おなかへったね。
ジャローダ。


くるると鳴る自分の腹を押さえ、ブラックは澄まし顔の相棒をちろりと眺める。
気位の高い彼は何ともない風を装っているが、昼夜問わずの野戦特訓によりトレーナー共々寝食を忘れ、丸1日何も口にしなかったパートナーの空腹度合いは推して知るべしというものである。


足下をふらつかせながら洞窟を出たブラックと、その隣をどこか危なっかしげな体さばきで進むジャローダが森の異変に気付いたのは、鬱蒼とした木々の間に光を見つけた時であった。
比較的町に近い、と言うよりも街の隣に位置していた森故に、森の出口=街の入り口なので、少し目を上げれば建ち並ぶビルの群や行き交う人の波が見えるはず…なのだが。

「畑、だね」
「ジャロ…」

何故かブラックの眼前には見渡す限りの野菜畑が広がっていた。
しかも。

「豊作だ…!」
「ジャロー…!」

たわわに実ったトマトや、はちきれそうなトウモロコシ、丸くてビリリダマサイズのスイカ、みずみずしいキュウリ…無表情チャンピオンと名高いブラックもうっかり煌めいた表情になってしまうほど、とにかく豊作だった。

ブラックとて馬鹿ではないので、この美味しそうな野菜達が野生で育った物だとは思っていない。
丁寧に耕された土と雑草一つ無い畝は、この畑の持ち主が丹精込めて手入れをしたからに違いない。
勝手に食べては駄目だ。
とにかく空からでも街を探そうと、ブラックが体を反転させた刹那。


「おいお前、そこで何をしている」


聞いたことのない男の声に、イッシュ地方の最年少チャンピオンはびくりと肩を震わせた。
野菜を盗んだわけでもないのに何故か悪いことをしたような気分になり、何かを振り上げた男の行動に意識が一瞬遅れてしまった。

ぎん、
堅い物がぶつかり合うような音と共に、ブラックの頬を風が撫でる。
細長い剣のような棒でブラックを叩こうとしていた男は、割って入ったジャローダの尾と交わる剣のようなものを見、かっと目を見開いた。
ふん、とジャローダが鼻を鳴らす。

「ジャーロ、」

高らかに上げられる声を言葉にすると、恐らく『僕のブラックに手を出すの?ふぅん…キミ、絞め殺すよ』あたりだろうか。
ちなみに学校大好きな某風紀委員とは何の関係もないので、悪しからずご了承頂きたい。


なかなかに好戦的なパートナーへ苦笑いを零したブラックは男へ視線を投げ、彼にしては珍しく驚愕の表情でバッ…!!っと背後のジャローダを振り返った。
――何してるんだ…!!
少し吊り上げたマロンブラウンの瞳でジャローダを問い詰めれば、だってお腹空いたんだもんとマイペースな空気を返される。
もっしゃもっしゃ口を動かすパートナーに、ブラックは額を押さえ天を仰いだ。



【意図せず野菜ドロ】
(素直に謝ったらたくさん野菜を貰った)
(迷子だと告げたら広い家に連れてってくれた)
(あれ…?知らない人に物を貰ったり付いて行くなってチェレンに言われてたような……?)


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途中で力尽きました。
最初は、畑から煙が上がってて慌てて駆けつけたら堂々とトウモロコシ焼いて喰ってるブラック御一行VS極殺とか考えていたんですが…
気に入らないので消すかもしれません。