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ss死神


(大切なもの)
(なんて)
(そんなもの)


はふんと一つ怠惰な息を吐き、野良姿の麗人は曲げ通しだった腰を伸ばした。
骨の軋む音に眉根を寄せ、少し離れた場所へと目をすがめる。
似た格好の、否、全く同じ、御揃いである野良着に身を包む男が、鍬を降り下ろす様が見てとれた。


可愛いだろう、と。
誰にともなく呟かれた筈の独り言は、やや呆れを含んだ声にあしらわれ、蒼く澄み渡る晴天へと溶けて消えた。


「…惚気は耳に蛸ですよ兄さん。小十郎さんを自慢したい気持ちもわかりますが」
「なら黙って聞け」


唐突にぽかりと開いた不自然極まりない亀裂から頭を出した青年へ、男は機嫌を損ねたように唇を引き結ぶ。
青年はやれやれと言った相貌で男をいなし、土のこびりついた白い手に紙束を握らせた。


「例の医者ですが、契約通りに我が隊へ引き入れました。秘密裏に四番隊隊長への技術提供を開始し、見返りとして尸魂界での医療技術の体得も同時進行させています。霊力は申し分無く、報酬などはつぶさに別途資料へ記載してあります」
「お、あのセンセ漸く此方に来たか」


小さな顔写真をぱしりと爪弾き資料を捲った男は、給与の欄に目を通し、相も変わらず欲の無い奴だと傍らの青年へ苦笑した。


「よく頑張っていらっしゃいますよ。設備も器具も充分に揃えました、心得の有る者も付けましたので後は本人次第でしょう」
「こればっかりは慣れてもらうしかねぇからな。で、三バカはどうしてる」
「どうもこうも」


きな臭さに鼻がイカれてしまいそうですよ、と。
色の入った眼鏡を押し上げ、珍しく苦渋の色をちらつかせた青年に、男は軽く相槌を打つ。


「"俺の箱庭"は誰にも崩させない。誰にも…、な」


遥か頭上を旋回する鳶が鳴き声をあげた。
土を耕す音が止み、男は口の端に笑みを乗せる。
汗一つ滲まぬ男の頬を柔らかく撫でるように、一陣の風が吹き抜けた。



【全ては零になる】
(崩壊への秒読み)





「おい來海、怠けんじゃ…、雪兎か!」
「御無沙汰してます小十郎さん。あ、これお土産です」
「いつも悪いな」
「いえ、好きでしていることなので…ええと、種の無い西瓜の苗と、南蛮の野菜と果物の種です」
「助かるぜ。ああ、枝豆と唐黍と胡瓜あるから持っていきな」
「わぁ、僕小十郎さんの唐黍大好物なんです!」


「…仲良いねお前達」
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