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ずぞぞ、と。
小丼の汁を飲み干し、目の前を見る。
見かけに似合わず上品な仕草で自家製の白菜を口に運んだ男は、此方と視線が合うと、傷跡の残る頬をもぐもぐと動かし口内の物をきっちり飲み下してからお玉を手にした。

「鶏肉か?」
「え、あ…うん、」
「春菊も食えよ」
「あ、それはいらない」
「駄目だ、食え」
「えぇ……っじゃなくて!!」


ガスコンロと土鍋の乗る小さな炬燵を叩くわけにもいかないので、カーペットにばしばし苛立ちをぶつけると、呆れたような溜息を吐かれた。
なんだこの理不尽な感じ。


「何で!この!クリスマスに!!男二人でみぞれ鍋!?」
「まずいか」
「不味くない、全然不味くない、寧ろめちゃくちゃ美味い」
「ケーキなら鍋の後だぞ」
「わぁ、やったあ!……だから違う!!」


くわっと吠えれば、平常心を貫いている小十郎が濡れ布巾で口の周りを丁寧に拭ってくれた。


「あ、悪い」
「餓鬼みてぇだな」


くつくつと喉を鳴らす小十郎に険はなく、厳つい顔から滲む優しい微笑みに、目を丸くした。
何だよこいつ、こんな顔も出来んのか…、以外と可愛…
頭沸いてんのか俺。


「だから…何で俺お前と鍋してんの。クリスマスに。つか、何時入ってきたの、鍵閉めたのに!」
「政宗様が『悪いな小十郎、Christmasは恋人と約束しちまったんだよ』…と、お前の弟を引っ張って何処ぞに姿を眩ましたのでな…」
「待て待て待て待て!政宗の恋人、俺の弟!?雪兎か?いや雪兎はルキアとデートだっつって出掛けたから…紗雪か?!」
「二人分も食えねぇからな…明日に回すのも気が乗らねぇし、昨日フられたお前なら一人だと思って来たんだが」
「頼む答えて会話しよう片倉ァ!!」
「鍵なら政宗様が恋人から貰った物をお借りしただけだ」
「聞きてぇのはそこじゃねぇよ!」


昔はお兄ちゃんお兄ちゃんって後ろをくっ付いて来てくれたのに、いつの間にか二人とも恋人なんか作っちまって、クリスマスも家族で過ごしてたのに、御免ね恋人と過ごすからお兄ちゃんとはちょっとなんて言い出して…
頬を伝う暖かい雫に、なんだか、酷く気力が萎えてしまった。
何で同僚の片倉が此処に居るのか…とか、昨日フられたこと何で知ってるのか…とか、もう、本当に、どうでも良い。

ゴツい指先が眦をなぞる感覚に、思わず身震いした。
畑仕事を貴ぶ片倉の手はお世辞にも綺麗だとは言えないのだけれど、硝子細工に触れるような手付きに胸がきゅんとしたことは内緒だ。


「…片倉ぁ」
「なんだ」
「お前は良いのか?彼女ほったらかして男の家に転がり込むとか、虚しいだろ」
「相手が居りゃあそうだろうが、生憎俺も独り身だ」
「嘘だろおい、あんたみたいな色男ほっとく女の気が知れないよ」
「そりゃこっちの台詞だ」


色男、そう、片倉は色男だ。
渋いし、格好良いし、まぁ少し政宗バカっぽい感じはあるし見ようによってはヤーサンっぽい気がしないでもないが…そう言えば浮いた話の一つも聞いたことがない。


「政宗様の為に、と…慣れないケーキなんぞ作ってみたが…お前、甘いモンは平気だったろ?」


いつの間にか空になった鍋を台所で洗っていた片倉が、振り向き様に此方へ顔を向ける。


「おぉ、好物」


モスグリーンのセーターにジーンズというラフな格好の片倉は身長があってガタイも良い。
なのに何故今の遣り取りが新婚夫婦の一コマに脳内変換されるんだろう。


「ほらよ」


丁度良い小皿に乗せられたケーキは、見た目も味も有名店並だった。
うまうまと喰っている俺の顔を見詰める片倉は、正直何を考えているのか全く判らない。


「片倉、」
「なんだ來海」


ケーキの小皿はごちゃごちゃした棚の中で俺ですら見つけられなかった品だったし、フォークも同様、持ち主の俺が見つけられなかった物だ。
フられたのは昨日の深夜、無論これは今の今まで誰にも話していない。
甘い物は確かに好きだったが、外見とのギャップどうこう言われることもあり、面子のことも有るから人目に付く場所ではあめ玉一つでも口にしたことがない。
ついでに言えば片倉の大好きな政宗様は甘い物が嫌いだったはずだ。
そもそも、どうして片倉は顔見知り程度の同僚を名前で呼び、部屋の合い鍵を使い部屋に………


「ありがと。マジで美味いわこのケーキ」
「そうか、作った甲斐があったな」


狭くて小さな炬燵の中で、ぎゅ…と脚が押し付けられる。
何だかギラギラしている片倉の鋭い双眸に、俺は色々な物を早々に諦め、片倉お手製のクリスマスケーキをお代わりした。



【バットエンドは選ばない】
(ストーカーなのかヤンデレなのか)
(どちらにしろ死亡ルートは勘弁して欲しい)
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更新 徒然草

【何て言うんだっけこういうの】
官兵衛と見せかけて本命は小十郎。

浮気がばれる→容赦なくフルボッコでポイ捨て→小十郎の腰にへばりついて泣きながら謝罪

易々と思い浮かぶのは何故
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