やたらとすーすーする股下を頼りなく思いながら、溜息を吐いた。
年に一度の学園祭、浮かれた生徒達のざわめきが四方八方から聞こえる放課後の教室で、俺が副担を勤めるこの3-Dは限りなく氷点下だった。
夏も過ぎた秋半ばのこの日だが猛暑の名残は未だ去ることがなく、だと言うのに教室の温度はだだ下がる一方。
原因は、考えたくなかったが自分自身である。
3-Dの出し物はコスプレカフェで、因みに言い出した生徒は手を挙げた時点で顔面蒼白だった。
じゃあせっかくだから先生もコスプレしようぜと言い出した極道の次期当主は物の見事に棒読みで、極めつけにちらちらと後ろを、正確に言えば彼のお目付役であり担任の片倉小十郎の機嫌を伺っていた。
じゃあ早速衣装決めようぜ。
左目をうろうろさまよわせた伊達が、いかにもわざとらしい様子で明らかに何か細工をされているクジ箱を取り出したとき片倉小十郎が満足げにうなずいた顔は暫く忘れられないと思う。
お前等の力関係はどうなってるんだ。
あれよあれよと生徒に囲まれ無理矢理手をつっこまされた箱の中で嫌々掴んだ紙の結果が、これだ。
下は膝丈より5センチ短い紺のプリーツスカートに、黒いニーハイソックス、このサイズのコインローファーはどっから見つけてきたんだマジで。
上は長袖のブラウスに赤いスカーフ、その上に黒のカーデは勿論萌え袖。
ねぇ俺三十過ぎてんだよ、体重だって80越してるしタッパは190オーバー。
ミニスカートから伸びる大腿筋だって見事に引き締まってるよな?
腕もゴツいし腰だって其処まで括れてないし、完全に男だろ?
なのになんで育ち過ぎちゃった女子高生みたいな格好してるんだろう。
黙々と作業する教室の隅っこで体育座りをする俺の膝には、かすがからの見舞い品であるフリースの膝掛け。
体面もなくめそめそと泣き濡れる俺の隣で鼻息を荒くする残念な頭の片倉は、慰めともつかない言葉を吐きながら嬉々としてデジカメを使いながら隙あらばフリースを奪おうと手をワキワキさせている。
何でこいつはこんなに残念な仕様になってしまったんだろう。
出会った当初は忠義一途な性格で、剣道部の顧問として惚れ惚れするような剣捌きを見せてくれる、渋くて格好良くて人望もあって一寸どころか物凄く好みの人物だったのに。
いつの間にか廊下で挨拶するようになり、昼食を共にするようになり、色々相談したりされたり、そのうち何故かストーカーに昇格した片倉を生ぬるい目で放っておいたらこの様だ。
すっかり残念なストーカーと化した片倉の頭は、本当に残念だった。
無言ならまだマシな深夜の留守電には数分おきに長々と愛の言葉が入っているし、一言なら両手をあげて喜ぶだろう血文字風手紙には俺とこれからどうなりたいか、将来は家を買って子供は養子を迎えて…だの、甘ったるい未来へのヴィジョンがハンパなく書かれている。
渡される昼食は毎日愛夫弁当で、何故か毎日お高そうな真っ黒い外車でセクハラ付きの送迎が通常化しているし、誘拐まがいで連れて行かれた奴の家、伊達の屋敷に用意された片倉の部屋には、妙にかぴかぴした写真やら、なんだか汚れている下着やら、無くなったはずのペンやら何やらが几帳面に小分けされていて、流石にこみ上げてくる嘔吐感を抑えられなかった。
今まで片倉を放っておいた俺は、成人して久しい自分が同じく成人して久しい男性の性のはけ口というか対象になっている実状を見せ付けられ漸く事の重大さに気が付いた。
このままじゃ掘られる、と。
泣きすぎて腫れぼったくなった目を押さえていると、涙の元凶が甲斐甲斐しくも濡れタオルを差し出してくれたので大人しく受け取った。
「泣くほど嫌だったとは思わなかった、すまねぇ」
口をつく言葉こそ丁寧だが、片倉の手は剥き出された太ももを撫でさすっている。
其れが嫌なら此なんかどうだ、と。
その手に持たれたピンクのナース服と明らかに特注のスクール水着、ぶりぶりのメイド服に、緒の切れる音がした俺は悪くないと誰か言ってくれないだろうか。
胸元のスカーフを抜き去り片倉の両手首を縛り上げ、無防備な脚をかぱりと開かせ、片膝で股間をぐにぐにと揉みしだく。
苦痛の漏れる口にネクタイをねじ込んでワイシャツのボタンをぶちりと引きちぎった。
最終下校時刻を過ぎた校舎内に俺たち以外人は居ない。
もう色々と限界だった俺は、低い唸りのような笑い声を喉から絞り出し、確実に据わっているだろう目で自分の下にいる片倉を見下ろした。
手元にあるのは最新式のデジカメ、学園祭準備に使っていた紐なら何やらの小道具。
なぁ片倉先生、あんたはさんざんあんたの頭ん中で俺を可愛がってくれたらしいが、生憎俺は生まれてこの方猫ちゃんに回ったことはない。
どういう事かは、わかるよな?
「女子高生に犯される気分だろ?」
眉を寄せる片倉が拘束を抜けようと力を込めたが、許すつもりは毛頭無い。
優しくされたかったら早々に諦めて精々可愛らしく喘ぐこったな。
【元温厚、現凶暴】
(白濁やら涎やら非常に可哀想な外見になった屍を伊達家の玄関へ放り出した翌日)
(何故か枕元に白無垢の奴が居て、俺は大層後悔した)
(ヤバいぞ今度は俺が加害者じゃねぇか!!!!)