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忍たまsss

※いろいろ酷い


神様なんて居ないのだと気付いたのは多分五才ぐらいの時だと思う。

私の両親は一つ上の兄をとにかく可愛がった。
生まれつき色白で可愛らしく要領も良かった兄は、親類縁者、老若男女問わず蝶よ花よと下にも置かない扱いをされた。
お前の兄は普通の赤子より小さく弱く生まれたのだから、私達は護ってあげなければならないの。
ことある事にそう繰り返すのは、兄にそっくりな顔の母である。
普通ならグレそうな幼少期を乗り切れたのは、ひとえにわたしが転生者だからだ。

兄との扱いの差にむすくれるよりも、現状の把握に全神経を傾けた。
前の世で二十数年、四捨五入すれば三十年に培った常識と忍耐を総動員してようやく心が落ち着いた時には、手の掛からない子と認識され、わたしは子育てを放置プレイされていた。
勘違いしてほしくないのは、両親がわたしを愛してくれなかったわけではないということ。
ただわたしに注ぐ愛情の十倍、否二十倍を兄に注いだだけなのだ。
怨みもしなければ妬みもしない。
だって兄はそうされる事が誰よりも相応しかったから。

わたしが近所のガキ大将をこてんぱんにやっつけた傍らで、兄は歌舞音曲の先生に筋が良いと誉められていた。
わたしが泥だらけの格好で紐に結んだ秋津を空に泳がせながら野原を駆け回っていた傍らで、兄は兵法書を何冊も暗記し素晴らしい子供だとお寺の和尚に絶賛されていた。

似ていないと口さがなく噂されることもあったが、きれいな着物を着た頭の良い美しい兄は何時だってわたしの自慢だった。
だから兄を虐めるガキ大将をわたしが追っ払った。
兄を草陰に連れ込もうとする汚い暴漢の股間に思いっ切り角材をぶつけてやったこともある。
人攫いを退け、悪口を蹴散らし、母が言うとおりありとあらゆる災厄から兄を護っていたら、何時の間にか村一番の腕っ節と悪知恵のあるガキだと賞賛された。
そんなわたしを兄は好いてくれた。
ありがとうと頬を染め、自分より大きなわたしの体を抱き締めてくれた。


お前は私の一等大事だと笑う兄の声に目を覚ますと、目の前にいたのは眠たげな眼をする同級生だった。
あくびを一つこぼし、肩を鳴らす。
物騒な音だなと笑う男に苦笑を返し、隣に並ぶ。


「今日のA定唐揚げでB定は冷や奴だって。タツどっちにする?」
「わたしはからあげ。三郎は?」
「私も」


少し下にあるふわふわの頭を見下ろすと、廊下の端からばっさばっさの何かが鳩尾めがけ突っ込んできたので、その勢いを利用して思い切り投げる。
うわあああと叫びながらいい感じに飛んでいったのは、昨日の実習で引き分けた友達だった。


「ああもうチクショウ!!タツ!昼飯終わったら俺と組み手な!!」
「悪いけど今日伊作先輩に呼ばれてんだ」
「じゃあ夜!」
「ハチ…いい加減諦めたら?」
「兵助…だってさぁ…俺悔しくて…」
「手加減した方が良かったか?」
「それは絶対に嫌だ」


じょろじょろと集まる同じ色の仲間と食堂へ入り、おばちゃんから膳を受け取る。
途中別のテーブルで見かけた紫色の髪に手を振ると、嬉しそうな笑顔が返ってきた。


「良いよなぁタツは。つか、立花先輩が兄貴でどうしてそんなににょきっと伸びんだよ…」
「ハチ!」
「あ…わりぃ」
「いいさ。にしても、にょきって…わたしはタケノコか。兄さんは母さんに似たんだよ。わたしは父さんの遺伝」


もっしゃもっしゃと鶏肉を噛み締めるわたしの背に、元気の良い声がぶつかった。放っておけば声だけでなく、体ごとぶつかってくることを知っているのでわたしは急いで振り返る。


「お龍ちゃん見っけ!お龍ちゃんは今日も可愛いな!!」
「小平太!私の妹に手を出すなとあれほど……!!」
「仙蔵、食堂で焙烙火矢はダメだよ!?」
「…元気そう、だな」
「ようタツ、また手伝いに来てくれよ」
「そんな奴より俺の所へ来い、ギンギンにしごいてやる!」
「んだとテメェ!!」
「やるかコラァ!!」


俄かに騒がしくなった食堂に痛むこめかみを抑え、わたしは嘆息した。


【自己紹介を致しましょう】
(わたしの名前は立花龍です)(たちばなりょう、と申します)(残念ながら息子は付いていません)(規格外では御座いますが、正真正銘"女"です)
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