至る所でどくりどくりと血潮がまわっている。
手足は熱く火照り、胸の内にはえもいわれぬ感覚が渦巻く。
ふわふわと柔らかな綿が、外界と己とをさりげなく、けれども明確に隔離しているようであった。
いい気持ちだ。
飲み慣れぬ名の洋酒を注いだ猪口を傾け、來海は怠惰に呑まれる身体と裏腹に冴え渡る思考を巡らせた。
とめどなく流れる想いを探り当て、一片を掴まえ、また離す。
何が面白いのか幼子のようにふくふくと微笑みながら肩を揺らし、ああでもないこうでもないと遊ぶ來海を、湯上がり然とした格好の小十郎がぴたりと止めた。
「随分楽しそうじゃねえか」
「ん?んー…よっぱらった」
珍しいこともあったもんだ、と。
浴衣の裾を大きく割って脚を出した小十郎は、下帯の見えるをもはばからず來海の隣へと腰を下ろす。
かなり酔って居るであろうと見当を付けた來海の付近を見れば、琥珀の液体で満たされていたはずの容器の中身が、半分以下に減っている。
「政宗がね、くれた。呑んで良いぜーって」
「かなり強いから気を付けろとも仰っていたがな」
「だっけか」
「ああ。…歩くだの何だの前に立てそうか」
「むりかも」
しかたねぇ。
呆れたように眉をしかめる小十郎が盛大なため息を吐いた直後、大柄な來海の体躯が、ぐいと持ち上げられた。
「巣に帰してやるよ、酔っぱらい親爺」
「…もしかして、かたじけなかったりするんだろうかこれは」
「大いに有り難がるんだな」
「おー、崇め奉ってやろう。ついでに添い寝して」
「馬鹿野郎、」
軽口に返される、じゃれた拳を頭のてっぺんで受けとめる。
白い湯気の上がる腕が、いまだじんじんと熱を持つ肌に合わさり融けてしまいそうだと來海は思った。