柔らかな陽光が木々を通り、地面へと光をちらつかせている、とある日の午後。
高い樹の枝に腰掛け、眼下の縁側に寝そべる己が主とその良人を眺めつつ、小太郎は小さく息を吐いた。
心地好くないであろう硬い股に頭を乗せ微睡む主の顔は、穏やかな様相を浮かべている。
対する男も、膝の重みなど感じていないかのように書をたしなみながら、主の長い黒髪を手櫛で弄っていた。
流れる風と、鳥の囀りだけが、その場の音であった。


そうして暫くの後、主が目覚める。
男は急須から主の湯飲みへ茶を注ぎ、主は寝ぼけ眼に湯気の立つそれを一息で煽る。
案の定舌が堪えきれなかったようで、群青の眼を白黒させながら噎せた麗人は男に背を擦られていた。


成る程これは夫婦に相違ない、と。
己を手招き呼ぶ主の元へ降り立った小太郎は、差し出された白い湯飲みに首を傾げる。


「一緒にお茶しよう」


お前の分だと素っ気なく告げた竜の右目は、存外に世話焼きである。
小皿に取り分けられた小太郎の好物の漬物が如実に物語る事実をぼんやりと認識し、小太郎は主の手から湯飲みを受け取った。


おい風魔胡瓜か蕪か白菜か、俺は大根の甘酢漬けが良い、お前は後だ、なにそれひどい。
応酬されるやり取りを尻目にぽりぽりと小梅をかじり、茶をすする。
小田原に仕えていたときもこんなことがあったような、と。
程好い塩梅の白菜へ伸ばした小太郎の指が、向けられた視線にひたりと止まった。


「美味いか」


常よりの強面から尋ねられたそれは、問いかけと言うよりは確認のようで。
音もなくこくりと頷いた小太郎に、そうか、と。
右目は鋭い双眸を細めて唇の端を緩めた。



【これもひとつのあいのかたち】
(どうしようもなく暖かな想いが胸を覆う)(これは、何だろう)(愛されているような)(包まれているような)(あたたかな)(気持ちが)


情愛ばかりが愛ではない、と。
誰かの言葉が浮かんだ気がした。







あなたのしあわせがわたしのしあわせなのです