黄色い目をした自分が指をくわえて、恨めしげに瞳を潤ませる。
振り返らない背中を、ほしいほしいとぐずりながら。



【臆病者讃歌】


あの人に可愛いなって言われんのが好きだった。
あの人のカンセーはどっか人とずれてて、例えば俺をかわいいなんて言うのが最たるもんで。
バカみてーにあの人の後ろくっついて走る俺と直斗とりせがヒヨコみてーだって花村先輩にからかわれたときも、じゃあ俺は鶏かなんて言いながら俺らの頭グシャグシャにしてキレーな顔で笑うんだよな。
灰色の髪の毛とおんなじ色の目が優しく歪んでよ、可愛いなって、笑うんだよ。
たまんねぇだろ、そんなんされたらよ。
訳わかんねーぐらい顔熱くなって、やめてくださいよなんてかわいくねぇ返事する俺に、センパイは優しく笑うだけでよ。
好きになっちまったんだよ。
わりぃかよ。
命救われて、全部受け入れてくれて、なんだろうな、とにかく惚れんなってのが無理な話だろ!
長ぇ刀引っ提げて前だけ見て進んでく背中とか、いちいちかっけーんだよ!
振り返んねーんだぞあの人、ゼンプクノシンライ置いてんだぞ俺らに!
それに応えなきゃ男じゃねぇ。
俺もりせも、里中先輩も天城先輩も、花村先輩とクマはどうだったか知らねぇけど皆あの人に惚れ込んでた。
伸ばされた手の中であの人が選んだのは直斗だった。

まぁ、複雑だったっつーか、惚れた女が惚れた男とくっついて、あいつにならあの人を任せられるとか、あの人ならあいつを幸せにできるとかぐちゃぐちゃ考えて、諦めたんだよ。
どっちを?
聞くなよンなもん。
悔しかったか?
だから聞くなっつの。
……ああ悔しかったよ、俺が女ならってな。
俺だったかもしんねーだろ、あの人の隣で笑ってよ、飯なんて食わしてもらってよ。
じゃなきゃ直斗が男なら……やめだやめだ、女々しくてしょうがねぇ!
……惚れた女に妬くぐれぇ、あの人は特別だったんだよ。



間違えちゃったんだね、と影が笑う。
次は間違えないようにしようね、完二クン。
大好きな人に大好きって言わなきゃね。
ボクは君、君はボク。
くるくると回りながら、歌うように影は続けた。
次なんてねぇよ。
膝を抱えて小さく踞る青年に、影はただただ楽しそうにくるりくるりと回り続けた。





(ループ、ループ)
(前回のデータを引き継ぎますか?)
(クリアデータを引き継ぎました)



先輩!
聞き覚えのある声に呼び止められ、瀬田総司は足を止めた。
廊下をバタバタと駆けてくる長身に走れば怒られるぞと苦笑をこぼす。
案の定叱られてしまい、不貞腐れ気味に唇を尖らせる後輩の頭を撫でた。
顔を赤くし、やめてくださいよと言いながらも撫でる手を止める気配のない完二を率直に可愛いと思った。
なるほどこれがギャップ萌えか。
誰から聞いたのかは忘れてしまったが、このくすぐったいような気持ちが正しくそうなのだろう。
例えば悪ぶっている後輩が、ヒヨコみたいに先輩先輩と自分を慕っているところとか。
例えば怖い顔で自作の編みぐるみをこそこそと見せに来ては、誉められると得意気な様子で子供のように笑うところとか。
男に使う言葉ではないかもしれないが、完二は仕草の一つ一つがやたら可愛い。
稲羽の暴走特急と名高い完二も、瀬田の中ではりせや直斗と同じく可愛い後輩の一人であることに変わりはない。
だから、 


「どうした?」
「あー、ちっと、話があって……」


いっスか。
ちらちらと視線を泳がせる完二にこの場では言えないことなのだろうとアタリをつけ、小さく頷いた瀬田は屋上へと足を向けた。




【おくびょうもの、参加】