※むくちなひつじといつかのこども・NL






ぎゅううと擦り寄る小さな子供に途方もないいとおしさを感じた。
子供といってもそのままの意味ではなく、己より年下というだけのことなのだが。
男は腕の中の存在を確かめるように力を込める。
壊さぬよう、痛がらぬよう、逃がさぬように。


「くすぐったいわユーゴ」
「すまないシェリー、可愛らしくて」
「もう、私もう27よ?」
「わかってるよレディ、だが俺はもう40だ」
「立派なおじさんね」
「ひどいことだシェリー、おじさんは心がか弱いんだ」


うふふ、と。
少女のような顔でシェリーが笑い、男は方頬を上げて応えて見せた。
甘えるように金色のつむじへ鼻先を埋める。
フローラルなシャンプーの薫りは爽やかで、女性の魅力を引き立てている。


「君が死んだら俺は泣くよ、年甲斐もなく、人目も憚らず」


でも決して後は追わないよ、くぐもった声音で独りごちる男に、シェリーは当たり前よと男の頭をぺちりと叩く。


「私もそうするもの」


でも、すきなひとはつくっちゃイヤ。
男の鎖骨に額を押し付け、拗ねた様子でシェリーは続けた。


「ユーゴ元々ゲイだから男の人はいいけど、女の人はダメ。エイダでもいいわ、クレアもよ…ああダメ、やっぱりイヤ!女の人はダメ!」
「落ち着いて、レディ」
「…女の子は一番がいいの」
「心配しなくても、こんなオジサン誰も相手にしないさ。俺の一番はシェリーだよ」


でも、私死ねるのかしら。
寂しげなシェリーの呟きに、男は困ったような微笑を浮かべる。
そうだなぁ、俺たちちゃんと死ねるかなぁ。
すでに人ではない自分達は、果して世間一般と同じような最期を迎えられるのだろうか。
それでも、と。
男はシェリーをやんわりと引き剥がし、己の手ですっぽりと覆ってしまえる小さな手を強く握りしめた。


「俺の最期には、誰でもない、君にこうしていてほしいと思うんだ」


君が好きだよ。
滅多に口にしない愛の言葉を囁けば、シェリーは頬を赤く染め、私も大好きよ、と。
かさついた男の唇にキスをした。