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物理的にも、精神的にも物凄い衝撃だった。
度重なる残業で疲れていたことは認める、ついでに飯を抜いたことが祟って少し朦朧としていたことも認める。
確かに俺は注意力散漫な状態で運転していた。


一刻も早く眠りたい、そう思って俺は深夜の国道を飛ばした。
田舎故の単調な路に重くなる目蓋をこすった直後、走行する愛車のライトが照らしたのは、人間だった。
ブレーキを踏んだが間に合わず、人影にぶつかり車が停車する。
血の気の引く音をリアルに感じながらドアを開けた。
噛み合わない歯がカタカタとなる。
意を決して覗き込んだフロント部分は、べこりと凹んでいた。


「きっ、きゅうきゅうしゃ…を、」
「おい」
「よば…よばな、と」
「おい」
「けいた…ケータイ、どこに…」
「おいテメェ、此処は何処だ」
「煩ェ黙れ!!今それどころじゃ……あ?」
「なんだこの鉄の馬は…新手の絡繰りか?何にせよ痛えだろうが」


聞いているのかと訪ねる男は例えるならば、大河ドラマのサムライのような格好だった。
頬に走った傷、オールバックに固められた髪、茶を基本色にした革製っぽい…これは…陣羽織だろうか。
格好は武将だが、顔面は明らかにその筋の人の顔だ。
俺はコンクリと友達になるんだなと直感で悟った。


「俺を此処へ連れてきたのはテメェか…何処のモンだ」


スタンガンでも仕込んでいるのか、何やらバチバチと電気を走らせ始めた男は、腰に差していた刀を抜いて俺の喉元へと突きつけたが正直それどころじゃない。
刀の刃を手の甲で弾き男の懐へ飛び込む。
襟首を掴み引き下げ頭のてっぺんから爪先まで、怪我のある場所がないか調べた。


「痛いところはないか、頭はぶつけなかったか」
「い…いや…当たる寸前に蹴ったからな、少し脚が痺れる位だが」
「けっ…!?」


男を放し車を眺める。
成る程、大きく凹んだ傷の真ん中に、土の付いた草履の痕がぽつんと残されていた。


「え…ええええぇ、蹴って止めた…のか車」
「くるま…?絡繰りの名か」
「嘘だろおい、何で怪我一つねえんだよ」
「テメェ…やはり俺の命を…」
「つーか長ドス、ヤクザか?極道か?結局俺コンクリ詰め?臓器売買でバイバイなのか!?」
「おいテメェ頼むから俺と会話しろ」
「脚で蹴ったとか、どんな脚してんだよ…政府が秘密裏に開発した改造人間が逃げ出したのか?」「うおっ!?」


もしかしたら機械なんじゃないだろうかと、俺は男の片脚、車を蹴ったと思わしき左足を付け根からふくらはぎまで両掌で揉んでみた。
鍛えられたバネのような筋肉に生き物の気配しか感じなくて、ちょっと後悔した。
ついでに気色悪いと男に殴られた。


一段落し俺は男を待たせ車を見る。
車は動きそうになかったため、保険屋に任せることにした。
外で喋っていられるような外気温ではなかったため、タクシーに乗り込み自宅へ移動する。
おかしな顔をしたタクシーの運ちゃんにはコスプレだと説明しておいた。
クオリティ高いね兄ちゃんと誉められた。

自宅近くで下ろしてもらい、歩いてマンションまで向かう。
住所を覚えられないように遠回りしてぐるぐると徘徊していると、男は不思議そうに明るいなと呟いた。


「で、結局此処は何処なんだ、奥州の近くか」
「欧州?ヨーロッパじゃねえよ、宮城県の片田舎だ」
「よろ…ぱ?みやぎ…けん?新しくできた国か」
「国は日本だろ、ヤーサンどっから来たんだよ」
「俺は片倉小十郎だ、やーさんじゃねえ。にほん…どんな字を書くんだ」
「どんなって…、お日様の日に、書籍の本…本当とか本人とかの本だよ」
「に、ほん…日本…日ノ本…だと…!?」
「日の本…?あー、昔の日本の呼び名だろ」
「昔!?」
「六十年前にはもうニッポンだったから…もっと昔じゃねぇか?極端な話し戦国時代とか」
「戦国乱世は今だろうが」
「あんたいったい何処から来たんだ?まさか病院から抜け出してきたんじゃねえだろうな…っと、ここだ」


いつものようにエントランスからエレベーターに乗り、五階にある部屋へ行こうとしたら、背後で鈍い音がした。
振り返り見れば男が額を押さえ蹲っているではないか。
慌てて引き返そうと自動ドアの前に立つと、しゃがみ込んでいた男に動いた部分のドアがぶつかり、ころりと転げた。


「なんか…ごめん」
「…いや、いい」


――続かない――

ちょっと長くなったので終了。
戦国武将とぶつかったら車が大変なことになるよねとの会話から派生。
きっと擦り傷だけとか、傷一つなく生きているに違いない。
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