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忍たまsss



七松小平太は好奇心旺盛な子供である。
学園の隅で見つけた大きな白梅の木の裏側、六年生でもすっぽりと入ってしまいそうな虚の前で、小平太は湧き上がる期待に胸を膨らませていた。


その場所を見つけたのは本当に偶然だった。
習ったばかりの塹壕掘りに夢中になり、気付けば辺りが紫紺に染まりだした夕方のこと。
お腹が空いたなぁと、穴の縁から頭を出した小平太は、白梅の木から出てくる二人の一年生を見た。

桃色の着物に緑色の着物の二人組は、確かあほのは組と呼ばれるクラスの一員ではなかっただろうか。
周りをはばかるようにコソコソとその場を後にした二人をやり過ごし、小平太は白梅の木へと近付いた。
表面は何ともなかったが、裏側へ回ると背の高い草に隠された大きな虚が見える。
小平太は膝を折り、その場へしゃがみ込むと虚を見詰めた。
何の変哲もない、ただの虚だ。
なぁんだ、つまんないの。
がっかりしながら立ち上がろうとした小平太の頬を、一陣の風が撫でた。


「んんー?」


風なんて、おかしいなぁ?
だってこの虚は、白梅の木をまぁるくくり抜いて居るだけの筈なのに、どうして風なんか。
太い眉を寄せ、真ん丸い目を細めた小平太は、虚の奥に広がる光景にぽかんと口を広げた。


(虚 の 奥 に 道 が あ る !!)


白梅の中では、草で編まれたトンネルのような小路が長く長く延びているようだった。
あの二人組はここを通ったに違いない、出て来るとき、とても楽しそうな顔をしていたから、この先にあるのはきっと、きっと物凄く良い物なんだろう。

小平太は今すぐにでも虚の中へと飛び込み、緑の小路を走りたくてたまらなくなったが、遠くに己を呼ぶ声がし始めたことでその日の探索を諦めた。
それ以来、小平太は白梅の木に心を奪われ続けていたのだが、虚の側には例のは組の二人が居たり、どちらか片方が居たり、なかなか近づける機会がなかった。

待つことがとても苦手な小平太の我慢が報われたのは、それから一週間後のことである。






**********************
続きます

忍たまsss




「また来たのか、ちびすけ」
「ちびすけじゃないもん!」


背後に現れた気配へ微笑をこぼし、筆を置く。
状態を捻って振り向けば、桃色を基調とした着物に身を包んだ伊作が満面の笑みを浮かべて居た。
おいでおいでと手招きすると、少し遠慮がちに、けれども嬉しそうに草履を脱ぐ。


「留は居ないのか」


行儀良く足を揃えお座りした伊作にお茶請けの大福を与え、温くなった茶を啜る。
朝から文机に向かっていたのだが、どうやらかなりの時間が経っていたらしい。
頭の真上で輝く太陽に眼を細めると、伊作が小首を傾げながら俺の目線を追うように大きな目をくるくるとさまよわせた。
ぷくぷくした手に収まる大福はいつの間にやら小さくなっていて、口の周りはあんこだらけ。

ちくしょう可愛い。

小さい子マジ可愛い。


「留さんはね、今日は委員会です」
「委員会なんか有るのか」
「ぼくは、保険委員会!」
「凄いな、じゃあ怪我したら伊作に手当頼もうかな」
「だめです!!怪我なんかしちゃだめだからね!!」


空の湯呑みを満たすついでに濡らした手拭いで伊作の粉まみれの手を拭き、口元をぬぐう。
軽い冗談はお気に召さなかったのか、柔らかい頬をぷっくり膨らませプリプリ怒る伊作にごめんなさいと少し大げさに謝れば、もう…しょうがないんだから來海ちゃんは!と許してくれた。
なんだこれ可愛い。

お兄さんぶる伊作を持ち上げ、あぐらをかいた脚の間にぽとりと乗せた。
そのまま文机へ向き直り、中途半端に放り出していた筆を取り紙へ滑らせる。
机の端に両手と顎を乗せ、興味津々に書類を覗き込む伊作の髪を撫でた。


