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更新

時空迷鬼
◆はないちもんめ
【R18】


何年ぶりなのか不明ですが迷鬼更新。
そして気づいたら四周年。
中学生も大学生になる年月だよ、ワオ!
見切り発車が悉くアレしてるんで企画とかは特に考えて居ないんですが…こんなのやってみたらなど有りましたら知らせてやってください。

sss忍たま


まるで悪いものでも食べたかのようだ。
不快感の渦巻く鳩尾に軽く手を当て、龍宮乙彦は眉根を寄せた。
大木に預けた背をずるりと滑らせ、地べたへ尻を付ける。
時折こうして不可解な気持ちの悪さが乙彦を襲う。
別段暗い過去など無く、家柄も普通であり、特殊な力など皆無。
心的外傷も無い乙彦の不調の原因を良く知る保健医は、優しげな顔付きに憐憫の色を浮かべて悲しい笑みを零すのだ。
本当に忍に向かない子だ、と。


狭まる視界に荒くなる呼吸。
乙彦は膝の間に頭を抱え、見えない何かから身体を守るように小さく固く縮こまった。
寂しい、恋しい。
人の声が欲しい、人の手が欲しい、人の体温が欲しい、寂しい、寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい、
恋しい。
浅く短い犬のような呼吸音に、土を削るような音が重なり、唐突に盛り上がった土の中から伸ばされた手が乙彦の脚を掴んだ。


「なっ…!?」
「見つけたぞ乙彦!!体育委員全員集合ー!!」


大きく口を開けた塹壕から勢い良く飛び出し、ぴいひょろひょろと間抜けな笛を吹いた体育委員長を唖然と見詰める。
泥の付いた顔で何時もと変わらぬ大輪の笑顔を咲かせる己が委員長に、乙彦は乾いた唇を一舐めし何をしているんですかと口を開いた。


「なんとなくだ」
「はぁ、」


まん丸い目を細め、もう一度何となくだと言い切った小平太に、乙彦は苦笑する。
タイミングが良いのか悪いのか、先程まで己を喰らい潰さんとしていた寂寞は小平太の登場により呆気なく霧散してしまった。
足首を捕らわれたまま、乙彦は懐から手拭いを出し小平太の頬を拭う。
擽ったそうに身を捩った年上の男は、空いた手で乙彦の頭巾をぐいと引いた。


「さみしいって聞こえた気がした」


あと、わたしの名前も呼ばれた気がした。
だから後輩達みんな集めて乙彦を捜したんだぞとカラカラ笑う小平太に、乙彦は鋭く息を飲んだ。
頬がじんわりと熱を持ち始める。


「助けてって、呼んだだろ」


ずいと得意気な顔を近づける小平太に思わず頭を仰け反らせ、乙彦は己でも言い訳がましく聞こえる声で小さく呼んでねぇよと悪態を吐いた。
学園一言葉遣いと上下関係に厳しいと言われる体育委員長は無邪気さの溢れる顔を引っ込め、大人びた微笑みで静かに、力強く乙彦の頭を撫でる。
そうか、と。
零れた声の色に、頭を行き来する大きな掌。
乙彦は七松と己の間に横たわる一年と言う途方もない時を感じ、改めて適わないなと独り言た。


「細かいことは気にするな!!」


いけいけどんどんで元気になれと豪快に笑い飛ばす小平太を見詰め、こちらへ駆けてくる足音に耳を傾ける。
先輩先輩と一様に己を呼ぶ小さな姿へ泣きそうな表情を向けた乙彦は、刹那の間にお決まりの気怠げな面へと顔を塗り替えた。


「しょうがないですねえ七松先輩、今日は特別に果物の飴をあげますよ」
「おお!じゃあ林檎が良い!」
「林檎は売れ切れました」
「じゃあ葡萄!」
「葡萄は家出中です」
「……苺」
「苺は反抗期なんで」
「おまえ…」
「橙あげますよ」


俺、橙好きですから、特別にお裾分けしたげます。
がぶりとかじられた指先から伝わる微かな痛みと多大なる熱に、乙彦はくつりと喉を鳴らした。




【イカロス症候群】
(あなたはまるで)
(太陽のよう)


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sss忍たま



龍宮乙彦は基本的に面倒臭がりの人畜無害なお人好しである。
特徴が無く記憶に残らなそうな普通顔の中、眠たげに細められた双眸でぼんやりと虚空を眺めている。
サラストとは程遠いが、髪結い忍者であるタカ丸のセンサーには引っかからない質の、長くも短くもない黒髪を引っさげたやる気のなさそうな五年生。
それが龍宮乙彦である。


