを告げた。
【マスターステータス】
・九十九 十八
・188p、79s
・筋力C
・耐久E
・敏捷A
・魔力E
・幸運A++
言わずもがな、幸運+状況判断で生き延びて来た男。
奇術師の為、一般の人よりは体力があり敏捷さにも優れている。
常識人の苦労人で諦めが異様に早い。
運だけはいい。
生きることに意地汚い。
とりあえず死亡フラグを折りまくってランサーと頑張る話。