とりっくおあとりーと。
真面目な顔を崩すことなく舌足らずな発音でそう口にした小十郎に、男は目を丸くした。
どうしたのと返す男に素っ気なく相槌を寄越し、小十郎は男の隣へと腰を下ろす。
橙に滲む空へ視線を向けたまま黙りこくる小十郎に、男は眉尻を下げ、笑う。
珍しいな、何がだ、だって小十郎が。
「…悪いか」
「悪いわけ無いだろ」
くすくすと漏れる笑い声に、気を悪くしたのだろうか。
隣から聞こえた鋭い舌打ちに男を盗み見れば、少しだけ赤みを帯びた耳が見えた。
「政宗から聞いたのか」
「まぁな」
「お菓子が欲しいの、」
それとも、と。
微笑みながら、男は小十郎の肩に手を置き、柔らかく力を込めて畳へとその身を倒す。
「いたずらして欲しいのか」
馬鹿言え。
少し間が空いて吐かれた悪態とは裏腹に、背へ回された二本の腕がこそばゆい。
男はほのかに汗のにおいがする小十郎の首筋へ唇を寄せ、いただきますと冗談混じりに呟いた。
【Trick or 右目!!】