人と人との関わりとは、時折、何故こうも煩わしく思えてしまうのだろうか。
深く封じられた屋敷の奥。
身内すらも絶えて近寄らぬ薄暗い部屋の中、來海は眼前に平伏す男を感情の籠もらぬ瞳で見据えていた。
白い羽織を纏う男は座敷に入るや否や膝を合わせ、畳に手を着き、額を藺草に擦らせたまま面を上げる気配すらない。
時折震える肩と乱れた呼吸が、伏せる男の心情を如実に吐露していた。
喜助、と。
淡い吐息が宙に溶けた。
喜助と呼ばれた男は短く息を詰め、そこでようやく上体を起こす。
くぐもる声音が語った長い話のあいだ微動だにせず、呆けたように虚空を眺めていた來海は弱々しげな視線の焦点を喜助へと合わせ、何か言いたげに二三度口を開いたかと思うと、それきりむっつりと押し黙ってしまった。
「せんせい、」
「…もう…いい、何も…」
聞きたくない。
悲痛を滲ませた喜助の呼び掛けに被さる來海の唸りには、ありとあらゆるものへ対する諦めと悲しみを孕んでいた。
せんせい、せんせいごめんなさい、せんせい、ごめんなさい、ごめんなさい。
呪詛のように繰り返される謝罪に、來海は情けなく眉を垂らして微笑む。
「 」
ただひたすらに頭を下げる喜助の背を見送り、薄闇の中で來海は静かに瞼を閉じた。
七割の絶望と二割の愛情と一割の自己犠牲
(ねぇ喜助)(俺はね、)(おれは、)(“塵匣”じゃ)(ないんだよ)