綺麗な庭だった。
白い花が咲いていて、西洋風の東屋があって。
ひらりひらりと白い蝶が舞う花畑の中に、ぺたりと座るのは二人の子供。
一人は黒い髪で、日焼けした擦り傷だらけの手足。
おでこに絆創膏を貼った、見るからにヤンチャそうな子。
もう一人は茶色の髪で、青い目と白い肌がとても可愛い大人しそうな子。
黒い髪の子が小さな手でお人形みたいな子供の手を握る。
綺麗な子は青い瞳をまん丸にして、やんちゃ坊主の笑顔にほっぺたを染めた。
『けーちゃんはおれがまもってあげる』
『ほんと?』
『やくそくする!おれがずっとずっといっしょにいて、けーちゃんをまもるよ』
『うん!けーちゃんは、タァちゃんのおよめさんになる!ずっといっしょ!』
綺麗な子がやんちゃ坊主の絆創膏へ小さな唇を寄せる。
やんちゃ坊主ははにかむ青い瞳に照れながらもお人形みたいな子供を抱き締めて唇にちゅっと拙いキスをした。
pipipipipipipi
目覚ましを止めて欠伸しながら布団から這い出た。
顔を洗い制服に着替え、母さんが用意した朝食を食べる。
歯を磨いて時計を見ればちょうど良い時間帯だ。
胴着を背に行って来ますと声を掛け家を出た。
今朝見た夢は妄想でもなければ、ドラマの一場面でもない。
正真正銘俺の記憶である。
臭いセリフを吐いた黒髪のやんちゃ坊主が俺だ。
実際あの時は本気だったんだ。
通りの向こうまで続く隣の家の塀を見上げ、引き吊った頬で苦笑する。
幼い頃見た綺麗な庭はこの中にあり、西洋風の東屋も変わらず其処に建っている。
俺は名前を知らないが、あの時の白い花も毎年欠かさず植え替えているそうだ。
同学年と比べれば太いだろう腕に、するりと誰かが絡みついた。
うんまあ誰かとか言う必要ないんだけどな。
「遅かったな龍政」
俺様を待たせるとは良い度胸じゃねえか、アーン?
たつまさと低く甘い声で俺を呼ぶ男の髪は茶色い。
昔から変わらぬアイスブルーの瞳を細め、形の良い赤い唇にうっすらと笑みを浮かべる人形のような幼なじみは、何が楽しいのか男同士で体をくっつかせジュース奢れよとセレブにあるまじき要求をぶつけてきた。
「…解った。放せ景吾」
逸らされることのないアイスブルーに居心地が悪くなり顔を背ける。
何が不満なのか、景吾はむすりとした顔でブレザーの裾を掴んだ。……伸びるから止めて欲しい。
俺の家は普通のサラリーマン家庭なので、氷帝の制服をほいほい買えるような稼ぎではないのだ。
ふてくされる景吾の骨張った手を攫い、指を絡める。
予想した以上に堅い掌に、こいつも俺もやっぱり男で、月日が流れるのはほんとに早いなと改めて溜め息を吐いた。
(あの日)
(犬に吼えられているお人形さんみたいな綺麗な子が居て)
(俺は思わず犬に跳び蹴りを食らわせた)
(犬も中々たいしたもので、すぐさま体制を整え鋭い牙で俺の額を傷付けた)
(びいびい泣く綺麗な子を見て、犬にもの凄く怒りが沸いて、俺は手近な石を掴みぐっと拳を握った)
(幼児の小さい拳とは言え、握り締めた石で横っ面をブン殴られた犬は尻尾を巻いて逃げ出した)
(頭が凄く痛かったけど、青い瞳に笑って欲しくて、無理して明るく喋って)
(綺麗な子の家で手当を受けて、名前を教えて貰って)
「けーちゃん」
「…龍政、その呼び方は止めろって言っただろ」
教えて貰ったのはあだ名だけで、俺はすっかりけーちゃんが女の子だと思いこんでいた。
擦り傷一つない滑らかな白い肌と、滲み出る気品にヤられたのかもしれない。
まさか男だとは思わなかったんだよ。
一ヶ月ぐらい毎日べたべたイチャイチャして、けーちゃんのイギリス行きが決まったと聞いたときにはちょっとだけ泣いた。
ガキながら、けーちゃんが自分の運命の相手で俺たちは夫婦になるんだと、そう確信していたから。
小さな体ですがりつき、いやいやと首を振るけーちゃんに、帰ってきたら結婚しようと玩具の指輪を渡したあの時の俺を誰か殴ってくれ。
けーちゃんを守れる強い男になろうと空手に精を出し、修練を積み黒帯を取り氷帝に推薦入学を果たした俺は、入学式で衝撃を受けることになる。
『今日から俺がこの学校のキングだ!!』
夢が壊れたときの音なんて知りたくなかった。
俺の初恋は見事に消えた。
【世界で一番跡部さま!】
(樺地と別れA組まで景吾を送り届け、そうして自分の教室へ)
(毎朝毎朝ご苦労なこっちゃと気遣われたが)
(好きでやってるから別に苦じゃない)
(迎えに来いよとニヒルな笑みを浮かべたアイツが、今でも汚れた玩具の指輪を大事にしていることを知っているから)
(二度目の恋は醒めないままだ)
「自分、大変やなぁ」
「別に。忍足数学のノート貸して」
「ええよ」
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長くなりましたが王道ネタ盛り込んでみました。
・幼児の頃から幼なじみ
・凶暴な犬から相手を守る
・女の子と勘違いしてプロポーズ
・成長したらびっくり、男だった
ベースはTAKAYAで。
幸村でもいけそうです。
真田とかだとショック倍増、柳もありえそう。
観月もOK、
セレブと庶民だったらやっぱり跡部かな
主人公
名前:藤堂 龍政
(とうどう たつまさ)
身長:189p
体重:80s
部活:空手部(主将)
好きな人:跡部景吾
「空手部の藤堂」で大体の相手は逃げる。
おでこに傷跡が残ってます。
因みにブレザーは伸びません。
単に龍政君が照れ臭いだけです。