からを破って飛び出した外界は、卵の中で思い描いた想像よりも、ずっと、ずっと優しくない世界だった。


「なんだ、また外れか」


ボールを手にした少年の呟きに、リオルは膝を抱えた。
帽子を被った少年の掌から、落胆と、困惑と、不満と苛立ちが色濃く混じる波導がまざまざと伝わってくる。
小さな箱をいじり始めた少年に、リオルは暗い目を向けた。
リオルは自分の名前を知らない。
かつて親だった人間の顔も、いつしか思い出せなくなってしまった。

もう何度人間の手の中を行き来したのだろう。
ちかちかと光る機械の中を飛び回り、あからさまにがっかりと肩を落とす人間に舌打ちされ、そうして外に出ることもなく、また違う人間に宛がわれる。
いつだったか、同族とそのトレーナーの所へ送られたことがあった。
二匹も要らないとため息をつく人間の横に立つ同族は、憐れんだ瞳でリオルを見ていた。


「次はいいやつがきますように!」


無邪気な少年の声を子守唄に、リオルはきつくまぶたを閉じ、耳を押さえる。






【目が覚めたら幸せがありますように 】









「なあ、お前の名前、何て言うんだろうな?」


ケロマツ、知ってる?
浅黒い肌の少年は、傍らに侍るパートナーへ視線を投げた。
けろりと鳴いて否定を示すケロマツの頭を一撫でし、少年は修理中の図鑑へ思いを馳せる。
旅立ち初っぱなアクシデントにより石畳に叩きつけられた上、サイホーンに踏まれた少年の図鑑は明日代わりが届くらしい。


「自己紹介、早く出来るといいな」
「ケロー」


噂のミラクル交換により、つい先程仲間となったばかりの青色のポケモンは、どうやらぐっすりと眠っているようだった。
エクスは口の端を緩め、手のひらのボールを大事そうに胸へと抱えた。