「お仕事してるんですか」
「そうですよー」
「…ぼく、邪魔してない?」
「ぜーんぜん邪魔じゃないぞ。むしろ有り難い」
「ほんと?」
「ほーんと。いやあ、伊作が居ると捗るなー。偉いぞ伊作」


顔を赤らめ、えへへと笑う伊作に、頬が緩んだ。


【俺とたまごとお昼過ぎ】
(よし終わった!)
(終わったー!)
(おやつ買いに行くぞ伊作)
(はーい!)

忍たまsss



「おっさん、誰だ!!」
「おい誰か説明しろー、何で俺の部屋の中で見たこと無いちびっ子が我が物顔でくつろいでんだ!!」


度重なる徹夜から解放され、思うがままに惰眠を貪った日の昼過ぎ。
あくびをかみ殺し襖を開いた俺の目に映ったのは、湯気の立つ湯飲みへふうふうと息を吹きかける見たことのない幼児の姿だった。
匂いからしてミルクたっぷりのココアだろう。
俺も飲みたい。

ココアを死守しつつ俺を警戒する目つきの悪い十歳ぐらいの子供は青みがかった黒髪を短く髷にし、緑青の…なんだあれ、忍者服?を着こなし…いやあれは忍者服に着られている感じだ。
とにかく変わった格好だった。
頭巾からちょんと伸びる髷が可愛い。


「おうガキンチョ、おま…どうやって入ってきた」
「おれはガキンチョじゃねぇ!寄んなおっさん!」

なんだこれ生意気でちょう可愛い。
丸みを帯びた凛々しい吊り目がきっ…と此方を睨んでいるが、正直ちっとも怖くない。
半分以上減っていた湯飲みを取り上げると泣かれた。
うわーん返せよぅおれが貰ったんだぞおっさんのばかーあほーとぴょいぴょい飛び上がるチビに空いた手で鼻を押さえ、こみ上げてくる何かを必死に押さえた。
湯飲みを避難させ、チビを抱き上げる。


「やだやだいやだヘンタイ!ヘンタイ!はなせっはなせよばかー!!!」
「よしよし大人しくしなきゃ頭っからバリバリ喰っちまうぞー」
「やー!!」


うぎゃあああんとギャン泣きされたがシカトして頬やら腹やらの柔らかさをふにふに触っていると、泣き声を聞きつけたのだろう弟がひょっこりと頭を出した。


「あれ、兄さんおはよう」


ココア飲む?
白い割烹着姿でお玉を片手に微笑む弟に飲むと答え、固まる。
俺の脚を小さな拳でぽかぽか殴る…否、叩くチビが何時の間にか増えていた。


「やめてぇえええ留さんをはなしてぇええ!!!」


ピンクの子供用フリフリエプロンを身に付けた、やっぱり緑青の忍者服の少年は、大きな猫眼からぼろぼろと涙をこぼしながら一生懸命、それこそ生死の境目だと言っても過言ではないような、そんな表情で俺を叩いている。
酷いことしないでぇ、許してよう、止めてよぅと泣き喚く猫眼っ子の頭上で、俺に抱えられた吊り目っ子は必死にもがいている。


「いさくっ!逃げろ伊作ぅう!ここはおれがっ」
「だめだよ留さん!ぼくが代わりに捕まるからっ留さんははなしてぇええ!!うひゃっ!?やだやだっあああんはなして留さん、留さあああああん!!」
「いさく…いさくを離せぅうああああああん!!」


人の体を挟んで劇的にロミジュリってるちびすけ二人の片割れをよいしょーっと持ち上げる。
ぴきゃあああんと高い声で泣かれ、腕やら指やら噛まれてあちこち蹴られ叩かれるが気にせず頬摺りすると更に泣かれた。
穢された汚されたもうお婿さまに行けないうわあああんと、顔から出す物全部出している二人を抱きかかえ真顔で口を開く。