「乙姫はあれだな、もっと委員長であるわたしを敬うべきだな!」


そう言って向日葵のような笑顔を浮かべる七松小平太に肩を叩かれ、五年も一緒にいて未だに名前を間違うような先輩を尊敬?冗談キツいっすよ七竈先輩ーと乙彦は無感情に軽口を返した。
青筋を立てた七松の手が出る前に姿と気配を消し、木々伝いに逃げる。
七松は野生の獣さながらな嗅覚と身体能力で体育委員長代理である五年生を追うが、乙彦とて伊達に五年も暴君の配下的位置に立っていない。
元気の有り余る小平太を香木や香り袋で散々誤誘導し、己は悠々とお気に入りの大木へ身体を横たえた。


「副委員長!」
「滝夜叉か」
「滝夜叉丸です」


また委員長と追いかけっこをしていらしたのですかと問い掛ける後輩に気怠げな笑みを返し、乙彦は枝を降りた。


「七松先輩も、暇になったからってちょっかい出すの止めてくんねぇかな」
「…龍宮先輩が乗るからですよ」
「姫姫言われると頭に血が昇ってなぁ」
「そうは見えませんが」


端から見ると暴君相手に自ら寿命を縮めるような命懸けの鬼ごっこだが、当人達にとってはただの軽いじゃれ合いでしかないことを知っているのは、今のところ体育委員会だけである。
体力の有り余る小平太が六年の面々を組み手や鍛錬に誘う気配を見せると、小平太の無茶苦茶度合いを理解している彼らは蜘蛛の子を散らすように姿を消す。
一人で行う鍛錬など高が知れているし、忙しそうな先生方に頼むわけにも行かず、じゃあ後輩で我慢しようと自己完結した小平太が乙彦へ突っ込んで行く様子は滝夜叉丸にとっても最早見慣れた光景となっている。

私が一年の時からだものと内心で苦笑をこぼした滝夜叉丸は、大体中在家先輩が余計なことをするから、と愚痴りだした乙彦に相槌を打った。


「浦島太郎読んで、後輩の俺の名字が龍宮、名前が乙彦だから『お前は竜宮城の乙姫だ!』なんて…安直だよなぁ」
「姫…は流石にあれですが、浦島太郎と絡めたくなる七松先輩の気持ちも判ります」
「…俺達、奇跡の五はだからな」


五年は組。
例年に漏れず実戦経験豊富で、身体能力や戦闘能力だけで見ると六年に並ぶとも勝るとも言われる彼らの名前は、学級委員長を務める浦島麟太郎を始め皆一様に海の仲間に関係する。
入学時、たまたま揃ったそれらしい苗字の新入生が学園長の思い付きで集められただとか、組編成をした安藤先生が質の悪いギャグとして集めたのだとか諸説有るが、未だに正解は判らない。
とりあえずその年の【は組】は何となく魚臭い、良く言えば潮の香り漂うメルヘンな組となったのである。


「名前関係で未だにからかってくるのは七松先輩ぐらいだろ」


まったく…六年だってのになんであんなに大人気ないんだ。
げんなりと溜め息を吐く乙彦に、滝夜叉丸の口からはくすくすと笑い声が漏れた。


「委員長は、副委員長が大好きなのですよ」


私たちもですが。
そう付け加え、凛々しい顔つきを緩めほんのりと頬を染めた滝夜叉丸の頭を頭巾ごとやしゃわしゃと掻き回し、乙彦は己の懐から取り出した飴を後輩の唇へ押し付ける。


「あーんしろ。ほら、」


乙彦の指先から怖ず怖ずと飴玉をくわえた滝夜叉丸は、相も変わらず細められた双眸の中に宿る暖かな色を見つけ、密かに胸を高鳴らせた。


「俺も大好きだよ」


甘いのは、飴か、それとも、



【ぼくらの乙姫さま!!】

「ずるいぞ乙彦!わたしにもあーんして!!」
「あーん」
「んむっ…なんだこれハッカじゃないか!!」
「吐き出したら食堂のおばちゃんにチクりますよ七竈委員長」
「むーっ!食べた!!もっと!!ハッカ以外!!」
「残念ですが…委員長用はハッカしかありません」
「なんだとぉ!!」

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