※グロい




左様なら、先生。
背後から抱き締められ、睦言のような別れの言葉が耳に届くや否や、男は短く疑問の音を出した。
胸の辺りに生える鋼。
早まる鼓動に、高ぶる熱。
熱くて熱くて堪らない。
教え子の名を呼ぶために開かれた薄い唇から、鮮血が滴り落ちた。


柔らかく微笑む教え子は、人好きのする瞳を弓形にし、男の抵抗を封じる。

遠のく意識に美しい顔を歪めた男が最期に見た物は、ぬらりと光る刃が自らの首を斬り落とす刹那の間であった。


重い物が落ちて転がるような音の後、大柄な身体から深紅の飛沫が上がる。
美しい光景だと、教え子は唇を緩めた。
落ちた首の髪を鷲掴む。
ぶらりと揺らせば、涙の膜が張る群青の瞳が揺らいだ。
あなたは本当に美しい化け物だった。
教え子だった男は、眼前にぶら下げた男の首へそっと口付けると、それきり興味を無くした風に無造作な仕草で首を放り捨て、やがて踵を返すと姿を消した。















「まったく、羽織をこんなに汚してしまって…どうなさるおつもりか」


男が去ること数刻後。
どす黒く染まった地面に転がる首のない躯へ小言を零し、夜月 朧は棄てられた首を恭しく抱えた。
頬の土を優しく払い、唇を彩る赤褐色を手拭いでこする。
聞いていらっしゃるのですか隊長殿、説教の気配が色濃く漂う朧の声音に、腕の中の首が身動ぎ微かに呻いた。


「耳元で騒ぐな、聞こえてる」


洗濯屋ぐらい雇えないのかと眉を寄せた男の首は、音もなく立ち上がった躯に引き取られ、元有った場所へとぴたり合わさる。
ぐちゅぬちゅと湿った音で肉と肉が繋がる様を見詰め、朧は真白い羽織を男へと差し出した。


「義骸は」
「此処に」
「葬式は」
「明日には」
「藍染は」
「変わりなく」


第一段階終了かと呟く男に、朧は小さく頷いた。
いってえなチクショウ。
吐き棄てられた主の悪態に、従者は唇を引き結ぶ。
損壊はどれ程かと尋ねる朧の声が伝える憤怒に、男は口の端を吊り上げて嘲笑った。



【叛乱前夜】
(跡形もなく吹き飛ばすべきだったのだ)
(もっとも、甦らないとは言い切れないが)