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sss死神

※主×藍


【棗】




口付けて獣のように肢体を貪る。
重なった二つの影は、数度の痙攣の後、やがてその身を乱れた敷布へと横たえた。


「今日、先生の出身で任務があったんですよ」


薄く開かれた障子の向こう、月光に照らされた雨上がりの庭土から立ち昇る青臭い薫りを吸い込み、男は気怠げな瞳を隣へと投げた。
はにかむような笑みを浮かべ、茶の髪を掻き上げた藍染は群青の双眸で続きを促す男へと擦り寄り、長く黒い髪を指に巻き付け真っ白でしたと困ったように微笑する。


「彼処には有るのは雪だけだ」
「少しばかり物悲しくなりました」
「寒くなかったか」
「はは…実は睫毛が凍ってしまったんです」
「災難だったな」
「貴方を尊敬しますよ、あの場所は…僕には耐えられそうにない」


白くて白くて、寒くて。
怖かった、そう甘えるような声音で藍染は男の片手を絡め取り、自らの頬へとあてがう。
己を見上げる視線に眦を緩め、男は藍染の頭を抱え唇を重ねた。





情事の気配を漂わせ着物を羽織る藍染がふと男を呼ぶ。
藍染が向く先に千切れたような雲の流れが消えた夜空に、まあるい月が煌々と浮かんでいる。

先生、と。
消え入りそうな藍染の呟きに、男は耳を澄ませた。
衣擦れに紛れてしまいそうなその声に、群青の瞳を細めつつ脱ぎ散らした装束へ手を伸ばす。

月が綺麗ですね。

此方を見ないままそう零した藍染に、男は目を伏せ庭の池を眺めた。
小さな水面に落ちた月は、揺らぎ歪みを繰り返し形を定かにしない。
まるで目の前の相手その物だとひとりごち、男は笑った。


「死んでもいいわ…か」
「御存知でしたか」
「あまり嘗めてくれるな」


僕が貴方を騙せる筈がない。
自信に満ちた様子で嘯く教え子の首筋を吸い、男はくつくつと喉を鳴らし藍染を見送る。
何度となく振り返り小さく手を揺らす姿が、辻の角へと消えた。


男はぐるりと首を回し、小さく息を吐く。
幾度床を共にしたのか最早覚えてなどいないが、藍染の視線に慣れることはない。
四六時中、薄青白い静電気がぴりぴりと躯に纏わりつく様な感覚に襲われ、関わるなと頭に警告が響く。
時折、焦げ茶の双眸の奥で上手に塗り固められた好意の底から滲む嫌悪の情が、男は何よりも苦手だった。



嗚呼、本当に月が綺麗だ。

意図せず音になった掠れ声に、応じる笛の音が聞こえたような気がした。






(廻る世界に堕ちる首)
(意識の途切れる刹那、見た男の笑顔)
(褥の中と寸分違わぬその笑みは)
(やはり色だけが遠い記憶の影と重なった)



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