「おい雪兎なんだこの可愛いの拐かしたのか浚ってきたのか持ってきたのか拾ってきたのか何にしろGJ良くやったマイブラザー」
「身内が犯罪者になる瞬間を見てしまった…それ以上なにかしよう物なら刺し違える覚悟ですからね僕は」
「安心しろ性的な意味でのストライクゾーンは十代半ばからだ」
「どの辺に安心できる要素がおありで?」


泣きすぎて痙攣しだした吊り目っ子にしまったやりすぎたと弟を見れば、仕様のない人だ全くもうと呆れられてしまった。


夕飯までには帰ってきてくださいね兄さんの声を背に、開けた障子を潜り抜け跳躍する。
人では飛び上がることの出来ない高さに驚いたのか、それとも広大な庭で咲き誇る桜に目を奪われたのか。
大きな目と小さな口を限界まで広げて幼い顔全体で驚愕を示す子供へ、俺は得意満面の笑みを浮かべる。
不安定な体勢に恐怖したのかしがみついてくる二つの身体をしかと抱き留め、咲き誇る桜の合間を縫うように駆けた。
無論、枝やら何やらで子供の肌が傷つかないように配慮しながらである。
誰か俺を褒め称えろ。


土煙を上げながら足を止めた。
こぢんまりとした店の軒先で、地面を掃いていた店主が俺を見て嬉しげな微笑をたたえる。


「おやまぁ隊長じゃあないの、今日はコブ付きかい?」


あらあら目元がそっくりじゃない、この色男ー。
泣き黒子のある目元をゆるりと和らげ軽口を叩く妙齢の女に、笑いながら俺の種じゃないよと否定の意を返す。
子供を長椅子へ下ろしその間に腰を落ち着かせると、未だニコニコしながら三人を眺める店主へ幾つか甘味を頼んだ。


「甘い物は好きか」
「すき!」
「ばか伊作!」


さっきの出来事などまるっと忘れたかのようにはしゃいで手を挙げる猫眼っ子に、吊り目っ子の一喝が入る。
目に見えてめっそりした猫眼っ子は、茶色の髪を萎れさせながらごめん留さんと小さく謝った。


「まぁそう怒るな吊り目っ子、俺は雪代 來海。さっきの割烹着の兄貴だ」
「ぼくは善法寺 伊作です!」
「伊作!!」
「で、でも留さん、このひと雪兎さんのお兄ちゃんだって…」
「そんなの、嘘かもしれないだろ!」
「でも、でもぉ…」


ふええと愚図りだした伊作に苦笑し、小さな頭を撫でる。
頭蓋骨マジちっちゃい可愛い髪の毛ふあふあだマジ可愛い撫でたら笑った超可愛いなんて心の内をバラすことなく吊り目っ子を見れば、やっぱりこっちを睨んだまま困惑した様子で俺と懐柔された伊作を見比べていた。

だんだんオロオロしだした吊り目っ子は、今や敵に回った伊作と同じように涙ぐみながら、だってだってと呟いている。


「だって…おれのここあ取った…こいつ、悪いやつだもん」


どんだけココア気に入ってたんだよ。


「帰ったら新しいの作ってやる」
「……ほんとか」
「本当本当。気が済むまで毎日でも飲ませてやるから」
「なら、許してやる!おれは食満 留三郎だ!」


うそ付いたらぶっ飛ばすからなとニッカリ笑った吊り目っ子もとい留三郎に約束なと笑い返し、出来上がってきた団子を両脇の二人へと手渡した。



【俺と卵と××と】
(えええええ!!伊作と留帰っちゃったの!?何だよー寂しいじゃんかよー!!)
(ワガママ言わないでくださいよもー…また休みの日にでも遊びに来てくれますよ)
(やだやだやだやだ俺の癒やし!俺のちびすけ!くそー…、雪兎!玩具買いに行くぞ、おもちゃ!次来たときウザがられるほど構い倒してやるからな!)
(仕事しろバカ兄)




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