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忍たまsss仙蔵

※基本的に何も覚えようとしない主






「なぁ立花、いい加減機嫌を直してくれ」


まぁるく膨らむ布団の虫を何とかしろと、布団虫もとい立花の同室のギンギンから苦言を呈されたのが今から二刻ほど前のこと。
ついさっき気付いた重大な事実を教えてやろうか。
俺あいつの名前知らね。


「立花」


苦さが混じる声に布団虫がびくりと戦慄いた。
そもそも、何故俺は顔見知り程度の同級生を二刻もかけて気遣っているのだろう。
立花はい組、俺はは組、接点は委員長同士だと言うことか。
立花は作法。
俺生物。
火薬ならまだしも生物だぞ生物。
繋がりなんか毛ほどもないわ。
あれ、マジで何で俺ここにいるんだ。


「なぁ立花、なんか良くわかんねぇけど俺が悪かった。この通りだ…な?」


膝立ちで布団ににじり寄り、丸い膨らみに耳を付ける。
ぐずぐず聞こえるのは泣いているからだろうか。
立花も、泣くのか。


「きさまは…いつも私を放って」


恋人の癖に他の男といちゃいちゃいちゃいちゃ…以降は聞き取れなかった。
ぐずる立花に固まりつつ、己の頬を拳で叩く。
あ、痛いぞこれ夢じゃない。


「こ…恋人?」
「そうだ」
「誰と」
「わたしと」
「誰が」
「っ…おまえだ!!!!」


跳ね退けられた布団がギンギンの机だろう物にぶつかり、何かの帳簿が宙に舞う。
ばさばさと落ちる紙の音に頬をひきつらせた俺は何も悪くない筈だ。
え、恋人とか、何それ初耳。

泣きはらした目元に新たな涙の珠を作り、キュッと唇を噛む立花は、世辞抜きで色っぽいのだが、いみがわからない。


「いやそんなに親しくな」
「一年の夏、上級生、いたずら、もっぱん」
「…うん?」


ちらりと思考を過ぎるのは、とても可愛い女の子。
桃色の装束に身を包んだ子に群がる上級生に投げた、紙…筒…?


「二年の冬、実習、猪、」
「ちょ…え?」


絶対に俺と顔を合わせようとしなかった同級生との実習。
突進してきた猪から手を引いて逃げ…あれ?

つらつらと挙げられる一年ごとの何かしらに、朧気ながら記憶の底へ引っかかっていた思い出が浮かび始める。
そう言えば、どれも同一人物だった…ような。


「あれ全部おまえか!!!」
「私だ!!!」
「え…でも何時恋仲に…?」
「覚えてないのかこのスカタン!!中身のない南瓜頭もいい加減にしろ!!お前が…お前が私を…!!」


待て、待て待て待て待てちょっと待て何だお前何でそんなに顔赤くして恥じらってんだ私をっ…て何したんだ俺そういえば何で立花は布団に潜ってたんだ何でギンギンは三禁を守れと肩を叩いたんだ何で伊作は貝に入った軟膏を持たせて俺を殴ったんだ他の組のいけどんや図書の奴が泣かせるなよと笑ったんだ何で留三郎は趣味の悪い奴めと憐れんだんだ何で昨日の飲み会から記憶がないんだ何で背中がひりひりするんだ何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で



立花の二の腕に、肩口に、内股、に…赤い、鬱血…の……?



「責任を、取ってくれるんだろうな」



【ジーザス!!!!!】

(仙蔵も良くやるよなぁ…食らえ留三郎ギンギンサーブ!)
(酔ったアイツにこれ幸いと自分であちこち吸ったり引っかいたりしてたからな…させるかレシーブ!)
(…いいんじゃ…ないか…中在家トス)
(ま、幸せそうだし!細かいことは気にするな!!食らえ文次郎、いけどんアターック!!)
(今更だがこのチーム分け可笑しいだろ!!)


忍たまsss立花妹




丸く切り取られた空を眺め、いつものことであるが伊作は己の不運を嘆いた。
持っていたトイペはぶちまけてしまうし、やたら深く掘られた穴に引っかかってから既に数刻経っている。
青から橙、そうして紫紺へと移りゆく空の色に眉を寄せ、まぁ雨じゃないだけ幸運かと伊作は長く重い溜息を吐いた。
手入れのために外していた苦無も棒手裏剣も鉤縄も無い、ないない尽くしの状況で伊作は周囲の気配を探り、猫の子一匹居ない周りに涙ぐむ。
イヤイヤ大丈夫大丈夫そろそろ同じ委員会の後輩か同室の友が探しに来てくれる筈だから大丈夫だと己を鼓舞し、伊作は大声を上げるため口を開いて、


「ひゃぁん!!」


失敗した。


一切の兆候なしに突然現れた人物が、背後から細身だが筋肉の付いた腕で伊作を抱きすくめ、汗で湿る伊作の首筋へ鼻面を押しつける。
華奢とは言えぬ傷だらけの手が血の気を欠く程に強く伊作の装束を掴み、藤色の袖から伸びる腕が細かに震えている様に、伊作は声を上擦らせた。


「ど…どうしたの、龍ちゃん!」


女のような悲鳴を上げた羞恥など、背後で噎び泣く愛おしい後輩の前に塵とて残らず霧散する。
締まる腕の中で身体を反転させた伊作が見た物は、精悍な顔つきを涙と鼻水でぐちゃぐちゃにした委員会の後輩で友人の妹で片恋の相手である立花龍だった。


