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自室から逃げ出した政宗を執務室へ押し込んだ小十郎は、主に茶でもお持ちしようついでにあの馬鹿に茶菓子でも持って行くかと思いながら日に温まった廊下をずんずん歩いていた。
麗らかな午後の話である、行く手に黒い小さな影を見つけ、小十郎は首を捻った。


「どっから入って来やがった」


乱暴な口調とは裏腹に、しゃがみ込んだ小十郎の表情は穏やかだ。
ちちちと舌を鳴らせば、人慣れしているらしい黒猫はしなやかな身体を駆使し小十郎の膝へと飛び乗った。


「俺が怖くねぇのか…奇特な奴だ」


ごろごろと喉を鳴らし本格的に居座る体制の黒猫に苦笑し、小十郎は日溜まりの濡れ縁へと腰を下ろす。


「…いい子だ、爪は立てるんじゃねぇぞ」


触られることを厭わぬ猫は、差し出された小十郎の指をぺろりと舐め、満足げに丸くなった。
にゃあとも鳴かぬ猫に些か大人しすぎる気がしないでもなかったが、まぁ獣だしな、と小十郎が頬を緩ませた、刹那。

足音もなく忽然と小十郎の隣へと現れた來海が、膝に居た黒猫を勢い良く、力一杯蹴り飛ばした。
ぎにゃあと叫び、一瞬で小十郎の膝から吹っ飛ぶ黒猫。
急な展開について行けず口をあんぐりと開いていた小十郎は我に戻り、何をするんだこの馬鹿野郎と言わんばかりに元凶の男を見上げ、再度固まることとなる。


其れなりに長い付き合いである小十郎は、來海の表情の変化についても察することが出来た。
怒り、悲しみ、寂寞、様々な顔を見たことのある小十郎だったが、今この時來海の浮かべる顔はそのどれとも違っていて、強いて言えば怒りに近いのだが、微妙に違うようで…
とどのつまり小十郎は真面目な來海、【零番隊の隊長としての雪代來海】を直に見て、その姿に少し驚いたのだ。
こいつ…いっぱしにマトモな顔も出来るんじゃねぇか、と。


「夜一、俺は止めろと言った筈だ」
「たかが猫ごときに相も変わらず心の狭い男じゃのう…愛想を尽かされるぞ」
「喧しい。三味線にするぞ」
「しかして師よ…そやつの膝は思いの外居心地が良いな」


來海を取り巻く空気がびしりと音を立て、周囲の温度がぐんと下がる。
喋る猫の出現と、いつになく真面目な來海に小十郎の許容範囲は既にいっぱいいっぱいであったが、己が猫を構った所為で何となく不味い状況になったのだと言うことは理解できた。


【生死を掛けた構ってコール】
(何だかんだで師匠好き)(最近戦国ばっかりで帰ってきてくれないし)(ちょっとぐらい良いじゃない!)


「いつになく手加減が無い!」
「俺がお前に手加減したことがあったか」
「………ないのぅ」
「此に懲りたら二度と小十郎の膝に乗るなよ」
「男の嫉妬は醜いぞ師よ」
「おい來海、結局こいつは誰なんだ…?」

「馬鹿弟子」
「アホ師匠」

「「なにおぅ!?」」
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sss小十郎side

熱くもなく温くもない浴槽に浸かりながら、小十郎はゆるりと瞼を閉じた。
熱い湯を足した為薄まっているが、この湯に來海が入ったのかと考えれば考えるほど下腹がじわりと熱を持つ。
同じ性である想う人を付け狙い、時に妄想の中で手酷く陵辱する。
爛れた欲情を抱く度に心臓を直に刺す、痺れるような甘い背徳感を、片倉小十郎は楽しむまでになってしまっていた。


己より体格の良い男相手に何をと笑われるようなことだが、來海の両腕を縛り足の間に体を捻入れ羞恥と嫌悪と快楽に歪む群青の瞳を舐め狭い後孔に高ぶりを突き立て一心不乱に腰を振る。
浅ましい、人の風上にも置けないような腐乱した思考回路から逃れる術もなく、また逃れようともせず、小十郎は自身を慰めた。


