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忍たまsss

このお方がお前の主様になるのよ。
緊張に顔を強ばらせた齢十ほどの子供は、微笑む母の手から託された赤子を見つめた。

正直に言えば、子供は赤子が嫌いであった。
する事、出来る事と言えば乳を吸い泣きわめくだけで煩いし、いつだって小便臭い。
猿のような顔をくしゃくしゃに歪め泣く弟妹達をこぞって構う父母に、幼心からふてくされたこともある。
漸く歩くようになれば可愛さも何とはなしに理解できたが、やはり子供は赤子が嫌いであった。

御可愛らしい御可愛らしいと声を弾ませる母に話しかけられたが、子供は赤子を見つめるだけであった。
赤子は、子供の知る赤子と何一つ同じではなかった。
ぱっちりした大きな目、浮かぶ涙でとろりと蕩ける茶色の瞳、鼻を擽るあまいあまい匂い、柔らかそうな頬を桜色に染め、無邪気に微笑む赤子の、なんと愛らしいことか!

頭の先から足の先を走り抜けた衝撃に震えながら、そうして子供は全てを理解する。
物心付く前より繰り返された父の言葉、己が背負う名の重み。

『お前はお前の物ではない。私が主の物であるように、御家が主家の物であるように、産まれてくる御子様の為に生き、そうして死になさい』

柔和な瞳に鋭い光を湛えた父の声が蘇る。
子供は産まれたばかりの頼りない命をしかと胸に抱き、己が生涯の全てを捧げる覚悟を決めた。




決めた、のだが。
少し甘やかしすぎたかもしれないと、いつかの子供だった男はこっそり溜息を吐いた。
夏祭りに行きたいと言った主を一応止めてはみたが、結果は惨敗。
しくしくと涙を流し、恨みがましく泣き強請る愛し幼子。
護衛付きでよいのならと渋々妥協する男に、お前が行かないなら行く意味がないと縋られ、呆気なく負けを認めてしまった。

結果、はしゃぎ疲れた子供は男に背負われている。
肩口が湿っぽいのは恐らく涙と鼻水であろう。
赤茶の髪がさらりと風に揺れ、桃の匂いが男の鼻を掠めた。
あと二つ、季節がくれば、幼子は遠くの学園へと旅立つ事になる。
寂しい寂しいと嘆くのは着物を掴んで離さぬ小さな手の持ち主か、それとも、


【主様といっしょ】


どん、と夜空が揺れる。
漆黒の夜空に花開く光の洪水に手を伸ばし、キレイキレイと喜ぶ幼子に、嗚呼本当に綺麗だと男は眦を緩めた。


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