スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

ばんかのかがみ ザビ夫×徐庶

※リサイクル




ステンドグラスが割れた。
甲高く澄んだ破裂音の中、風をはらんだ蒼い外套が視界を埋め尽くす。フォーカスが定まり、揺らぎが消えて。


「ええと、君が俺の主君なのかな」


細かな硝子片のスターダストが、綺羅々々と目前に佇むその姿を彩る。分厚い服の上からでもよくわかる鍛え抜かれた体躯、グローブを嵌めた手の中に輝く一振りの剣。

フードの下、男の目が自分を射抜いた。

深淵へと誘う燈籠のような瞳の色が、倒れ伏す自分へと注がれ、そうして岸波白野の全ては男に囚われたのだ。心臓を素手で抜き取られるような衝撃に我知らず胸元を握り締め、口内に溜まった唾液を飲み下した。



【ばんかのかがみ】



「ええと白野、君、それ本当に食べるのかい」


ただでさえ幸薄そうな顔を更に幸せから遠ざけたアサシンに、手元のプラスチック容器を近付ける。食べたいのならと蓮華で掬われた一口から大袈裟に身を引き、薄幸のアサシンはひいっと短い悲鳴を上げた。


アサシン、それは失礼だ。大体これはアサシンの故郷の味、お袋の味だろう。

「君の知識には偏りがあるな。母上はそんなもの作らなかったよ…」


与えられたマイルームの端っこに体育座りで陣取るアサシンは、フードの下から恨めしげな目を赤く煮えたぎる麻婆豆腐へと向けた。この後に魔力供給があるのに、と嘆く彼だが、サーヴァントなのだから唇の痛みとてそうは長く続かないだろう。アサシンは繊細だなと呟けば、痛みを痛みとして捉えている時点でそれは食べ物ではないときっぱりした答えを返されてしまった。そこまで警戒されると悲しいものがあるが、以前興味津々といった風に口を開けた彼を結果として裏切る事となってしまったのでしょうがないのだろう。顔から出せるものを全部出してごろんごろんのたうち回る巨体に、流石の岸波白野もやっちまったなと反省したものである。


そんなに痛いのか

「…地味にね」


ため息を吐き、いかにも憂鬱だと言わんばかりに膝を抱えるその態度に、鈍感と名高い自己の胸中にもほんの少しの罪悪感が沸く。
食べ掛けの麻婆に蓋をして、ミネラルウォーターで口をゆすぐ。リンから貰ったレモンの飴を封切り、口へと放り込んだところでアサシンがこちらを見ていることに気がついた。恐らく微かな甘い匂いを嗅ぎ付けたのだろう、なんだか犬みたいだなと考えて、少し笑ってしまった。
暫く舐めてからアサシン、と呼べば、緑のフードがぱさりと落とされる。好き勝手跳ねた真っ黒な癖っ毛を、頭の形をなぞるように撫でれば、アジア系の精悍な顔が上を向いた。アサシンの手に導かれるまま唇を重ね、湿った口内へと舌を差し込む。いつもとは違う甘さに、アサシンは終始一貫して機嫌が良さそうだった。
ちゅくちゅくとふやけるまで魔力を吸われ、サーヴァントの食事は終わる。が、物欲しそうに焼きそばパンを見ているので、やはり足りないんだろう。びり、とビニールを開けて手渡すと、途端嬉しげな様子でかぶりつくのだから、霊体らしからぬ霊体である。


「ああ、いや、足りない訳じゃないんだ。ただ、癖で…」


ほら、空腹だと悲観的になるだろう?
無精髭の散る頬袋に詰め込んでもっしゃもっしゃと幸せそうに花を飛ばすアサシンへ『きなこみるく』を差し出し、残りの麻婆へと蓮華を伸ばす。美味しい美味しいと喉を鳴らす見た目によらず甘党なアサシンに全くだと頷き、同じものを啜った。
前の記事へ 次の記事へ
カレンダー
<< 2015年02月 >>
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28