スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

sss小十郎



厄介な事この上ない。
若さ故の傲慢が見え隠れする青年を前に、小十郎は小さく苦笑を漏らした。
青年は整ったかんばせを歪ませ、小十郎をはたと睨み付ける。
小さく開かれた唇の隙間から、青年の吐息とも取れる声が小十郎に何故だと問うたが、問われた所で素直に答える男ではない。
悔しがる青年を適当にあしらい、小十郎は今此処には居ない話の種に思いを馳せた。


矜持が高い癖に甘えたで、寂しいと声は出さずに己へ縋る。
寒がりで、気が多く、何時も誰かを求めていて、そのくせ誰も内へは踏み込ませない。
途方もない化け物で、笑えるほどに人間臭い。
独りが好きで、独りを嫌う。
欲しがりの、与えたがり。
面の皮だけが抜群に良い、子供好きの大馬鹿野郎。


当人が聞けば三日三晩落ち込むような言いようだが、事実そうなのだから仕方ない。


「諦めな」


あの馬鹿に付き合えるのは俺ぐらいなもんだ。


【あげないよ】
(なにもかもを許された)(唯一無二の男が笑う)
(お前にゃ無理だと)
(微笑う)(嘲笑う)






オリジsss

知らなければ良かったと口にしないのは、言った自分以上に知らせた友人が気に病むことを解っているからだ。

久しぶりに漕いだ相棒は所々錆びていて、ペダルを踏む度にきいきいと耳障りな金属音を鳴らす。
ぽつぽつと灯る街頭に照らされる、古ぼけた住宅街の質感は、否が応にも過ぎていった時間の流れを己に伝えた。
坂とも呼べない緩い勾配の下で、立ち並ぶ団地の影を見る。
クリーム色だった塗装が剥げ、所々ひびの入った四角い建物の、四階の、一番端の部屋。
締め切られた障子に映る光はない。
あそこにはもう、彼奴は居ないのだ。

記憶よりも大分楽に上れた坂のてっぺんで、ぼんやりと小さな窓を見る。
いつだったかは忘れてしまったが、何度か遊びに行った。
小さな部屋だった。
漫画を読んで、ゲームをして、寒い日には毛布を分け合い暖を取った。
団地の裏の、小さな公園で遊んだような気もするのだが、もしかしたら他の誰かと間違えて覚えているのかもしれない。

(箱が、開いてしまった。大事に大事に抱えていた、箱が、蓋を、開けてしまった。)

会いたかったなあ。
零れた言葉が地面に落ちる。
会いたかったなあ、会いたかったなあ。
最後に見たのは、何年前だったのか、もう覚えていないんだ。

なぁ、知っているか。
雑踏の中、ぽこんと湧き出る蛍火のような期待を。

もしかしたらと人混みを見回す己の眼は、もう二度とお前を映すことがないと知っているのに、探すことを止めそうにないんだ。
偶然、また会えるかもしれないなんて思うんだ。
もしかしたら、なんて、馬鹿みたいだろう。
アドレス、聞かれたのに、教えてやれなかったな。
今度は教えてやるよ、うざいぐらいの返信付きだ。

ペダルを漕ぎ、家路を辿る。
彼奴が結婚していたのか、子供が居たのか、どんな人生を送ったのか、知らないし、知りたくもない。
己の中での彼奴は、ちょっとダークな一匹狼で、年相応の悪ガキで、チーズと理科の実験と、流星群を眺めることが好きな、愛すべき変人である。
間違いなく、己の初恋であった。

薄青い月明かりで、新聞に載るしわくちゃな住所を頭に焼き付ける。
(この家に骨がある)
(仏壇があり、線香が煙をくゆらせ、遺影の中で彼奴が笑顔を浮かべている)
(これからはずっと、彼奴はこの家にいる)
(ずっと)
(ずっと)


つぶれた箱を丁重に弔い、そうして己は新たな箱を胸に抱いた。
決して蓋が開かぬよう封をして、白骨になった猫を、いつまでもいつまでも大事にしようと思う。
気付かなければ、幸せなのだから。


【こいねがう】
(後の事がどうなろうとも)(お前に好きだと言えば良かったよ)



続きを読む
前の記事へ 次の記事へ
カレンダー
<< 2011年08月 >>
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31