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sssクリスマス




他愛のない散策の途中、急かす男に此方だと手を引かれ、小十郎は小さな木の下へと足を向けた。
遠くから見ればそれなりの大きさだった見慣れぬ木の丈は存外短く、小十郎の手を絡めたままの男は腰を屈めて無理に収まっている。
頭の天辺を擽る木の葉が煩わしい。


「おい、」


早く帰るぞと続けようとした言葉は、唐突に重ねられた男の唇へと飲み込まれた。
ひやりと冷たい男の唇が、己の熱でぬくもってゆく様がなんとも気恥ずかしい。
熱を掠め取り暖まった男が身体を離す。
小十郎は見せ掛けの渋面を作り、むすっとした様相で男を睨んだ。


「人前だぞ」
「悪い」
「いきなり何なんだ」
「あーいや、この木、な」


宿り木って言うんだが、知っているか。
照れ臭そうに口ごもる男に小十郎は首を傾げた。
あまり馴染みがないと伝えると、男は目尻を赤くし小十郎の耳元へと顔を寄せる。


「師走の二十四日に宿り木の下で口付けた恋仲の者共は、生涯添い遂げられるんだそうだ」


成る程と頷き、小十郎は男を見上げた。
背に負った宵の空を丸ごと詰め込んだような群青の双眸が、涙の幕で綺羅綺羅と輝いている。
どこか満足げなその瞳に口の端を吊り上げ、小十郎は意地悪く男へ笑い掛けた。


「足りねぇな」
「へ」


目を丸くする男の襟巻きを引き下げ、わずかの間にまた冷えてしまったらしい唇へ噛み付く。
二度、三度、喰らい付き、表皮とは一転して熱い口内を貪った。
舌を絡め唾液をかき混ぜ、歯列をなぞり、思う存分堪能し、男の襟巻きを手離す。
未だに目を白黒させる男に、喉を鳴らし小十郎は笑った。


「おま…人前だってさっき…」
「そうだったか?」
「ひどい」
「非道いのはてめぇだろ。俺との仲が七世だってんなら、一度じゃあ足りねえはずだぜ」


男は白い頬をさっと紅潮させ、小さく唸り、小十郎の腰へおずおずと腕を回した。


「あと何回?」
「おい、テメェ…まさか数決めるつもりじゃねえだろうな」
「冗談だから極殺すんな」
「…さっさとしねぇか、俺まで冷える」


男は己を見据える鋭い焦げ茶の瞳をいとおしそうに眺めやり、やがてゆっくりと口唇を重ねた。



【もう、なんでもいいよ】

「細かいこと言えば色々差異はあるんだけどね」
「誰に喋ってんだ」
「ナイショ」

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