「いっ…いさ…いさせんぱ…っ…わた、わたしっ…ぅ、うわあああああああああああん!!」


兄譲りである冷静さの欠片も見あたらないほどにわあわあと泣き喚く龍に愕然とした。
ねえ、いったい誰が君を泣かせたの。
腹の底から沸き上がるどす黒い感情を押さえ込み事情を聞き出した伊作は、生きてこの学園から出られると思うなよ…と、元凶である何処かの誰かへ対し溢れ出る殺気もそのままに、珍しくぷっつんとキレた。


「男だと勘違いされて、告白されて?断ったら信じてもらえなくて下半身まさぐられた挙げ句、胸まで鷲掴まれて何で男じゃないんだって逆ギレされたの。…そう、…それ、誰に言われたの、五年?六年?あぁ龍ちゃん、龍ちゃん、泣かないで、ね?くのたまの子かな…ん?天女?…そうあの人なの。そっかそっか、あの人ね、あのクソ女…ううん天女さまね、うんうん龍ちゃんは悪くないよ全然これっぽっちも悪くないよ、よしよし大丈夫、大丈夫だよ」
「なんで…おとこじゃな…って、んな…しらな…、だって、おんなだったんだも、…わた…わたしだって、こんな、なら、おとこが…よかっ、いさせんぱっ…ぅああああああああああああああ!!!!!!」


頭一つ大きな背に腕を回し、伊作は爪先立ちで良い子良い子と龍を宥めた。
泣きじゃくる後輩は、見た目こそ完璧な美青年で声も低めで中身は大層な男前だが、可愛らしくて守ってあげたくなるような面も併せ持つ歴とした女の子なのだ。
見る目のないバカめと内心毒づく。
先程から痛いほど己へと突き刺さる多人数の矢羽根をガン無視し、伊作は手拭いを龍の顔へとあてがった。
なすがままにされる龍は、人に慣れた大型の肉食動物のようで愛らしい。


「ぼくは、龍ちゃんが女の子で凄く嬉しいな。良く気が付くし、優しいし、可愛いし、いつもさり気なくぼくを不運から助けてくれるでしょう?保健室に龍ちゃんがいるとね、花が咲いたみたいに明るいんだ」
「…いさ先輩、眼、腐ってます」
「そうやって照れるところも、可愛いと思うな。他の委員会からも羨ましがられるんだよ?龍ちゃん頂戴って。仙蔵とか小平太とか、長次も留さんも文次郎もうるさいぐらい」


泣き顔から一転した羞恥の顔で唇を噛み締め瞬時に後ずさる真っ赤な顔の龍へ、伊作はふわりと微笑み、瞳のハイライトを消した友人や後輩達に矢羽根を一つ飛ばす。
穴の縁から此方を見下ろすのは微笑みの一切を消した真顔の小平太、背後から真っ黒な邪気を漂わせる仙蔵、無言で獲物を取りだした犬猿コンビ、既に長次の姿はない。
生物委員の委員長代理は、今頃狼小屋の所だろうか。


【ダメじゃないか】
(鍛錬仲間、友人、片恋相手、優しい先輩、可愛い後輩、理由は違えど)
(ぼくらはこの子が大好きなんだから)
(泣かせるなんて…ね)
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忍たまsss

※女主


女は、物を映すことを辞めたらしい目に見切りを付けた。
耳で周りを探るも、聞こえるのは全てが壊れる音と燃え盛る炎の唸りだけ。
ならばと頼った鼻を刺すのは臭水のにおい、人の焼ける異臭、鉄錆びた血の匂い。
ああよかったと心の中で一人ごち、女は冷たくなる体を丸め刀を抱き込みいとけなく笑った。

待っていてね兄さんと呟かれた掠れ声に、赤髪の侍はぐっと唇を噛んでその場を後にした。



―――そうして、世界は反転する―――



何か居ると告げる感覚に、女は目を覚ました。
見れば、足下に誰かが蹲っているではないか、そこまで考え、女は小首を傾げた。
この対の目は潰れたのではなかったか。
眼前で揺れる胡桃色の髪に目線を合わせ、ゆらゆらと瞳を動かせば、足下の誰か、胡桃色の髪の男が勢い良く顔を上げる。


「ああよかった、目が覚めたんだね」


少しきつい猫眼を和らげふにゃりと溶けたような笑みを浮かべる見知らぬ男に、先ほど末期に見た赤髪の男が重なる。
女は無意識に胡桃色の髪の男の頬を抓っいた。
なんかムカつく、と。

ひひゃいひひゃいと…恐らく痛い痛いと言いながらも白い布を巻く男の手は止まらない。
男の肉は筋張っているが、幼さの残る故か中々柔らかい良い抓り心地だ。
作業を終えた男は困ったように眉を垂らしながらも手を払うことはせず、いじられる頬をそのまま女の好きにさせている。
正面から顔を突き合わせ覗き込んだ男の瞳は、髪と同じ、きれいな胡桃色をしていた。


「お前の所為で死に損なった。どうしてくれる」
「開口一番でそれなの!?」


所々巻かれている白い布に目を落とし、女は己の身体を動かす。
腕も脚も多少の切り傷はあるものの、青臭い香りの軟膏が塗られている。
両方とも常の動きに問題なし。
女は立て掛けられていた刀を手に、男へ問いかけた。


「治療に対しては不本意ながら礼を言おう。すまないが少し聞きたいことがある、お前は何者だ。私は京に居た、瓦礫と化した城の中で助からない傷を負っていた。なのに何故私は生きている」


突きつけられた刃を諸ともせず、男はやはり困ったような顔で笑った。
女は苦虫をいっぺんに十匹ほど噛み潰したような顔で、ああ腹の立つ笑顔だと男を眺めた。


【懐疑的初会合】
(だって、助けてって声が聞こえたような気がしたから)
(幻聴か、救いようがないな)
(えええ酷い)
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