※銀女医
※短い







ドクター!
己を呼ぶ声に思考を手繰り寄せた。
考え事をしているうちに、遅れてしまったらしい。
少しばかり先でぶんぶかと腕を振る神楽に手を振り返し、女は隣を歩く男へと視線を向けた。
男は気だるげな紅い瞳を眠気に潤ませ、片手に重箱の包みを持ちながら女の歩幅に会わせるようゆったりと歩いている。


「せっかくの休みなのにわりーな。ガキ共がどーしてもっつぅからよォ」
「いや、丁度花見をしたかったところだから」


そうか。
くつりと喉を鳴らした男に苦笑を溢し、空を見上げた。
澄み切った青空に千切れ雲が流れている。
視界の両側を占める桜とのコントラストが、酷く綺麗だった。
男の空いていた片手がするりと女の手を絡めとり、隙間なく繋がれる。
女はさして驚きもせず捕らわれた手に力を込め、照れ臭そうに頬を掻いた。


「なぁ、」
「うん」
「…結婚、しねぇ?」
「うーん、」
「そこは即答しろよ」


そうだなぁ、お決まりの困り顔で笑った女は、繋がれた腕を思いきり引き寄せ、そしてーーー



【ふたりぼっち+α=幸せ】