來海の衣服一式を借り、小十郎が炬燵に潜り込んだ時、來海は何やら携帯をいじっている風であった。
テーブルの上には鍋の材料と共に持ち込んだアルコールの缶が並んでいて、何本かが潰されビニール袋に入っている。


「おかえり、どうだった?」
「ああ、良い湯だったぜ。…何してんだ」
「あの娘のアドレス消してんの。連絡こねーし、何処行った何してたって五月蝿かったからな、フられたってのは気にいらねぇが丁度良かったよ」
「へぇ…」


何もクリスマス直前に別れなくても、とぶつくさ文句を垂らし新たな缶に手を着ける來海に進められ、小十郎はプルタブを開ける。
火照った体に冷たいビールは良く染みた。
時刻はすでに深夜である。
終電は五分前に発車してしまっていた。


「参ったな…」
「泊まってくか?」


常套句として困り文句を吐いた小十郎に投げられたのは、余りにもあっさりとした誘い文句であった。


「悪いだろう」
「構やしねぇさ、雪兎は朽木んちに泊まりだし、紗雪はお前んちに泊まりだってメール来たから。片倉も帰りづらいだろうしな」


アルコールのせいだろうか、普段より滑らかに動く來海の唇は赤く色付き、とても美味そうに見えた。


「髪、下ろすと雰囲気変わるな片倉」
「自分では意識しねぇが…、そう見えるか?」
「まぁ普段のオールバックも似合ってるけどよ、ふーん…成る程ねェ」
「煮え切らねぇな」
「気にすんな」


テーブル越しに身を乗り出す來海に微かな違和感を感じながらも、小十郎の思考はどうやって目の前の男を組み敷くかにばかり意識が向いていたので、致命的な失敗に気付くことが出来なかった。

例えばそれは小十郎が來海を知る前の交際関係だったり、外出する際に來海が携帯を持ち出さない日があることだったり、女の子も男もイケるバイなんて概念があることだったり、男同士のアレやらナニやらには上と下があり、主導権を握った側が握られた側を…まぁ、そんな事を深く知るわけがない元ノン気から進化した【にわかヤンデレ】の小十郎がどうなったかは想像に難くないので割愛しようと思う。





要するに、
【健全なクリスマスなんて幻想だってこと】
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sss政宗side


「鋏借りるぜ小十郎」


学友集めてのパーティー中、足りない物を借りに入った腹心の部屋に、政宗は一瞬足を止めた。
背後に気配のないことを確認し、後ろ手に扉を閉める。
途中で入ることの出来ぬよう鍵までかけて、政宗は鋏を探し始める。
ビニールで覆われたフローリングはたまに足が滑るので気を付けなくてはいけない。
鋏を探す此方を注視する何百何千の群青に、何の感慨も抱くことなく、政宗はティッシュボックスを改造して作られた小物入れから目的の物を掠め取った。


「しっかしまぁ…よくやるもんだねェ…」


携帯電話を片手にまごついていた男が、相手の携帯にお世辞にも合法とは言えない機械を取り付け、最新式のデジカメとパソコンを使いこなすようになった変化にはもはや脱帽するしかない。


小十郎があの麗しい男に抱いている恋情故の狂気に、政宗は口を出さない。
あの男の何が小十郎を虜にするのか理解できなかったが、男へ向かう狂おしいほどの葛藤と激情は肌で感じられたので、もし己が横槍など入れば小十郎の心の均衡が崩れ世間一般で言う悲劇など起こしてしまうのではないか…と言う一抹の不安があった為である。
対する相手ものらりくらりとかわしているんだか受け止めているんだか判らないような態度であるし、警察に駆け込むようなことも無いらしいので、まぁ、いいんじゃねぇの、と。


部屋の六面に飾られた盗撮写真。
政宗の通う高校の、現国教師である、雪代來海のビニールコーティングされた笑顔を踏みながら、政宗はぼんやりと考える。


常識人であるアイツの弟には、絶対に見せらんねぇな、と。


間違っても彼の弟がこの部屋に入れないように、マスターキーでしっかりと施錠しながら、政宗は己を呼ぶ複数の声に応と答えた。



【馬に蹴られる方がマシ】
(バットエンドのフラグをへし折る)(コレが結構難しいもんなんだよな)
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