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sss―死神の飼い方、生態編―




――――…さみしい、な



狭くもないが特段広い訳でもない部屋の畳にへばりつき、しゃんと伸びる小十郎の背中を眺めた。

よれ一つ無い着流しに包まれた、しなやかな筋肉。
筆の動きに従って、時折動く肩甲骨。
どっしり据えた腰から固い尻への鍛えられた線は、同じ男ながら惚れ惚れする程滑らかである。



少し待ってろと言われて大人しくしていたが、いくら小十郎が見ていて飽きない良い体だったとしても、そろそろ限界だ。




戦も無い冬の奥州は、非常に退屈だった。




畳二枚の距離がもどかしく、腕で体を引きずれば、ざりざりと藺草が擦れてひじが痛い。





手を伸ばし、止めた。

邪魔したら怒られる。





政宗でも誘って城下に繰り出そうかと考えて、止めた。

珍しく政務にヤル気を出している政宗を引っ張り出したりしたら、小十郎が鬼になる。





ぱちんと軽い音を立て、火鉢の中の炭が爆ぜる。

つまらない、退屈だ、寂しい、さみしい。





「小十郎、」



一分の隙もなく固められた髪が一瞬揺れるが、返事は無い。


「小十郎、小十郎ー、こじゅ、こじゅ、こじゅーぅ、片倉さーん、片倉小十郎景綱ー…」

「うるせェ」

「な、」

「黙ってろ」





何だよそれ、と続けようとした言葉は、やっぱりこっちを振り向かない小十郎に遮られた。




なんだよ、今までずっと黙ってただろ、我慢してただろ、さみしいのに、抱き着かないように頑張ってただろ、邪魔しないように大人しくしてただろ、構って欲しかったけど、我が儘言わなかったろ、なぁ小十郎……。


擦りむいた肘よりも、ぎうぎう締め付けられる心臓が痛い。





――、構ってよ。
寂しくて、ひもじくて、胸に穴が空きそうだよ。





畳の目に爪を食い込ませ、書簡憎しと念じたところで相手が振り向く筈もない。
視線すら鬱陶しいと言わんばかりに舌打つ小十郎に、わざとらしく派手な溜め息を絞り出し、立ち上がった。



構ってくれないなら、もう良い。
他のところに行くまでだ。
暇なときにでも遊びに来いと言ってくれる奴が大勢居るんだぞ、お前なんかこっちから願い下げだ。




ぐるぐる回る虚勢の言葉を飲み込んで、刺すような冷気の中へ飛び出した。




(死神は)(拗ねると手が付けられない)



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