金属同士が擦れ合う軽い音を聴きつつ、小十郎は泡立て器を動かしていた。
フォンダンショコラにするか、ガトーショコラにするか。
最後まで迷ってみたが、以前男が安っぽいファミレスのフォンダンショコラに偉く感激していたことを思い出し、そちらにすることに決めた。
中からトロリと流れたチョコに目を細め、薄紅く柔らかい唇の端に付着した茶色を舐めとる男の姿は、やけに扇情的でもあった。
もう一度見たいと考えるのは、至極当然のことである。
焼き上がった物に少し凝ったラッピングを施し、さて明日はどこで渡そうかと小十郎は思いを巡らせた。
教室…は猿飛や風魔が固めているだろう。
HR中に私情を挟むわけにはいかない。
ならば昼休みか…、否、追われるのは苦手だと公言する男が、押し寄せる老若男女に捕まるような真似はするまい。
政宗様に託すわけにもいかねぇしなと溜め息を吐き、小十郎は唇を引き結んだ。
夕飯にでも誘って勢いまかせに渡してしまおう、ついでに強い酒でもしこたま飲ませて押し倒すのも良いかもしれない。
たまには俺にも突っ込ませろと、小十郎は意地の悪い顔で男にとっては物騒極まりないことを呟いた。
下剋上Xday